ユーロ・ポンドもドル安で反転へ
ユーロ圏は景気後退入り直前なり
欧州経済は10-12月期に入り、いくつかの追い風が吹いている。天然ガス需要が夏場の約2.5倍に増える暖房シーズンに突入したが、今秋は異例的な温暖気温で始まった。
また、夏場からのLNG(液化天然ガス)輸入の増加と需要削減策の効果により、欧州各国の天然ガスは備蓄能力近くまで到達している。
いくつかの長期予測によると、今冬は例年より幾分寒くなる可能性がある。しかし、天然ガス備蓄のバッファーの存在により、冬が異例なほど寒くならない限りは、欧州が停電や厳格なガス配給制度を導入するといった最悪の景気悪化シナリオは回避できるだろう。
天然ガスの備蓄が進展していることから、注目は2023・24年の冬場へと移っている。
欧州の今年上期の天然ガス備蓄は、ロシアからの調達に支えられていた。LNGの備蓄施設の建設を急いでいるものの、ロシアからの天然ガス供給無しに備蓄を進めるには高いハードルがある。
期近物の天然ガス価格はここ数週間で急速に下げているが、2年、3年先の価格はあまり変化がなく、コロナ禍前の水準を大きく上回った状態が続いている。
こうした先物市場の動きから、欧州経済は当面、交易条件悪化によるマイナスの影響が続くことが示唆される。
7-9月期のユーロ圏実質GDPは前期比+0.2%と、事前予想を上回りプラス成長を維持した。
コロナ禍後のペントアップ需要(抑制されていた需要)が続き、ドイツ(同+0.3%)、イタリア(同+0.5%)が底堅い伸びを示した。
また、サプライチェーンの停滞が改善したことで自動車産業が持ち直したことも景気を下支えした。
いくつかのポジティブな材料はあるものの、7-9月期の僅かなプラス成長をもってしても、今後の景気の先行きの見方は不変だ。
ユーロ圏経済は減速しており、景気後退に陥る公算が大きい。直近公表されたデータでも、厳しい先行きが示唆されている。
ユーロ圏の総合PMIは50ポイントを下回り、各国とも製造業がエネルギー価格高騰による下押し圧力を強く受けていることがわかる。
エネルギーやガスへの依存度の大きい産業ほど生産削減を余儀なくされ、下押し圧力は強まるだろう。ユーロ圏の10月のインフレ率は速報値で前年比+10.7%に達している。
加えて、エネルギー・食料品等を除いたコアインフレ率、価格変動の大きい品目を除外した「刈り込み平均インフレ率」も一段と加速するなど、基調的なインフレ圧力も強まっている。
各種商品価格の上昇は落ち着き、供給制約問題も緩和に向かっているものの、生産者物価や各種データからは更なる価格上昇が示唆され、ヘッドラインのインフレ率は一段と高まる可能性がある。
2023年通年のユーロ圏の消費者物価上昇率は前年比+5.5%前後になると見込まれ、家計への下押し圧力が来年も続くことを意味している。
ユーロ圏の労働市場は依然として強く、各種データや労使交渉の結果からは名目賃金の上昇が示唆されるものの、実質賃金の伸びは引き続きマイナスが続くと予想される。
ECBによる金融引き締めの継続も景気の下押し要因となる見込みだ(10月のECB理事会ではハト派姿勢への転換も示唆されたが高いインフレ率と事前予想を上回る7-9月期の実質GDP成長率は、タカ派寄りの議論を後押しするだろう)。
7-9月期の銀行貸出調査では、貸出スタンスが顕著に厳格化したことが示されており、これは家計の支出や企業の投資判断の大きな逆風になるであろう。
最近の英国での一連の出来事は、今次の新たな金利上昇局面に対して、金融市場が脆弱であることも示している。
このため、短期的にはエネルギー供給についていくつか明るい兆候があるにもかかわらず、ユーロ圏経済は、広範は逆風に直面し、景気後退に陥る公算が大きい。
問題はどの程度経済が落ち込むかだ。
ガス備蓄のバッファーがあることに加え、ここ数ヵ月で導入された経済対策(最も大きいものはドイツ)により、冬期が厳しい寒さになったとしても、深刻な景気後退は避けられよう。
よって、景気後退は緩やかなものに止まる公算が大きい。
ユーロ圏の23年通年の実質GDPは小幅なマイナス成長にとどまるのではないか(但し、独・伊は天然ガスへの依存度の高さからマイナス幅は相対的に大きくなろう)。
他方、ユーロ圏においてエネルギーを巡る困難は中期的に続き、その後の景気回復も緩やかなものにとどまる見込みだ。
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(この記事は 2022年11月15日に書かれたものです)
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