円下落のピークアウトは本物か
米利上げモードの限界が台頭
ドル円は5月9日に131円34銭の円安を記録したあと、米国金利の低下とともに反転し、5月24日には126円35銭まで円が上昇。
市場関係者の多くは「ひとまず、円下落はピークアウトし、125円トライのレベルに向け、もう一段の円上昇という展解に変わった可能性が高い」との見方にシフトした様だ。
この見方が正しいかを検証したい。
米国の株価が5月20日から27日までの連続6営業日上昇となった。この間、米金利も確実に低下した。
つまり、FRBの断固たる金融引き締めスタンスによって米景気が大きく鈍化するとの市場の読みが強まった結果、株式市場関係者が「FRBは早ければ夏場にも利上げモードを一旦停止するかもしれない」との見方に転換したということになる。
しかし、足下の米国経済は株式市場が懸念するほど悪くない。1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率マイナス1.4%とマイナスに転じたが、その主因は純輸出と民間在庫による押し下げである。
一方、米国経済の屋台骨である個人消費や設備投資は堅調な伸びを示した。また、足下で企業や消費者のマインドは悪化しているものの、主要経済指標(雇用、小売、鉱工業生産)は概ね堅調に推移している。
こうした景気の堅調さは、インフレ抑制のために大掛かりな金融引き締めが必要と捉えられる一方で、景気後退に対しては一定のバッファーがあるともいえる。
FRBのタカ派スタンスが、こうした中で5月20日を起点としてニュアンスが変わってきた。
例えば、これまでFRBのタカ派化を先導してきたウォラーFRB理事は、急激な金融引き締めによって景気後退に陥った1980年代初頭のボルカー議長時代と、現在は状況が大きく異なると指摘し、FRBは市場を驚かせ、景気後退へと陥れるようなことはしないと述べた。
加えて、ウィリアムズNY連銀総裁は、金融環境が既に引き締まってきていることや、コアPCE(個人消費支出)価格指数の伸び率が2022年末に前年比+4%付近(4月=+4.9%、3月=+5.2%)まで縮小すると見込んでいることを指摘した。
シカゴ連銀が公表する全米金融環境指数も足下で上昇しており、金融環境は引き締め傾向を強めている。
また、コアPCE価格を明示的に取り上げたことで、エネルギーや食品といった、金融引き締めによる効果が及びにくい項目から距離を取る道筋を開いたといえる。
3月FOMCで公表されたFOMCメンバーによるSEP(経済見通し)において、2022年10-12月のコアPCE価格指数が前年比で+4.1%だったことを踏まえれば、足下のコアPCE価格指数が大幅な想定外とはなっていないことも確認できる。
4月のコアPCE価格指数(前年比+4.9%)は3月からわずかに伸びが縮小し、増勢が弱まりつつある。そしてコアCPIは、4月に市場予想を上回ったものの、前年比で減速(3月の+8.5%から+8.3%へ)した。
とりわけ、前年比ベースを考える場合、21年4-6月期及び10-12月期の伸び幅が大きかったことで、コアPCEやコアCPIは減速感が出やすい。
足下、FRBのタカ派的な見解に目が行きやすい環境にあることは確かであるが、そもそも、主要経済指数が堅調であるとともに、コアCPIやPCEを中心にインフレ率に減速傾向が見られること、そしてFRBの執行部を中心にバランスを取ろうとする動きもあることから、現時点で金融引き締めによる景気後退を確信するのは尚早である。
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(この記事は 2022年6月1日に書かれたものです)
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