1ドル=103円台の意味 101円台も想定の範囲内
101円方向の見通し
6日の米国外為市場でドル円は103円20銭まで円が上昇した。
「バイデン・トレードのドル売り圧力と米金利低下がドル円の逆風になっている。バイデン氏が大統領選挙で勝利しても上院が共和党のままなら、景気支援のための財政支出が小さくなり、国債増発懸念が後退するほか、新型コロナウィルス第3波が押し寄せる中で米金融政策への負荷が大きくなるため、米金利は下がりやすくなる」
(日本の大手証券・為替チーフストラテジスト)
「ドル円が動かなかったのは、米金利上昇というドル高要因と米経常赤字拡大というドル安要因の綱引きがあったからこそで、米金利が低下に転じたことで均衡が崩れ、ドル売りだけが残った」
(外国証券東京支店・外為アナリスト)
「強力な支持線だった104円を下抜けたことでチャート上は3月に付けた101円まで次の下値目処は見当たらない。103円以下では日本の機関投資家などのドル買いも見込まれるが、バイデン勝利の確度がさらに高まれば、ドル円がもう一段ドル安方向に行く可能性がある」
(FX証券系アナリスト)
とさまざまなコメントが市場に流布している。
もっとも、筆者を含め、米国の実質金利低下トレンドを主因としたドル先安見通しが9月のFOMC以降から主流だったゆえ、意外性はないし、1ドル=101円台となったとしても想定の範囲内と言える。
円高が独歩的に進行しているわけではないが、確かに10月21日の「米国追加経済対策期待の失望」以降、105円割れが定着した感がある。これほどドル円が低迷したのは、約4年ぶりだ。
新型コロナウィルス・ショックで101円18銭を付けた3月のときは翌日には、たちまち105円台まで戻している。足元の104円台定着からの103円台突入は過去4年間なかった動きと捉えるべきであろう。いわば潮目が変化し始めたと言える。
したがって当面の中で、たとえ104円台後半に戻すことが何度かあっても、トレンドは101円方向と見通しておくべきである。それでも「103円台を割り込んできたら日本の財務省・日銀が対応してくる可能性がある」との見方をする向きは必ず出てくる。
だが、日本もコロナ禍の長期化(直近では1日の新規感染者数が1千人越えとなってきた)が見込まれる中、景況感の回復は緩慢とみられ、川上でのデフレ圧力も既に顕在化している。となると必然的に日本のインフレ期待の低下と実質金利の上昇を通じた円高圧力を高めやすくなる。
最新の9月度日銀短観によると、事業計画の前提となっている今年度下期の想定為替レートは107円30銭。足元のドル円は、それを約4円も下回っており経済界からは円高抑制を求める声が次第に高まってくるのは間違いあるまい。
ただでさえパンデミックの長期化で四苦八苦しているのに、円高が重なってくれば、泣き面に蜂である。ただ、金融緩和を巡っては、円高を抑制する政策に乏しいとみられる上にマイナス金利引き下げなどの追加緩和には常に副作用への懸念が付きまとう。「必要であれば追加緩和を躊躇しない」と枕言葉の如く伝えている黒田日銀総裁も、実際は竹光すら抜けまい。
中国の仕掛け説
一方、ドル安の背景に中国政府の存在を主張する向きも少なくない。「米国長期金利が10月20日あたりから明白に上昇し、11月3日には0.9%台となった。ドルが買われるはずが逆にドルが売られたのは米国大統領選に絡んだ中国の動きがある」というのである。
日経(10月27日)は次の様に記している。
-米国債売りを主導するのは投機筋だ。
CFTC(米商品先物取引委員会)によると、30年物国債の売り越し規模は23万枚(1枚は10万ドル)と統計で遡れる2001年以来、最大になった。10年物国債でも買い越しが縮小し、投機筋の売りが急速に膨らんでいる。
この動きの背景に、中国の動向を察知したからだとの見方が流れている。世界有数(日本に続く2位)の米国債保有国(1兆680億ドル)である中国が米国債を手放してドル売りに動いているとの見立てだ。保有額は今年2月以降、減少傾向が続いている。実際に中国が「米国債売り」に動いているかどうかはブラックボックスだ。
「海外勢全体がドル建て資産を売却し、大統領選前に持ち高を調整している」(大手証券の話)との見方を示す。10月中旬にかけて中国人民銀行は人民元の売買の基準値を元高ドル安に設定した。
つまり、米大統領選を横にらみしながら中国政府が米国債を手放し、ドル売りに動いているとの思惑が、米国長期金利上昇とドル安という流れにつながっている-
ようするにバイデン大統領勝利に向けた中国政府の動きだというわけだ。確かに米大統領選をめぐっては、事前調査で民主党バイデン候補が優勢とされてきた。
だが開票が開始されたアジア時間4日には、激戦州とされたフロリダ州での勝利などトランプ大統領の巻き返し、そして一方的勝利宣言がなされるや人民元相場は一時軟調な値動き(1ドル=6.66人民元→6.745人民元)となった。しかし、その後、バイデン氏票の優勢、勝利接近の動きに連れ、人民元は2018年7月以来の6.58台まで上昇した。
「バイデン政権となると根本的な経済覇権をめぐる対立構造は残るにせよ、現職のトランプ政権に比して対中政策が穏健なアプローチとなり、米中間の緊張が緩和されるとの中国政府の見通しに沿った動きだ」との見方自体は間違ってはいまい。
だからといって、この先も「米国債売り・人民元高」のトレンドが続くかどうかは定かではない。人民元相場がどうあれ、「ドル安」トレンドが、しばらく続くとの見通しを持つべきであろう。
ドル下落の必然的環境
米大統領選はトランプ陣営による数十件に及ぶ選挙に絡んだ訴訟案件の行くえを「取るに足りない」と捉える限り、バイデン勝利である。米国の法律では、12月14日の選挙人投票の6日前である12月8日までに各州の選挙結果を確定する必要がある。
仮にトランプ陣営の訴訟の中で「票の再集計」もしくは「集票結果の一部除外」といった連邦最高裁の決定が下ると12月14日の選挙人に欠員が生じ(選挙結果未定により選挙人が確定できない)、バイデン氏の270票クリアーが不可能(トランプ氏はもはや270票以下)となる可能性が高まる。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
全文を読みたい方は、イーグルフライ掲示板をご覧ください。
(この記事は 2020年11月10日に書かれたものです)