デジタル人民元 北京オリンピックまでに発行か
世界の基軸通貨である米ドルの座は?
2022年2月開催の北京オリンピックまで3か月となった今日この頃、このようなヘッドラインの記事を目にすることが多くなってきました。
しかし、西側諸国のどれほどの人が危機感をもってこの事実を受け止めているのでしょうか。
筆者は世界経済における大きなパラダイムシフトの予兆を感じずにはいられません。
その理由を一言で言うと、デジタル人民元の登場により、世界の基軸通貨である米ドルの座が脅かされることになるからです。
第二次世界大戦終結と同時に、世界の基軸通貨はイギリスポンドから米ドルに交代しました。
そして現在、国境を越えた資金決済の4割は、米ドルで行われており、これについては米ドル口座間で資金決済されます。米ドルで決済されなくとも、異なった通貨を用いる国家間での取引であれば、ほぼ外国為替取引を伴った決済が行われています。
このことが何を意味するかというと、これら全ての決済取引は米国が実質的に支配するシステム上で行われていて、すなわち米国の管理下にあるという事です。
例えば、日本の商社が、米国の大手銀行に開設してある米ドル口座の資金を使って、輸入する穀物の支払いを行うとします。米国穀物メジャーにする場合は、米国大手銀行間での資金決済で済みます。
また、中国がオーストラリアから鉄鉱石を輸入するときに支払う資金の流れはこうなります。
中国の鉱物輸入企業から外国為替を依頼された銀行、あるいはそのカバー先の銀行が通常とっている手順は、人民元を一度米ドルに交換したのちにオーストラリアドルに交換するような取引をしているのです。
即ち、ほぼすべての貿易取引は一度は米ドルが仲介することによって、米銀の口座を経由せずには決済ができない仕組みとなっているのです。
国際間の資金決済通信に用いられるシステム SWIFT
国際間の資金決済通信に用いられるSWIFT(国際銀行間通信協会)と言うシステムがあり、米当局は米銀のみならずこのSWIFTを通じて、世界の資金決済、世界の資金の流れの相当部分についての情報を、把握しているとされています。
このことは、米国との覇権争いを進める中国にとっては、いつかは超えていく必要のある極めて大きな障害なのです。
SWIFTとは
1973年にベルギー王国のブリュッセルに設立された共同組合形式の団体で、1998年からはベルギー国立銀行が首席監督機関となって、G10諸国の中央銀行と協力して監視をしています。
現在、200以上の国や地域の金融機関1万1千社以上が参加していて、そのネットワークを経由しないと国際間の送金情報を伝えることができず、国際送金を取り扱えなくなります。
決済額は1日あたりおよそ5兆~6兆ドル(約550兆~660兆円)に上るとされいて、驚くことに設立から50年近く経つ現在でも事実上の国際標準として君臨しています。
ちなみに、このSWIFTの維持と運用に多額のコストが掛かるために、例えば個人の少額の海外送金にも高い手数料が課されることになるのです。
イランへの経済制裁にもSWIFT を利用
ところで、アメリカが2018年5月にイラン核合意から離脱し、イランへの経済制裁を再び強化した際に、アメリカは経済制裁の一環としてSWIFT を利用しました。
ムニューシン米財務長官は、イランへの資金の抜け道を塞いで、ミサイル開発やテロ支援の資金を断つことで、イランへの経済制裁の効果を高める目的で、SWIFTに対してイランの銀行を再び排除することを要求したのです。
その結果、当時のトランプ政権がイランに対する経済制裁を再発動したまさにその日、11月5日にSWIFTは複数のイランの銀行を、SWIFTの国際送金網から遮断すると発表しました。
これによってイランの銀行は国際資金決済のネットワークから締め出され、イラン企業は貿易決済が事実上不可能となったのです。
国際決済システムを支配できる米国
この事実からも分かるように、中国を含め、米国と対立する多くの国々にとって大きな脅威であるのは、米国が経済制裁においてSWIFTを利用するということです。
米国の経済制裁の対象となった国で制裁逃れの貿易を行おうとしても、そもそもその国の銀行がSWIFTのネットワークから外されれば、資金決済ができないため貿易は難しくなるのです。
米国は、「制裁対象国が米銀に所有する口座資金を凍結する」権限を有する以外にも、SWIFTを利用して国際決済システムをこのように支配する力を有しているということです。
中国独自の国際決済システム構築が世界に与える脅威
このことをだいぶ前から脅威と感じていた中国は、一帯一路構想の推進と共に中国による独自の銀行国際決済システムの構築を図ってきていました。
中国は2015年以降、人民元の国際決済システム、国際銀行間決済システム(CIPS)を構築し、ロシア、トルコなど米国が経済制裁の対象とした国々の多くの銀行を中心にこのCIPSに招き入れ、2019年4月時点で89か国・地域の865行に広がっていました。
こうやってみると今回の中国によるデジタル人民元発行は実はだいぶ前から着実に練り上げられ、一層のCIPS拡大による国際決済システムの掌握と、さらには人民元が流通する中国経済圏の拡大の決め手とするために準備されてきたことが理解できると思います。
そして、今回、主要国家として発行する最初のデジタル通貨が中国と言う専制主義国家によるものであることを含めて、世界経済圏のパラダイムシフトを起こす可能性をも秘めており、米国はもとより他の西側民主主義諸国にとっても大きな脅威と映っているはずです。
デジタル人民元の登場がなぜそれほどまでに脅威となるのか、まずはこれまでに明らかになってきたデジタル人民元が持つ特徴を知る必要がありますが、これについては次回説明させて頂こうと思います。