為替市場のアノマリーを徹底解説
香港上海銀行(HSBC)でチーフディーラーを務めた経験からの、相場をみるうえで重要なファンダメンタルズの知識を解説!
相場の世界でプロと一緒の土俵で取引をするには、やはり相場の知識が必要です。香港上海銀行( HSBC)で10年以上に渡りチーフディーラーを務め、プロも教育をしてきた筆者が、相場の知識をひとつひとつ解説していきます。
今回は、為替市場で発生しているアノマリーについて、専門的立場から解説していきます。まず、アノマリーとは一体なんなのか、明確な定義を言える方は多くないかと思います。
まず定義づけから説明すると、金融市場(特に為替市場・株式市場)の中で規則的に発生し、季節的要因に左右されたいわば経験則となります。経験則のため繰り返し発生する可能性があるので、事前に頭の中に留めておけば、それに対して自分がどのようなアクションを取るべきかに決めておくことができます。つまり、優位性を確立できることになります。
ダウの月別パフォーマンスからわかること
ダウの月別パフォーマンスを100年分とってきてそれを平均したものを分析すると、右肩上がりに推移しています。各所でニクソンショックや暴落がありますが、長期でみるとそういったものを全てリカバーしており、ほとんど右肩上がりで推移しています。
そうすると、月毎のパフォーマンスが平準化していてよさそうなものですが、蓋を開けてみると2月と9月だけはマイナスとなっています。特に9月がマイナス0.88%となっており、ここで何かが起こっている可能性があります。
その背景として挙げられるのは、決算期を前にした換金売り(益出し)と、ヘッジファンドの45日前解約ルールです。9月に売りが集中することは誰もが知っているので、多くの人が9月に買わなくなります。よって、8月に売ったり10月に買ったりと、9月はみな敬遠する動きがあるのです。
ウォールストリートで言われている格言で、
Sell in May and do not come back until St leger Day
(5月に売って9月の中旬まで帰ってくるな)
というものがあります。これは、ロングポジションを持つなという格言なのですが、この背景にあるのも、毎年同じような資金フローが発生しているということです。このことからも、アノマリーがおぼろげながらもはっきりと実在することが見えてきました。
アノマリーについて整理する
ここからは、アノマリーについて整理していきます。まず、アノマリーとは経験則のことを指します。この背景は、毎年比較的まとまった資金フローが同時期に発生していることにあります。
このような規則的な動きが発生していて、今後も繰り返す可能性があるので、自分で知っておいて損はないということになります。その中でも、比較的まとまった資金フローの発生というところがカギになります。今度は、具体的に為替市場で見ていきます。
3月末の円高、4月以降の円安、8月中旬の円高
3月末の円高
機関投資家のレパトリエーション
まず3月末の円高について、生命保険会社を筆頭とする大手機関投資家は、毎年多くの米国債・欧州債を買っています。これは、日本よりも金利が高い方ということが背景にありますが、こうした投資は期末に向けて1回縮小するため、外貨売り円高ということになります。
対外純資産364兆円(2020年)
日本は、世界で一番海外に資産を持っている国です。その理由は、日本に投資先がないからです。黒田日銀総裁が金利を0%に引き下げており、こうしたことから国内で預金をしていてもお金が増えない状況です。そのため、皆海外に行ってしまうのです。これは、企業においても同様です。その対外純資産が364兆円(2020年)もあるのです。
利子、配当の円転の必要性
対外純資産が364兆円あるため、利子・配当といった第1次所得収支を期末にかけて円転していきます。これは、外貨売り円買いということになります。
4月以降の円安
機関投資家の外債投資
一方で、4月以降は円安になる可能性があります。これは、先ほどの機関投資家が外債投資を加速することで、特に生命保険会社が新しい運用方針を出すために円安の可能性があります。
新規投資、オープン外債の拡大
新規投資もあります。オープン外債というのはあまり聞き慣れないかもしれませんが、ヘッジなしの外国債券投資です。実弾の円売り外貨買いを伴うため、4月以降はこういった資金フローが発生する可能性が多くなっています。
ゴールデンウィーク前後の仲値買い
ゴールデンウィーク前後の仲値買いもあります。東京の仲値というと9時55分ですが、ここで重要になってくるのは、東京仲値が貿易決済・実需決済であるということです。
意外と知らない方もいると思いますが、決済が当日バリューとなっています。ドル買い円売りをした場合、その日に決済しなければいけないということになりますが、米国市場休場では決済できません。
ゴールデンウィーク前後では、海外に行く人の旅行需要があります。確かにクレジットカードを持っていけば現金不要の場合もありますが、現金ゼロでは行けないので、どうしても現金需要がおきます。そして、企業決済がまとまって持ち込まれるため、どうしても円売り外貨買いが発生しやすいのです。
そしてゴールデンウィークは長期のため、ゴールデンウィークの始まる前、そして終わったあとに一気に仲値買いが発生する可能性があります。
8月中旬の円安
お盆を前にした輸出企業の円買い
8月中旬の円高も、市場関係者から毎年指摘されています。まず、お盆を前にすると日本企業が休みに入ります。その時に円高にいくと困ってしまうので、輸出企業がどうしても円買いを先にやっていきます。
特に、日本を代表するトヨタ自動車といった企業は、1円の円高が本業の利益を350億円~400億円も左右する輸出型の企業であるため、輸出戦略というのは非常に大きくなります。
そもそも輸出というのは、輸出で稼いだ外貨を円に変えなくてはいけません。このような円転を恒常的にやっていて、それが毎年8月に集中する傾向にあります。
米国債の大型償還
もう一点重要なのは、米国債の大型償還です。
昨年の8月の米国債の償還を見ていくと、
8月15日に、
3年債で312億ドル
10年債で678億ドル
30年債で214億ドル
の償還となっていました。
これは満期が到来したことで、米国政府は投資している人に一旦お金を返すということになります。これを日本の投資家が全て持っているわけではありませんが、日本の投資家は米国債の保有率に関して中国に次いで2番目であるため、どうしてもこういった償還というのが意識されます。
償還ということで、外貨売り円買いが意識されますが、投資元本は、基本的に流通している別の国債に乗り換えます。利金(利息)は、必ず投資家に戻されるので、この場合ドル売り円買いを確実に招きます。よって、8月に円高が意識されやすいというのは、事実なのです。
本日のまとめ
これまでの解説の通り、株式市場・為替市場でもアノマリーというのは確実に存在をしています。また、そこでは、毎年同じ時期に同じような資金フローが発生しているということが確認できます。発生する前提に立って、自分がどんな動きをとればよいか事前に考えておく必要があると思います。
一点注意をしなければいけないのは、別の大きな資金フローが入って逆の動きになるリスクです。そういったものが発生した時には、ストップロスを入れるなど、自己防御を取っていくことも重要になります。
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