英国 スタグフレーションの恐怖
動画でご覧になりたい方はこちら
英国 スタグフレーションの恐怖~現状と先行き見通し~
英中銀金融政策理事会からの発表
先週の木曜日(8月4日)に英国中央銀行の金融政策理事会があり、そこで3か月に1度のマクロ経済予想が同時に発表され、記者会見も行われました。
政策金利
政策金利は英国中央銀行が独立して以来初めての50bps利上げとなり、1.75%となりました。
投票配分
投票配分が8対1、8名が50bpsで1名が25bpsということでした。50bpsの利上げをこれだけ支持しているということは、もしかすると次回9月の金融政策理事会でも50bps上げるのではないか、という話に今なっています。
主要中銀としてはニュージーランド・カナダ・英国が一番の先発組です。その後にアメリカが続き、最後が ECBでした。
英国は非常に早く利上げをしましたが、上げても上げてもガス代が上がっていくため今回は思い切りよく上げた感じがしています。
インフレのピーク
インフレのピークが今年の10月の消費者物価指数(CPI)で13.3%になるだろうという予想です。3カ月前の5月の予想では11%でした。その前の2月の予想では9%だったので、やる度に、もれなく2%上がっております。
いかに英国中央銀行の予想が外れるか、ということですが、これは英国中央銀行だけではなくアメリカもECBも全て外しています。中央銀行のエコノミスト集団の予想は、あまり当てになりません。
QT策(バランスシートの縮小)
9月から12カ月間にわたり、まず初年度の1年間で800億ポンド相当で満期償還分が400億、手持ち国債の売却が400億です。その手持ち国債の部分ついて、英国中央銀行は一度もやったことがありません。
四半期ごとに100億ポンドずつ手持ち国債の売却に動き、必ず四半期の一番最初に、「この四半期は例えば何月何日に、こういう感じで召喚します」というのを綺麗に順序立てて説明し、長期金利のボラティリティを極力抑えたいと強調していました。
四半期金融政策報告書:マクロ予想
マクロ予想で丸で3つ囲みました。
GDP(赤丸)
2023年、2024年と2年続けてマイナス成長という非常に厳しい2年間が待っています。マイナス成長ということは社会の需要が減ってきて、雇用の調整が必要となり失業者が増えます。
失業率(緑色の丸)
失業率が現在の3%台から、再び5%台に戻ってしまうというものでした。
インフレ(青色の丸)
2022年で予想でも既に13%という驚くようなインフレです。来年も劇的に下がるわけではありませんと示しています。
普通に生活していて苦しく、英国民は非常に厳しい状況です。今年の10月以降になると恐らく毎月の電気・ガス代が、10万円程度になると見積もりが出ています。
英国の所得は全体の平均で手取りで1600ポンドくらい(ロンドンはちょっと高い)ですが、その内の800が電気・ガス代で持っていかれます。つまり、手取りの半分が電気・ガス代ということになります。
現在は月額580程度ですが、無駄は全部省き、それでもダメなら子供のお小遣いをなくすというところまできています。子供も可哀想だなと思いますが、食べるものが優先されます。食べるものが並ばない家庭も非常に増えてきている現状です。
英国では毎月、住民税を払う義務がありますが、住民税の滞納が増えています。そして、電気・ガス代の滞納は5人に1人だったのが、今では3人に1人になりかかっています。
ガス会社は困惑しているようです。今までの顧客は「申し訳ありませんでした」等と腰を低くしていたようですが、今では「払えないものは払えません!」という態度になっているようです。
英国ではロシアとのガスの取引は、多くありませんが、ヨーロッパにロシアのガスが入らないので欧州全体のガス料金が大きく上がっています。そして結局、英国もガス先物で予約しているために被害を受けているという感じです。そういった構造になっているため、これは避けることが出来ません。
驚異的なスタグフレーション
インフレ見通しが上がっているとGDP予想 が下がり、乖離があまりにも酷いことが示されています。やっとお互い歩み寄るのが2025年です。その頃に世の中がどうなっているかは、わからないため、今2025年のことを話しても、意味がないかもしれませんが、英国民の生活は今後約2年にっちもさっちも行かない毎日だと思います。
今まで苦しい苦しいと言っていても、どうにかなっていましたが、今回だけは相当厳しいです。
現在、家の改修をしていますが、毎週、機材の代金が上がり、不足分を支払わなければなりません。大工の方たちに聞くとインフレが収まっても機材は絶対に安くならないと言っていました。結局それをベースに見積もりを作成するので、再来年まで待ってやったから万歳三唱というわけではないから心配しないでと言われました。
アメリカなどでもインフレ率が今後下がるという予想が非常に強いですが、コアのインフレの部分は下がりづらいと思っています。
アメリカはまだ景気が良いので、需要サイドの景気が上がってくる場合は、来年以降マイナスになるのかもしれませんが、まだマイナスにならない今年の秋くらいは、もしかすると需要の部分のインフレが上がってきて、予想するほどインフレ率は下がらないのではないかと思います。
表面的なものは下がったとしても、コアの部分が下がりづらいのであれば、結局、私たちはどうするのでしょうか。みんな絶対インフレが下がる前提で利下げを織り込もうとして、長期金利も上がりづらくなっていますが、絵に描いた餅のようになるのか疑問です。
ちなみにスタグフレーションというのは、不景気のインフレで、物価上昇することです。賃金も上昇すればインフレがあってもいいですが、賃金が上がらずにインフレだけあると困ります。
インフレ率の内訳
英国中央銀行が作ったチャートです。
インフレ率を計算するときの内訳(その他、燃料と潤滑油、電気・ガス、食料品、サービスセクター)の中でサービスセクターが一番大きくて43%です。英国民が今一番頭を痛めている電気・ガスがインフレ率の内訳の中のわずか3%でしかありません。
チャートの紫色の部分をご覧ください。わずか3%で、これだけインフレ率を上げています。紫の部分がある程度落ち着けば、否が応でもインフレは下がります。
ガス・電気代の高騰が、いかに英国民の生活を苦しめているかというのが、よく理解できます。パンデミックでサプライチェーンがおかしくなってから徐々にきていましたが、ロシアとウクライナ問題が大きな影響を及ぼしたことがよくわかります。
四半期金融政策報告書:英中銀金利予想
英国中央銀行自身が発表しているものです。今年は2.4、来年2.9までいき、その後に利下げという、アメリカと全く同じパターンです。
アメリカも、このあと1年くらいは上げて、そこから下がってくる感じですので、アメリカとほとんど歩調を揃えて下がってくるだろうという予想です。
【関連記事】
https://real-int.jp/articles/1705/
https://real-int.jp/articles/1702/