ドル円125円台は重要ポイント
日銀スタンスが狙われた
3月28日、ドル円は一時125円の10銭まで円安が進んだ。3月初旬の114円近辺から、わずか1ヵ月で11円もの急落は月足として極めて稀なケースだ。
ただ、125円台は「黒田ライン」と言って、市場では一応、限界的円安水準と認識されているゆえ、この辺を狙った投機筋の仕掛け売りだった可能性が高い。
筆者も3月17日号「ドル円相場の見通しは不可能なり」のレポートで「年間を通して1ドル110円~124円のレンジ」と予想したのも125円=黒田ラインを意識したからであった。
2015年はドル円で円が大幅に下落、6月には一時125円86銭を付けた。これに対し製造業も含めて国内で不安の声が広がるなか、黒田日銀総裁が国会の答弁で「ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」と発言。
これをピークにドル円が反転したため日銀が許容できる円安の限界ラインとのイメージが、市場にインプットされたということである。
ただ、今回の急速な円安進行は米国をはじめとした先進諸国・地域と日本の金融政策の方向性の違いが強く意識された環境下での結果であろう。
米国などは、ウクライナ情勢、対ロ制裁をインフレ加速リスクと捉え(有事リスクと判断せず)、金融政策スタンスをタカ派化させている。
3月のFOMCでは、コロナ禍後初の利上げに着手。さらに、この先の積極的な利上げ継続や、次回5月会合での0.5%利上げ・QT(バランスシート縮小)決定をも織り込むなど、一段と金融引き締め姿勢を強めた。
その一方、日本ではウクライナ情勢の景気への悪影響を抑えることが優先課題と位置付けられ、早々に景気対策検討モードに入った。物価上昇への懸念も強まっているものの、かかる環境下で金融政策正常化は検討しにくい。
実際、FOMCが利上げを決めた直後の金融政策決定会合で日銀は、金融緩和策の維持を決定。必要であれば追加緩和も検討するとのスタンスを継続した。
また、黒田総裁もインフレ目標である2%には一時的に到達する可能性はあるものの、定着はせず金融政策正常化を検討するのは時期尚早との見解を繰り返す。
インフレ加速を受けた世界的な金融引き締めのトレンドに日銀は乗らない、とのコンセンサスをあらためて確認されたと言えよう。
現況での円安についても、黒田総裁は、かかる金融政策格差(本邦の金融緩和)の結果としての円安進行は「総じて日本経済にプラス」との考えを崩さなかった。
当時(3月FOMC直後の3月中旬~下旬)のドル円は118円中心で120円台が、視野に入る状況だったが、一連の日銀スタンスが「円安容認」と解釈され、その後の円安に安心感を与えた面は確実にある。
そして、この金融政策格差=「円安容認」を受けた円安進行を最も象徴したのが、3月28日の125円台までの円急落局面だったと言える。
FOMC後は米国債利回りが上昇し、連れて日本国債利回りも上昇した。日銀のイールドカーブコントロール政策(YCC)で誘導対象とする10年物国債利回りは、「上限」の0.25%に接近する展開になった。
2月にも同様の場面があり、この時は0.23%に到達した時点で日銀が10年物国債を無制限に買い入れる「指値オペ」実施を発表していたが、今回は、3月24日の時点で0.23%に到達、25日には0.24%まで上昇したにも関わらず指値オペは実施されなかった。
こうした状況を受けて、為替市場では日銀が長期金利上昇を容認し、0.25%では指値オペは実施しないとの思惑が広まった。
長期金利の「0.25%上限」は金融政策決定会合での決定事項であり、本来、指値オペはやる、やらないの問題ではなく、「やるタイミング」が焦点となるべきなのだが、前回実施の水準を超えても実施されなかったことから、為替市場では「やらない」との思惑が膨らんでしまった。
このため、3月28日の10時10分に指値オペがオファーされるやいなや、「サプライズ」の円売りが殺到する様相となったのである。その後、同16時ちょうどには翌29~31日の連続オペ実施も発表され、さらなる円売りに拍車がかかった。
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(この記事は 2022年4月6日に書かれたものです)
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