ユーロ圏の財政政策
前回までの記事はこちら
https://real-int.jp/articles/1697/
https://real-int.jp/articles/1713/
形骸化する財政規律
ユーロ圏加盟国はマクロ経済政策のうち為替政策と金融政策を放棄せざるを得なくなりましたが、財政政策は各国に委ねられました。と言っても、野放図に財政政策の運営ができる訳ではありません。
各国が財政政策を自由に運営してしまっては、ECBの一元的為替政策や金融政策が上手く機能しなくなり全体の経済政策が不安定となってしまいます。結果的にユーロの信認が失われてしまうことになります。
そこで、EUは財政政策にS・G・P(Stability Growth Pact:安定成長協定)という規律を設けています。規律の内容は、加盟各国は政府債務残高を対GDP比60%以内、財政赤字を同3%以内に収めるとするものです。
健全財政はユーロ導入条件の一つであり、ユーロ導入希望国はSGPの基準を事前に達成しないとユーロの導入はできません。
現在もユーロ圏財政状況は改善されていない
重要なのは財政規律が圏内各国に順守されているのかどうかという点ですが、必ずしもそうではありません。
図2が示す様にユーロ圏全体では、財政収支及び政府債務残高のいずれも順守されていません。
図1で明らかな様に主要加盟国も両方の基準を満たしていません。
つまり、SGPは形骸化しているのです。EUはSGP違反国に対して警告を発し、警告に背いた国には制裁金を課すという罰則規定を設けていますが、これも順守されてきたとは言えません。
過去に(2003年前後)主軸国のドイツやフランスが制裁金逃れをしてきた例もあるのです。主軸の両国がこれでは他の加盟国が順守するハズがありません。
地中海諸国が足枷となり、ユーロの信認は得られない
過去最大の問題はギリシャがEUに提出する財政状況報告書の改竄が招いたユーロ圏財政危機です。この時に財政状況が悪かったポルトガル(P)・イタリア(I)・アイルランド(I)・ギリシャ(G)・スペイン(S)の国債が大暴落し、大きくユーロ圏の信用不安につながりました。これが2010年に勃発した所謂ユーロ圏財政危機です。
当然のこと、ユーロも大暴落し、その後現在に至るまで超長期に亘り、ユーロが軟調な原因はここに由来すると言っても過言ではないでしょう。
PIGSの財政状況は慢性的に悪く、特にイタリアは毎年の様にEU本部と予算編成で揉めており、ユーロ売りにつながっています。
重債務国の国債は常に暴落の危険を孕んでいるため、ECBは無制限の買い取り措置で対応していますが、当然のことながら健全財政に努めるドイツなど他国から不満の声が上がっています。
財政統合はユーロ圏の大きな課題ですが、重債務国が健全財政に向けて多大な努力の姿勢を示さない限り、健全財政国が納得しないため永遠に不可能と見られ、経済分野ではこれがユーロの根底にある弱気材料であり続けるでしょう。
【 関 連 記 事 】
https://real-int.jp/articles/1727/
https://real-int.jp/articles/1718/