トルコリラ大暴落を総点検
20年で20分の1の価値に下落
まずは、ここ20年のトルコの対円相場を振り返ってみましょう。2000年の頭に200円近くしていたものが、昨年の11月には12円付近まで下落、20年ちょっとで価値が20分の1近くまでになりました。
トルコリラが対円で20分の1になってしまった決定的な理由は、トルコが慢性的な経常赤字国であるということです。経常赤字ということは慢性的にお金が流出している、つまりトルコリラが常に売りにさらされているという現状があります。
以下は、トルコの月間の経常収支を単位億ドルで表したものです。 2010年から約11年ぐらい、 毎月経常赤字となっています。世界景気の回復に伴い輸出が増えたためか、少し黒字に転換する時期がありましたが長い目で見ると常に赤字ということです。 継続的な資金流入がない限り、こういう国の通貨というのは長い目で見ると常に売られているという現状があるのです。
トルコの政策金利
トルコは昨年の11月、トルコ中銀にアーバル総裁が就任し、利上げに転じました。 先週は市場予想を上回る2%の利上げを実施、 政策金利を19%に引き上げました。これを好感し、トルコリラ対円は15.10付近まで上昇していました。
ところが、先週末、エルドアン大統領は、11月に任命したばかりのアーバル総裁の解任を発表。アーバル総裁が政策金利を19%に引き上げたことへ制裁人事からでしょう。エルドアン大統領は、かつても、こうした自分の意にそぐわない金融政策の変更をした場合、恣意的な人事を発表し、中銀の独立性が広く問われてきました。
こうした経緯もあり、今回もまた、早朝よりトルコリラは市場の洗礼を浴び大きく値を下げています。対円では13円割れ付近 、前週末比では-13%という通貨とは思えない暴落を演じています。
金利の考え方
まず、「為替を動かす3要素」として、金利、需給、投機の3つがあります。この3つが微妙に絡んで通貨のレベルや、着地点を決めていくのです。
- 金利の変動
金利は通貨の強弱を決めるひとつの要因です。 - 需給
中長期的には、証券投資や、貿易決済などの需給が要因となります。 - 投機
投機とは実需の裏付けがないものをいいます。
この3つのうち、今回の変動の要因である「金利」の基本的な考え方をおさらいしておきましょう。
見た目の金利は「名目金利」と言いますが、外国為替市場で重要になってくるのは「実質金利」です。 実質金利は、名目金利から予想物価上昇率を引いたものです。
実質金利(%)=名目金利ー予想物価上昇率
トルコの場合は、物価の上昇率が高いので、 相対的に実質金利が高くなければいけないわけですが、トルコの実質金利はマイナスの時代が多かったのです。しかし、ここにきて11月以降利上げに転じ、 結果的に実質金利がプラス圏に浮上してきました。昨年の11月以降、15円まで超えて25%近く上昇したのには、こうした背景がありました。
今回、中銀の総裁を更迭したということで、また暗雲が立ち込める状態になってきたわけですが、次に新興国通貨の考え方をおさらいしてみましょう。
新興国通貨の考え方
市場流動性が乏しい
安易にスワップ金利を狙っていくと、とんでもないしっぺ返しがあるので注意が必要です。
格付けが低く高金利
高金利を提示しないと国際的なお金が入ってこないこういう理由からです。ここを狙って安易にスワップ金利を狙いにいく日本人が多いのですが、要注意です。
インフレで経済が過熱しやすい
経済成長が著しく、インフレで経済が過熱しやすいので、こうした側面からも高金利を提示しています。
国際資本の影響を受けやすい
米国では新型コロナウイルスのワクチン接種拡大で、経済活動の再開が見え、金利が上昇してきました。米国は格付けが高い国なので、こうした国にお金が戻っている現状があります。利上げというのは自国を守るためには必要な金融政策なので、新興国ではブラジル、トルコなどで利上げが相次いでいます。
トルコの格付け
大手の格付け会社は、国際的な機関投資家が投資を進めやすいようにベンチマークということで、 色んな国や企業の格付けをしています。以下がトルコの格付けですが、こちら全てに共通するのが「投資不適格」という格付けで、 投資すると元本が戻らなくなる可能性が高いという意味です。
・B2(ムーディーズ)
・B+(S&P)
・BBー(フィッチ)
大暴落後のトルコリラはどうなる?
11月以降の利上げもあり、実質金利のプラスは、トルコリラにはポジティブな支援材料ですが、一番重要になってくるのはエルドアン大統領の姿勢でしょう。
エルドアン大統領が、トルコ中央銀行(TCMB) アーバル総裁を解任したことから、 中央銀行の独立性に疑問がつきました。さらにトルコは慢性的な経常赤字国で、 新しい総裁にハト派の総裁を任命した場合は利下げに転じる可能性もあります。
また、米金利の上昇により、資金が新興国から米国に移動しています。以上のことから、トルコリラの対円相場は15円で一旦戻り高値をつけた可能性が大きく、依然、通貨の魅力には乏しいといえるでしょう。
動画での解説はこちらをご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=urblS9VCoro