日銀は12月に利上げするのか?

政策金利は据え置かれたが、日銀は「経済・物価情勢の改善に応じて、金融緩和の度合いを調整していく」金融正常化の姿勢を変えていない
日銀は10月29~30日の金融政策決定会合で政策金利を0.5%で据え置くことを賛成多数で決定した。
今年1月の会合で政策金利は0.25%から0.5%に引き上げられたが、その後、6会合連続での金利据え置きとなった。前回9月会合同様、高田審議委員と田村審議委員の2人が金利据え置きに反対した。
高田審議委員は「消費者物価は既におおむね物価安定の目標に達する水準にあり、物価安定目標の実現がおおむね達成された」として、また、田村審議委員は「物価の上振れリスクが膨らんでいる」として、0.75%への利上げの議案を提出したが、反対多数で否決された。
日銀の経済・物価見通しは、ほとんど変わっていない。
3か月ごとに発表される「経済・物価情勢の展望」(いわゆる展望レポート)によれば、実質GDP成長率については、25年度0.7%(前回7月見通しは0.6%)、26年度0.7%(同0.7%)、27年度1.0%(同1.0%)だった。25年度がわずかに上方修正されただけだった。
また、生鮮食品を除くコア消費者物価の前年比については、25年度2.7%(前回7月見通しは2.7%)、26年度1.8%(同1.8%)、27年度2.0%(同2.0%)と全く変わらなかった。
生鮮食品、エネルギーを除くコア・コア消費者物価の前年比については、25年度2.8%(前回7月見通しは2.8%)、26年度2.0%(同1.9%)、27年度2.0%(同2.0%)と、26年度がわずかに上方修正された。
26年度のコア・コア消費者物価がわずかだが上方修正され、2%物価目標に相当する上昇率になったことで、コア・コア消費者物価は27年度にかけて3年連続で2%目標が維持できるという予想になったことになる。
26年度のコア・コア消費者物価前年比の予想が2%であるのに対し、エネルギーを含めたコア消費者物価の前年比が26年度に2%を下回り、1.8%に低下する予想になっているのは、エネルギー価格下落の影響という見方ができる。
展望レポートの記述に関する意見として、田村審議委員から「基調的な物価上昇率は見通し期間の半ば以降、物価安定の目標とおおむね整合的な水準で推移する」と記述すべきではないかとの案が提案された。
結果的に否決されたが、この予想数値だけをみると、田村審議委員の見方も間違っていないようにみえる。
以上の通り、予想数値はほとんど変わっておらず、また、後述するように、トランプ関税の影響で、成長率が一時的に伸び悩み、それに合わせてインフレ率も鈍化するというシナリオも変わっていない。
今回の展望レポートでは、経済について、「各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは伸び悩む」「その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていく」と書いている。
また、物価については、「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、米などの食料品価格上昇の影響が減衰していくもとで、来年度前半にかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していくと考えられる。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペースの影響などを受けて伸び悩む」「その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には『物価安定の目標』と概ね整合的な水準で推移する」と書いている。
前回7月レポートの記述と比べると、当面の成長ペースについて「鈍化する」が「伸び悩む」と表現がやや和らいだ。
コア消費者物価については「2025年度に2%台後半となったあと、2026年度は1%台後半、2027年度は2%程度となると予想される」が「来年度前半にかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」とやはり表現が若干変わった。
このように、表現が多少変わったものの「短期的に景気と物価は下振れするが、その後は2%物価目標の実現に沿って推移する」という見通しは変わっていない。
そして見通しが変わっていないということは、日銀が金融正常化のための金利調整を続ける姿勢も変わっていないということにもなる。
「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」というのが、現在の日銀の金融政策の基本姿勢だ。
なぜ、政策金利の引き上げができなかったのか?
では、なぜ今回、政策金利が据え置かれたのか。
日銀は5月以降の政策決定会合で「各国の通商政策の不確実性」を政策金利据え置きの理由としており、今に至っている。
7月22日に日米が関税措置で合意したが、日銀の判断は、不確実性は低下したが、不確実性の水準は高いというもので、その後も「不確実性は低下しているが、不確実性の水準は高い」ことが、政策金利据え置きの理由とされている。
今回、植田総裁は記者会見で、米国経済について、「AIなどの強さが予想以上で、関税の影響が後ずれしていることなどから底堅い状況が継続している」「今後は消費者への関税の転嫁がさらに進むと考えており、消費と景気へのマイナスの影響がこれまで以上に大きくなるリスクはある」「ただ、今後関税の消費者への転嫁は緩やかに進むとみており、今後の米経済の下方リスクは7月にみていた頃とくらべるとやや低下している」と述べた。
このように、植田総裁は、関税の影響がなお大きな問題であるかのように述べているが、現状で米国経済に関する、より大きなリスクは、関税の物価への転嫁による消費下振れというより、AIバブルの崩壊による消費下振れではないかと思われる。
AIへの期待に加えて、トランプ政権によるFRBに対する政治的な介入が来年に向けて強まり、大幅な利下げが実施されるのではないかとの思惑もあって、米株式市場の高値更新の動きは続いており、株価のバリュエーションは1990年代末のITバブル時に匹敵する高さになっている。
雇用の伸び悩みにより、中低所得者層の消費意欲が低迷しているが、株高による資産効果による高所得者層の消費増加が米国景気を支えているというのが実態だ。
そうしたなか、どこかで株式市場の調整が起これば、逆資産効果による消費の落ち込み→景気悪化→景気悪化を反映した株価の一段の下落という形で、株式市場主導で米国経済がリセッション入りするリスクがある。
もう一つの利上げ据え置きの理由として、発足したばかりの高市政権への配慮(忖度?)があったことは間違いないだろう。
実際、オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場での、10月政策決定会合時の利上げ確率は、9月30日時点で68%に上昇していたが、10月4日の高市氏の自民党総裁就任を契機に急低下し、約1週間後の10月6日時点では19%となった。
利上げ観測が薄らいだのは「日銀としても、就任当初の高市首相と事を構えるようなことは避けたいだろうから、10月末の政策決定会合での利上げは見送るのではないか」の思惑が金融市場で強まったためだろう。
高市首相の誕生で、為替市場が円安に振れるなど、物価上振れ懸念もあるが、金融市場の思惑にあえて逆らうほど、利上げを急ぐ状況ではない、というのが日銀の考えだったのではないだろうか。
そのほか、利上げ見送りの理由について、植田総裁は、「来年の春闘に向けての労使の交渉姿勢がどのようなものになるか、もう少しデータをみたい」「本支店を通じたヒアリング情報も用いて企業の賃金設定スタンスや具体的な賃金の動向を分析したい」と述べた。
ただ、植田総裁は「利上げ判断について必要なのは、米国経済の不確実性の低下ではなく、の来年の賃上げの初期のモメンタムなのか」との記者からの質問に対し、「大事な焦点としては春闘の最初の動きをみたいというところでございます。それが判断できそうになるタイミングまでに、例えばアメリカ発でみているよりも大きな負のニュースが出てくるかどうかというような感じでみていきたい」と述べており、実際には「来年の賃上げの初期のモメンタム」を最重視しているようにはみえない。
賃金動向については、26年春闘に向け、連合は3年連続で「5%以上」の賃上げを求める方針をすでに打ち出している。企業側も、人手不足環境で賃上げによって労働力を確保せざるを得ない状況だ。そうした点を考えると、賃上げがストップするリスクはさほど大きくないだろう。
日銀にとって「賃上げ」は、この先、確認すべきデータではあるが、利上げの阻害要因であったとは思えない。
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2025/11/4の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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