ユーロとポンドの拾い場水準を探る
ウクライナ戦争中はユーロ売り
7月6日からユーロドルは1.01ドル台に突入。
週末の8日には1.0116ドルといよいよパリティ(1ユーロ=1ドル)に接近してきた。ユーロ円も一時137円台へと軟化してきた。ベースが米ドルの強さにある点は言うまでもない。
ECBも7月の利上げは必至で、9月には75bpの追加利上げも予想されてはいるが、米国との利上げペース格差は歴然であり、ECBの利上げスタンスでのユーロ先高圧力はない。
むしろ今後のユーロにとって逆風となりそうなのが、米国を中心とした景気減速リスクの高まりである。
エコノミストの多くは米国経済が10-12月にも景気後退入りすると予想しており、ユーロ圏にはウクライナ戦争に伴うエネルギー供給の歴史的枯渇も重なって、それ以上の景気減速圧力が予想されている。
実際、ユーロ圏の6月総合PMI(速報値)は51.9と5月(54.8)から大幅に低下し、21年2月以来の低水準を記録している。製造業の新規受注DIなどの悪化が鮮明であり、先行きの景気減速リスクが示唆されている。
5日のノルウェーの石油・ガス業界のストライキをきっかけとした天然ガス供給懸念の台頭も、ユーロ圏の景況先行きに暗い影を落としはじめた。
ロシアが対ロ経済制裁を強化する欧州各国に対し、エネルギーの供給減で揺さぶりをかけており、天然ガス価格が再び上昇している。
代表的指標の「オランダTTF天然ガス先物価格」は5日、176ユーロ(1メガワット時当たり)と、6月当初の90ユーロ台から2倍レベル(1年前比5倍)まで上昇。
一応、ノルウェーのストは早期収拾したが、今度は7月中旬から「定期点検」に入るロシアからの海底パイプライン「ノルトストリーム1」への懸念が浮上している。ロシア側が予定通り1~2週間で再開する保証はない。
ドイツ連邦銀行(中央銀行)によると、ガス不足でエネルギーの利用制限が実施されれば、ドイツのGDP見通しは最大5%縮小する可能性があるとしている。
GSグループは4日付のリポートで欧州天然ガスの相場見通し(7-9月期TTF予想平均価格)を従来の104ユーロから153ユーロに変更。
ノルドストローム経由の供給回復が想定より遅れることを強く織り込んだ。「供給量停滞が長引く最悪のケースでは200ユーロを上回る恐れもある」とみている。
一方、ECBの構造的歪みに関する新たなユーロ先安材料も浮上してきた。昨年末より財政の脆弱性を抱える南欧諸国の国債利回りが顕著に上昇し、ドイツ国債との利回り格差が拡大するなど域内金融市場分断化の懸念が浮上していたが、6月9日のECB理事会後に市場が更に動揺したため、6月15日にECBは緊急理事会を開催、以下を余儀なくされた。
- PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)保有の資産再投資(償還期日到来玉の
再発行分を再び購入)に当たり、「柔軟性」を発揮(南欧諸国国債の重点的購入を示唆) - 域内市場分断化の新たな抑止策の設計の表明
両施策とも具体的な内容は明らかにされていないが、財政統合なき一元的金融政策というユーロ圏当初からの問題が、金融政策正常化プロセスにおいてもその影響が各国で不均一に及ぶという形で現れ、引き続き対応が必要なことが確認されたといえる。
2010年代の欧州債務危機の経験を経て、域内市場分断化に対処するECBや各国当局の対応力や制度的整備は確かに進んではいる。
しかし、コロナ禍対応により各国の政府債務残高増加への懸念が意識され易いことに加え、来年、イタリア、スペイン、ギリシャで総選挙が予定されている点は注目される。
ウクライナ問題で「結束」が必ずしも取れていない(フランス・ドイツ・イタリアが早期戦争終結意向)こともあり、果たしてECBの「域内市場分断化抑制策」が機能するのかが疑問視されている。
以上からユーロドルのパリティへの下落は時間の問題であり、ウクライナ戦争への行くえも全く見通しがつかない。
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(この記事は 2022年7月13日に書かれたものです)
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