利下げでもFOMCの亀裂が長期金利を上昇させる

視界不良のなかでの利下げに対してはFOMC内でも反対が多数に上った
12月9~10日のFOMC(米連邦公開市場委員会)は0.25%の追加利下げを実施し、FF金利の誘導目標を3.5~3.75%(中央値3.625%)に引き下げた。利下げは3会合連続となった。
FOMCは雇用最大化と2%インフレの達成という2つの責務を負うが、政府閉鎖の影響で、雇用、物価の両統計が発表されておらず、いわば視界不良のなかでの利下げとなった。
声明では、弱めの雇用について「雇用の伸びは今年鈍化し、失業率は9月末までやや上昇した。より最近の指標もこうした動きと整合的だ」とし、「雇用の下振れリスクはここ数カ月に高まった」と述べた。
これに対し、高止まりしている物価上昇率については「インフレは今年の早い時期以降に上昇しており、幾分高止まりしている」と述べるにとどまり、雇用のリスクをより重視する姿勢を示した。
今後の政策調整については「金利誘導目標レンジに対する追加的調整の程度とタイミングを検討する上で、委員会は今後入手するデータや変化する見通し、リスクのバランスを慎重に見極める」と述べた。
前回10月会合の声明では「金利誘導目標レンジに対する追加的調整の程度を検討する上で…」と書かれ、「タイミング」という文言はなかった。今回「タイミング」の文言が入ったことは、当面、追加利下げが念頭に置かれていないことを示しているとされる。
同様の表現は昨年12月FOMCの声明でも使われていたが、その後、FF金利は9か月間据え置かれた。
今回の利下げ決定に対しては、カンザスシティー連銀のシュミッド総裁とシカゴ連銀のグールズビー総裁の2人が、いずれも据え置きを主張して反対票を投じ、一方、マイランFRB理事は、より大幅な利下げを求めて0.25%利下げに反対した。
トランプ大統領の意見を反映して大幅利下げを主張したマイラン理事の反対は別として、今回発表されたドットチャートをみると、金利据え置きを唱えるのは2名だけでなく、投票権を有せず、今回の利下げに反対したメンバーも多かったことがわかる。
ドットチャートでは25年末のFF金利の予想として、今回引き下げられたFF金利の水準である3.625%を予想したメンバーが12名、引き下げ前の水準である3.875%を予想したメンバーが6名、0.5%利下げによる3.375%予想したメンバーが1名いた。
ここから、6名が利下げに反対し、金利据え置きを主張していたことがわかる。さらに、26年末のFF金利の予想については、まったくばらばらで、コンセンサスが得られていない。
今回引き下げられた3.625%に比べると、1回利上げ(3.875%)予想が3名、3.625%のまま据え置き予想が4名、1回利下げ(3.375%)予想が4名、2回利下げ(3.125%)予想が4名、3回利下げ(2.875%)予想が2名、4回利下げ(2.625%)予想が1名、という状態だ。
メディアは「FOMCが来年1回の利下げ(3.375%へ)を予想している」とするが、3.375%という水準はあくまでも中央値であり、コンセンサスではない。
このように、FOMCメンバーの予想のばらつきが非常に大きくなっているのは、
- 直近の経済統計が発表されていない点、
- そのため、メンバーによって現状の経済についての認識も異なる点、
- FOMCが目標を上回るインフレと弱い労働市場という二つの問題を抱え、
このうちどちらを重視するかについてもメンバーによって分かれている点、
などがあるからだとみるのが一般的だ。
例えば、今回、金利据え置きを主張し利下げに反対票を投じた2名も、考え方が違う。
カンザスシティ連銀のグールズビー総裁は、反対票を投じた理由が「インフレ率が米金融当局の目標を4年半にわたって上回っており、ここ数か月は一段の改善が停滞している」として、インフレ高止まりへの懸念を利下げ反対の理由と説明した。
一方、シカゴ連銀のグールズビー総裁は、インフレに関する追加データを待つべきだとし、データが不十分であることを反対の理由とした。
グールズビー総裁はどちらかと言えばハト派で、26年の利下げについては、FOMCメンバーの大半より多い回数を予想していると述べている。
レームダック化するパウエル体制は分裂気味、来年5月以降は超ハト派FRB議長と他のFOMCメンバーとの意見対立が金融政策の信認を低下させるおそれ
ただ、そうした表面的な理由のほかに、パウエル議長の任期が残り半年となり、そのリーダーシップが欠如し始めていることも、FOMCメンバーの予想のばらつきの要因になっているのではないかと考えられる。
パウエル議長は記者会見で「労働市場には著しい下振れリスクがある」と雇用下振れのリスクを強調する一方、「インフレは大半が関税が原因」「新たな大規模関税の発表がないと仮定すれば、財のインフレは1~3月にピークを付ける」と述べ、インフレに関して、明確な見通しを示した。
PCEデフレーターの最新9月時点の数字は前年比2.8%と目標の2%を上回っている。確かに、FOMCメンバーのPCEデフレーターの予想は25年末2.9%、26年末2.4%となっており、パウエル議長の述べる通り、来年にはインフレ率が低下するという予想になっている。
だが、「現在のインフレが関税の影響によるもので、関税の一時的な影響が薄れるために、インフレは減速する」というパウエル議長の説明は、ある意味わかりやすいが、事実ではない。
PCEデフレーターのうち、関税発動前の今年3月から9月にかけての財の上昇率は1.0%、同期間のサービスの上昇率は1.5%と、関税の影響が少ないサービスの方が物価押し上げに大きく寄与している。
また、9月時点での財の前年比上昇率は1.4%、サービスの前年比上昇率は3.4%とサービスの方が高い。
パウエル議長が述べるように、「インフレは関税による財の上昇によるもので、関税の影響が来年には薄れるため、財の上昇は来年1~3月にピークアウトし、インフレも鈍化していく」という、今後のインフレについての予想は説得力に乏しい。
もともとは弁護士であるパウエル議長の経済指標の見方については、やや怪しい点があり、過去についても、インフレ見通しを誤り、インフレへの対応が遅れた。
パウエル議長は・・・
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2025/12/15の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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