円安一服の背景は?
IMFが計算する円の購買力平価は91円/ドル
ドル円相場は一時、1998年11月の高値147円を一気に窺うのではないかとの見方もあったが、7月14日に139円台をつけたあと、140円/ドルを手前に、上昇モメンタムがやや失われた感がある。
円安一服の背景は何か。まず、そもそも現在のドル円の水準は日米物価水準(購買力平価)に比して、円安・ドル高に偏りすぎているという点を忘れてはいけない(図1参照)。
IMFが計算する円の購買力平価は2021年時点で96.5円、22年時点で91.1円だ。これに対して実際のドル円相場は21年末が115.1円、直近では130~140円程度。購買力平価との乖離率は21年が19.2%、22年が135円で計算すると48%という大幅な乖離となっている。
ドル高是正のための協調介入が実施された1985年9月プラザ合意時の乖離は、1984年の購買力平価が205円、1984年末のドル円相場が252円で、乖離率は23%と今よりも小さかった。
今の円安がかなり異常であることは間違いない。
「日米の金融政策の違い」は今後小さくなっていく可能性
もちろん、この「異常な円安」には相応の理由があった。
第1に、しばしば言われている通り、日米の金融政策の方向性が明らかに違っていることだ。米FRBはインフレに対応して、緩めすぎた金融政策の正常化を急速に進めている。
これに対して、日銀は、世界の中では異例の景気刺激策、あるいはリフレのための強力な金融緩和策を続けている。特に、長期金利を操作するイールドカーブコントロールは問題点が多く、世界的にインフレ圧力が強まるなかでは、急速な円安を助長しかねない。
一方の米国の金融政策について言えば、確かに、政策の正常化を急いでいる。ただ、米FRBが急速な利上げを続けているのは、あくまでも急速なインフレに対応したものであり、インフレ分を差し引いた金利が本当に高いのかどうかは疑わしい面もある。
実質金利については、いろいろな計測方法がある。米10年もの物価連動債利回りでみた実質金利は7月末時点でプラス0.1%だが、米10年もの国債利回りから実際のコア消費者物価前年比を差し引いた数字でみた実質金利は7月にマイナス3.3%と大幅なマイナスで、両者の開きは大きい。
前者の数字でみるように、今後、米国のインフレが自然に鎮静化していくという前提では、米国の実質金利はプラスでドルへの投資は魅力的だが、後者の数字の通り、インフレが現水準のままで実質マイナス金利ならドルへの投資は避けた方が良いということになる。
これに対して、日本の10年もの物価連動債利回りは7月末時点でマイナス0.7%で、物価連動債利回りでみた実質金利でみると、日本に比べ米国の方が0.8%ポイント割高だ。
そして、10年もの物価連動債利回りで比較した日米実質金利差とドル円相場の関係をみると(図2参照)、日米実質金利差が1%ポイント程度の時期(2005~07年頃あるいは2014~19年頃)のドル円相場は100~120円程度だった。
結局、米国のインフレが自然に沈静化していくという前提で、米国の実質金利が日本より高いとしても、実質金利差はさほど大きくなく、130~140円という円安は行き過ぎているということになる。
さらに、日本の金融政策について言えば、黒田日銀総裁は強力な金融緩和策の維持を表明しているが、リフレ政策の政治的な後ろ盾となっていた安倍元首相がいなくなったことが政策に影響する可能性もあるだろう。
日銀が2%目標を掲げる「生鮮食品を除くコア消費者物価」は、食品価格値上がりで7月に季節調整済み前月比0.5%と大幅に上昇し、前年比では2.4%上昇と加速した。
昨年の携帯電話料金引き下げの影響を除けば、前年比上昇率は2.7%と3%に近づいている。黒田日銀総裁の任期は来年4月までで、少なくともそれまでは強力な金融緩和策が継続されるとの見方が多いが、政治的な後ろ盾がいなくなった状態で、本当に物価上昇を放置し続けることができるかは疑問だ。
こうして考えてみると、日米の金融政策の差は今後、小さくなっていく可能性があり、今の異常な円安を説明できるほど、大きくないかもしれない。
原油安で日本の経常黒字傾向は続く
「異常な円安」のもう一つの理由は、日本の貿易赤字拡大だった。
エネルギー、食糧など一次産品価格の高騰により、これらの資源を輸入に依存する日本の貿易収支の赤字幅は拡大している。
ファンメンタルズ面で円相場の支えとなってきた日本の経常黒字(=貿易収支+サービス収支+投資収益収支+移転収支)も赤字に転落するのではないかとの懸念が強まっていた。
しかし、足元での原油価格等の反落により、当面、日本の経常赤字が赤字基調に転落することは回避できそうだ(図3参照)。
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2022/08/22の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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