ジャクソンホール後の米金融政策の注目点は?
来年早々の利上げ打ち止め予想は修正されたが・・・
パウエルFRB議長が8月26日のジャクソンホール講演で述べたことは以下の通りの内容だった。
- インフレ抑制策は家計や企業に痛みをもたらすが、物価の安定を取り戻せなければ、さらに大きな痛みを伴うことになる。
- 物価安定を取り戻すためには、しばらくの間、金融引き締め政策スタンスを維持する必要がある。
- 長期的なインフレ期待は現時点では比較的安定しているが、1970年代においては、インフレ率が上昇すればするほど人々はインフレ率の高止まりを予想するようになり、その予想が賃金や価格決定の中に組み込まれていった。
1980年代初頭のボルカーFRB議長のディスインフレ策は、それ以前の15年間のインフレ抑制失敗の後になされたものだった。こうした過去の金融政策の教訓から、インフレ期待の安定を確認できるまで、強力かつ迅速に金融引き締めを行っていく。 - FF金利の現状の誘導目標は2.25%~2.5%と中立金利と呼ばれる水準に達しているが、インフレ率が2%をはるかに超え、労働市場が極めてタイトな現状では、中立金利は立ち止まったり小休止したりする場所ではない。
パウエル議長は、金融市場が求めていた9月の利上げ幅(0.5%か0.75%か?)など、具体的な点については多く語らなかったが、そのタカ派的なトーンによって、講演前に金融市場が予想していた「来年前半にも利上げが打ち止めとなり、利下げに転換される」という思い込みは修正された。
7月28日時点のFF金利先物相場からみたFF金利の今後の動きは、来年4月ものが3.2%、6月ものが3.0%、12月ものが2.8%と、FF金利は4月頃にかけ3%強まで引き上げられるが、その後は下がっていくという予想だった。
しかし、9月1日時点の先物相場をみると、来年4月もの3.9%、6月ものが3.9%、12月ものが3.7%と、FF金利の到達点は4%と高くなり、その後下がってもわずか、といった予想に修正された。
このように「来年早々利上げが打ち止めとなる」という市場の思い込みは修正されたわけだが、パウエル議長の過去のミスリーディングな発言などもあって、なお、市場は特に以下の2つの点で、楽観的な思い込みをしているようだ。
1. インフレ率が今後、急速に低下していくとみている点
7月の消費者物価の前年比は8.5%、PCEデフレーターの前年比は6.3%、エネルギー・食料を除くコアPCEデフレータの前年比は4.6%。
これに対し、エコノミストのコンセンサス予想は、来年10~12月には、それぞれ2.7%、2.4%、2.7%と、5.8ポイント、3.9ポイント、1.9ポイント低下すると予想している。
米債券市場は、さらに急激にインフレが鎮静化するとみている。1年物国債利回りと物価連動債利回りから計算されるブレークイーブン・レート(=予想インフレ率)は1年もので2.0%となっている。
今後1年間の予想インフレ率が2.0%で、つまり、来年9月の物価上昇率前年比が2.0%になると予想しているわけだ。
パウエル議長が昨年秋まで言い続けていた「インフレは一時的」との発言や、今回の講演の中にもあった「長期的なインフレ期待が安定している」という発言が、「おまじない」のように、効いているのかもしれない。
確かに、5年先、10年先にインフレが徐々に落ち着いていくことはありえようが、よほど急激かつ深刻なリセッションでもない限り、1年間でインフレ率がこれほど急速に沈静化するとは現実にはありえないだろう。
2. 市場がFF金利4%程度で利上げが打ち止めとなるとみている点
インフレ率の実績は消費者物価全体が8.5%、PCEデフレータが6.3%、コアPCEが4.6%で、FF金利が4%に引き上げられてもこれでは実質金利はマイナスのままだ。
これまで「一般的には、実質FF金利が約3%以上であれば、金融がタイトな状況にあるとみなされたものである。これが1%以下ならば金融緩和状況とされ、2%前後であれば適正であると考えられてきた」(『FRB議長 バーンズからバーナンキまで』、P96、レナード・サントウ著)と、言われた。
マイナスの実質金利のままで、金融引き締めと言えるかどうかは非常に疑問だ。今回、「中立金利」についての表現が多少修正されたが、これまで、パウエル議長はFF金利が2.5%程度とされる「中立金利」を上回るかどうかが問題とし、2.5%が金融引き締め政策か金融緩和政策かの分岐点であるかのように発言してきた。
今回の講演で、これまでの中立金利についての表現は修正されたが、おそらく、「2.5%超=金融引き締め」という「おまじない」が、今も効いているように思える。
・・・・・
2022/09/05の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
関連記事
https://real-int.jp/articles/1759/
https://real-int.jp/articles/1752/
https://real-int.jp/articles/1741/