原油価格上昇と国際社会
ロシアとウクライナ間の緊張が高まる中、中東地域でもイエメンのフーシ派によるアラブ首長国連邦(UAE)へのミサイル攻撃や、イラク、リビアの政情不安が再燃しつつある。
こうした情勢のリスクを分析したイギリス金融大手バークレイズは、1月24日、2022年の平均原油価格の予測を北海ブレント先物で1バーレル85ドル、WTI先物で82ドルに引き上げた。
一方、石油輸出国機構(OPEC)の高官は、「今後2カ月間は、原油価格への圧力が増すだろう」(1月19日付ロイター通信)として、1バーレル100ドルに迫るかもしれないとの観測を述べた。
また、1月27日、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコのナセル最高経営責任者(CEO)は、世界経済の回復がはじまる一方、石油、天然ガス供給の増加が遅れており、「欧州とアジアの一部で市場が非常にタイトになっている」と発言し、新エネルギーへの移行を円滑に行うためにも、炭化水素への投資を進める必要があると語っている。
これらのことから、現在の原油価格の上昇は、地政学的なリスクだけでなく、新エネルギーへの構造的な転換が円滑に進んでいるわけではないことに起因しているといえる。
したがって、原油価格は今後しばらくは上昇傾向と考えられる。では、この原油をはじめとするエネルギー価格高は、今後の国際社会にどのような影響をもたらしているだろうか。
予想以上の物価上昇
国際社会では、新型コロナウイルス感染の拡大による物流の停滞、天候不良による農産物の不作、半導体や電子部品の不足などにより生産活動は痛手を受けている。
その中、エネルギー価格の高騰が輸送費や原材料費のコスト高をもたらしており、主要国の消費者物価が上昇している。
このため、1月11日、世界銀行が発表した世界の経済成長見通しは、2021年5.5%、2022年4.1%、2023年3.2%と低下傾向を示している。
とりわけ、米国については、2021年5.6%、2022年3.7%、2023年2.3%と急減している。
消費者物価の上昇、それにともない予想される景気の冷え込みは、2022年11月に中間選挙を控えたバイデン政権にとって大きなマイナス要因であるだけでなく、国際情勢にも影響が及ぶことになる。
開発途上国への影響
1月26日、米国のFRB(連邦準備制度理事会)は、連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、3月に量的金融緩和策を終了することを決定し、利上げに転じることを示唆した。
今後、国際的な資金の流れが米国に向かうことが予想されており、外国投資、外国支援に依存する国への影響が懸念されている。
世界各国で食糧価格、光熱費、輸送コストの上昇によって市民生活が圧迫されているが、とりわけ途上国の人びとへの影響は大きく、一部の国では政府への抗議運動が見られており政情不安へと向かう恐れもある。
中東地域では、通貨リラ安が続くトルコや観光業の不振に苦しむチュニジア、エジプトなどでの市民の動向と権威主義体制の対応が注目される。
エネルギー資源と大国間の勢力バランスの変化
国際社会では、持続可能な未来エネルギーへの転換というコンセンサスは概ねできているが、移行期には石油、天然ガスなどの化石エネルギーや原子力エネルギーを使用し続ける必要がある。
このため、非産油国では、経済成長や市民生活の安定のために、低コストの安定したエネルギーの確保は優先順位が高い政策となる。
例えば、EU諸国内で、天然ガス・石油供給国であるロシアへの対応に温度差が生じるのもこのためでる。
また、中国をみても、イランをはじめとする中東やアフリカの産油国との関係強化の動きが目立っている。
一方、シェール・オイルの開発が進んだ米国は、エネルギーの安全保障に関する危機感が以前より薄れているといえる。
では、エネルギー輸出国であるロシアはどうか。
ロシアにとって、天然ガスなどの化石燃料は重要な外交資源のひとつであり、EUへの天然ガス供給の経由地であるウクライナへの影響力は確保しておきたい。
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(この記事は 2022年1月31日に書かれたものです)
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