懸念される円高・株安
本邦資本筋の動きに注目
G5によるドル高是正合意(1985年9月のプラザ合意)で、足早にドル安円高が進む中も、わが国ではバブルの宴が続き財テクの言葉に浮かれた対米証券投資が盛んだった。
1990年代に入り、バブル崩壊が顕在化するが、同時進行的にドル安円高が加速し、95年には当時の歴史的円最高値となる79.75円を示現した。この間バブル崩壊で株価が暴落したのは広く知られるところである。
バブル崩壊で資金繰りに追われた企業や機関投資家が対米投資の撤退を余儀なくされる中、対米投資の為替ヘッジ(ドル売り円買い)を進行させたことが背景にある。
最大の対米黒字国日本が本格的に貿易収支改善に乗り出さなかったことが当時の米大統領クリントンを苛立たせ、円高カードが切られたことも円高に拍車を掛けた。
当時日本政府が懸念したのは急速な円高による対外競争力の低下による輸出減と景気低迷である。
日本企業は生産コスト削減のため、こぞって東南アジア諸国等に生産拠点を移した。所謂産業の空洞化現象であり、本格的な日本経済の衰退が始まった。
2000年代に入っても円高の波は収まらぬまま、ドル円の二桁相場が常態化し、円高・デフレ脱却を公言して誕生した第二次安倍政権の発足(2012年12月)まで続く。
安倍政権下で行われた異次元金融緩和で円高圧力は後退し、ドル円は三桁で安定した。
デフレ脱却を果たせないまま、政府・日銀は異次元緩和を延々と続けるが、これが今年のインフレと円安につながる。
円安の流れはドル円が151円台を付けたところで為替介入により後退するが、異次元緩和継続を標榜して止まなかった黒田総裁による長期金利水準調整発言がドル円の上値を一段と重くした。
そこで懸念されるのが、円高トレンドと輸出関連企業へのダメージであり、そこから影響を受ける日本株の暴落だ。
『「90年代のバブル崩壊=円高」→「超円高時代=輸出減=景気低迷=株価暴落」』と同様の流れが生まれつつある。無能無策の首班として歴史に名を刻まれるであろう現首相に、この流れを止められるとは思えない。
基調となった輸入超による円売り外貨買いだけで、レパトリや外貨ヘッジの流れは止められない。円高阻止に一縷の望みとなるのはアセットの動きだ。
不冴えな本邦証券市場に嫌気した機関投資家による対外証券投資に期待したい。大幅に日米金利差が縮小するとは思えない。投資家にとって直利は重要だ。