ドルロングの巻き戻しに動揺するなかれ
5月雇用統計の意味
5月の米雇用統計が力強い内容であったことを受け、FRBは6月14、15日の次回FOMC及び、7月FOMC(7月下旬)で各0.5ポイントの利上げを決めることがほぼ確実となった。
雇用統計によると、非農業部門雇用者数は前月比39万人増加した。3ヵ月移動平均で前月差+40.8万人、6カ月移動平均で同+50.5万人と堅調。これでコロナ禍直前(20年1月)のレベルをほぼ回復したことになる。
職探しをする人が増える中、失業率は3.6%で横這いだった。賃金の前月比上昇率は0.3%と再び鈍化した。この傾向が持続すれば、労働市場の過熱を巡るFRB当局者の懸念は若干和らぎそうだ。
FRB当局者は、6月と7月のFOMCで0.5ポイント利上げする必要があるとの見方で概ね一致している。
そのため、議論は9月のFOMCに移っている。その議論に今回の雇用統計が大きな影響を及ぼす見込みは薄い。FRBは当面は月次のインフレ指標を重視するとしており、9月の会合までに雇用統計があと3回発表されるからだ。
FRB当局者が高インフレへの警戒感を和らげるためには、雇用の伸び鈍化、労働力の拡大、賃金ペースの緩和を確認したい意向だ。
FRBが重視するインフレ指標である商務省の個人消費支出(PCE)価格指数によると、4月の消費者物価の上昇率は前年同月比6.3%と3月の6.6%から鈍化した。
コアのPCE価格指数の前年同月比上昇率は4.8%で、3月の同5.2%から下がった。FRBは前年同月比で2%の物価上昇率を目標にしている。
FRB当局者は、インフレの鈍化を示す説得力のある兆しが観察されない場合は、7月以降も0.5ポイントの利上げを継続し得るとしている。9月以降は利上げ幅を0.25ポイント戻せるほど、物価上昇ペースが和らぐと楽観的な見方を示す当局者もいる。
一方でFRBブレイナード副議長は「9月に利上げ休止をする可能性は非常に低い」(6月2日)とし、従来のハト派から一転している。
FRBパウエル議長は5月のインタビューで、FRBは景気をもはや刺激しない水準まで政策金利を引き上げることを目指しているとし、11月か12月にその水準に達する可能性があると述べた上で「その水準は停止地点ではない」と、クギを刺した。
ただ、利上げの打ち止め水準がどこになるかは不透明だ。インフレに近く鈍化の兆しがみえなければ、政策金利はこれまで予想されていた3%程度ではなく、今後1年~1年半に4%近くに切り上がる必要があると考える当局者が増えるかもしれない。
FRBは5月、2000年以来約22年ぶりに0.5ポイントの利上げを決め、FF(フェデラルファンド)金利の誘導目標を0.75~1.0%とした。
7月末までに0.5ポイントの利上げを2回実施すれば、誘導目標は1.75~2%に上がり、20年3月に事実上のゼロ金利政策の復活を余儀なくされた、新型コロナウィルス禍が始まる前の水準を回復することになる。
ここ数週間で、インフレを落ち着かせるために経済成長を鈍化させるには、失業率の上昇が必要となり得るとの見方を示すFRB当局者が増えた。
ただ、失業率が上昇すれば、ほぼ確実にリセッション(景気後退)を招く傾向があり、極めて微妙な舵取りが求められる。
FRBパウエル議長は5月、コロナ禍による混乱が労働市場を変化させ、足元の失業率の水準はFRBの掲げる2%のインフレ目標と整合していない可能性があると指摘していた。また安定的な物価上昇率と整合性のある失業率は「恐らく3.6%を優に上回るだろう」との認識を示した。
求人と自発的離職の件数は記録的な高水準にあり、「労働市場が不均衡になっていることをうかがわせる」と語り、失業率はあるべき水準に落ち着くとの見方を示していた。
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(この記事は 2022年6月8日に書かれたものです)
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