高市政権の経済政策 成長要因として期待できるもの

経済対策の規模は昨年の14.8兆円を上回る17兆円超に膨れ上がるが…
高市政権は「責任ある積極財政」を掲げ、景気刺激策を打ち出す意向だ。
手始めに、11月下旬にも物価高に対応する経済対策をまとめ、その財源の裏付けとなる25年度補正予算案を編成し、今臨時国会で成立させる方針とされる。
経済対策の規模は、一般会計からの追加支出が14兆円程度で、ガソリンの暫定税率廃止など減税分を合わせた規模は17兆円超となるもようだ。
昨年の経済対策の規模は14.8兆円(うち一般会計からの支出は13.9兆円)だったが、これを上回るものとなる。さらに、数値上、財政投融資などを含めた総事業規模は20兆円程度に膨れ上がる。
コロナ後、国の一般会計予算規模は、当初予算である程度抑制されても、補正予算で歳出規模が大幅増額されるというのが通例になっている。
最近の当初予算と補正予算の歳出規模を比較してみよう。
2020年度は当初予算の102.7兆円から補正予算では175.7兆円へと73.0兆円増額、
21年度は同106.6兆円から142.6兆円へと36.0兆円増額、
22年度は同107.6兆円から139.2兆円へと31.6兆円増額、
23年度は同114.4兆円から127.6兆円へと13.2兆円増額、
24年度は同112.6兆円から126.5兆円へと13.9兆円増額された。
コロナ禍が収まっても、補正予算で10兆円超ばらまかれる、という慣行は続けられている。
このように、補正予算での支出増額は特段目新しいことではないが、高市政権の積極財政姿勢を示すためにも、対策規模は少なくとも昨年(14.8兆円)を上回る必要があるわけだ。
今回の対策は、大きく分けて、「生活の安全保障、物価高への対応」「危機管理投資、成長部投資による強い経済の実現」「防衛力と外交の強化」の3つの柱がある。
生活の安全保障、物価高への対応
第1の「生活の安全保障、物価高への対応」としては、冬季電気代、ガス代支援(1.0兆円)、ガソリン座員低税率廃止(ガソリンの旧暫定税率廃止までのつなぎ補助、1.5兆円)、中小企業への賃上げ補助、重点支援地方交付金の拡充、などが主な内容だ。
危機管理投資、成長部投資による強い経済の実現
第2の「危機管理投資、成長部投資による強い経済の実現」は、AI・半導体など投資支援、造船分野の基金創設(1兆円規模)、などが主な内容だ。
防衛力と外交の強化
第3の「防衛力と外交の強化」は、防衛費のGDP比を25年度以内に2%に引き上げること(防衛関連予算増額、1.3兆円)などが主な内容だ。
その先の26年度以降に実施を目指す政策としては、高校無償化(対策規模は0.6兆円)、小学校の給食無償化(同0.2~0.3兆円)、所得税の非課税枠引き上げなどがある。所得税の非課税枠引き上げについては、年内に制度設計がなされる予定だ。
ちなみに、国民民主党の主張するように、所得税の基礎控除・給与所得控除額の水準を現行の103万円から178万円まで引き上げ、住民税についても同様の措置を講じるケースでは、
税収の減少額は7~8兆円に達すると試算されている。
さらに、その先の課題としては、給付付き税額控除、消費税減税(食料品を対象に2年間税率ゼロとする)などがある。
前者は、通常の税額控除(減税)で控除しきれなかった金額を、非課税世帯や低所得者にも現金で給付する仕組みだ。早期に制度設計が進められる予定だが、給付額の算定には、国民一人ひとりの正確な所得や資産の状況を捕捉する必要がある。
ただ、マイナンバーカードの普及率もいまだ8割程度(2025年7月末時点で約79.4%)にとどまっている。国民一人ひとりの所得、資産の正確な捕捉には程遠い状態だ。
後者の食料品の消費税減税については、立憲民主党が主張する対策で、実施されれば年5兆円とかなりの規模になる。
だが、高市政権は、消費税減税に対しては否定的であり、当面の食料品価格引き下げの対策としては、お米券程度だ。
毎年恒例の対策で、追加的な景気押し上げ効果は大きくない
では、高市政権の当面の対策が経済に及ぼす影響はどの程度か?
今対策のうち、はっきりしている対策の規模は、電気・ガス代補助は1.0兆円(対GDP比0.16%)、ガソリン暫定税率廃止は1.5兆円(同0.24%)、防衛関連予算増額が1.3兆円(同0.21%)で、これだけで計3.8兆円となり、GDPに対する比率は0.6%程度になる。
本来であれば、0.6%分、GDPが押し上げられる計算になる。ただ、このうち、電気・ガス代補助については、23年1月以降、夏季、冬季を中心に断続的に補助が行われており、これまでに3年間での累計予算は4.5兆円超(年平均約1.5兆円)に上っていた。
確かに、今年7~9月の夏季補助は平均的な家庭で3か月累計3,000円程度だったが、来年1〜3月の冬季補助は計6,000円程度と、今年7~9月の補助を上回るとされている。
だが、1兆円程度の補助金は、例年分の補助金を多少上回るにすぎず、国民の不満をかわし、低迷している消費をこれ以上低迷させないための最低限の対策と言えなくない。
また、ガソリン暫定税率廃止により、ガソリン価格は25円/Ⅼ程度低下すると見込まれるが、現行の補助金によってガソリン価格は10円/Ⅼ程度引き下げられている。
現行の補助金がなくなるため、今回のガソリン暫定税率廃止のネットのガソリン価格押し下げ効果は15円程度で、GDP押し上げ効果も0.1~0.2%に過ぎない。
他方、防衛関連予算増額は、現在GDP比1.8%の防衛関連費を2.0%に押し上げるだけの措置だ。しかも、増加分の多くは米国からの武器輸入などに回る可能性が高いため、GDPを押し上げない。
ちなみに、防衛関連費は、現在9.9兆円(25年度の防衛費当初予算8.7兆円に海上保安庁の経費などを含めた数値)となっている。
高市首相は、27年度としていた、防衛関連費の対GDP2%への達成時期を25年度に前倒しする意向だが、この計算のベースとなっている22年度の名目GDP(見込み)は560兆円で、25年度当初予算ベースの防衛関連費の対GDP比はすでに1.8%となっている。これを対GDP比2.0%の11.2兆円に引き上げるためには、1.3兆円の増額で済む。
仮に、トランプ政権が最終的に求めている対GDP比5%に相当する28兆円に引き上げるためには、さらに16.8兆円の増額が必要となる。
長期的にみると、この大きな金額がGDPを押し上げることが期待されるが、多くが米国からの武器等の輸入に回るとすれば、やはり日本経済の押し上げ要因にはならない。
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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2025/11/17の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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