米経済統計の信頼性が低下している

雇用統計の大幅下方修正により米経済統計への信頼性に疑問が向けられ始めた
8月1日に発表された7月の米雇用統計では、非農業雇用者数の5月、6月分が大幅下方修正された。
5月が速報値の前月比14.4万人増から12.5万人下方修正され1.9万人増となり、6月が速報値の14.7万人増から13.3万人下方修正され、1.4万人増となって、2か月累計で25.8万人の下方修正となった。続く7月も7.3万人増と低水準な増加にとどまり、米経済についての認識を改めざるをえなくなった。
これに対して、トランプ大統領は、統計の数値が「不正に操作」されており、自身の政権を「悪く見せる」ためのものだと主張して、米労働統計局のエリカ・マッケンターファー局長を解任した。トランプ大統領は「不正な操作」と述べたが、月次で発表される雇用統計の修正は日常茶飯事というのも事実だ。
米労働省によると、1979年以降の記録では、雇用統計の月次修正幅は、上方・下方の平均で5.7万人となっている。非農業雇用者数の推計は、全米12.1万の雇用主(企業)を対象とした、事業所調査を元になされる。
初期に発表される速報値は、主として、回答が早めに寄せられる大企業からのデータを元に推計がなされる。初期の推計の後、2か月間にわたり数値が更新されるが、回答が増えるにつれて統計の精度が高まることになる。
ただ、後から寄せられた回答は、経済の変化を受けやすい中小企業の割合が高くなる傾向があるため、現在のように関税によって経済の不確実性が高まっている状況では、雇用統計は下方修正されやすいと言える。
今回、5~6月の雇用統計では、他の経済統計がさほど良好なものでなかったにもかかわらず、雇用統計の良好さが目立っていた。6月の雇用統計では、夏季休暇前の時期にもかかわらず、学校関連の雇用が異例なほど増加していたため、下方修正は避けられないとの見方もあった。
だが、5月、6月の雇用が堅調に増加していたことから、金融市場関係者の大方の見方は「トランプ関税が米国景気に悪影響を及ぼすとみられていたが、実は関税の影響は限定的で米国経済は強い」と、ポジティブな評価がされていたように思う。
今回の5月、6月の計25.8万人分の減少がかつてない大幅な修正で、新型コロナウイルスの感染拡大後の2020年を除けば、統計開始以来最大の修正幅だったことは、米経済についての見方を一変させるものになったことは確かだろう。
統計の上方修正、下方修正によって、経済に対する見方が大きく変わってしまうことになったわけで、結果的に、経済統計の信頼性も低下している。
政府効率化のための人員削減により正確なデータの収集ができなくなっている
問題の根は深い。経済統計の信頼性低下の背景には、十分なデータが集められなくなり、その結果として、精度の高い経済統計が作れなくなり、経済実態の正確な把握もできなくなっているという点だ。
長期的にみると、過去10年間で調査に対する回答率が低下し、回答がより政治色を帯びたものになっているようだ。雇用統計の事業所調査で言えば、回答率は10年前には60%を超えていたが、今年3月には43%未満に低下している。加えて、今年に入ってからのトランプ政権による政府効率化のための人員・予算削減措置は、間違いなく統計の精度に影響を及ぼしている。
トランプ政権の政府効率化の方針は、大規模な人員削減と歳出削減を通じて政府の規模を劇的に縮小しようとするものだ。トランプ大統領が就任した1月20日、雇用統計や物価統計を発表する労働省は新規採用を凍結した。
労働省が収集、発表する消費者物価統計の場合、4月から、価格を調査する事業所の数、サンプル数が削減された。この削減措置は、採用凍結が解除され、新たな職員の採用と訓練が可能になるまで継続される予定だ。
調査サンプルが少なくなった場合、どのように数値の推計がされ、統計が作られるのか。
米労働省は、調査されなくなった地域の価格については、異なる地域で調査された価格などを参考に、代入推計(「異なるセルの補完法」)」を行なっているようだ。この、代入推計の割合は今年2月時点では9%だったが、4月には35%に急上昇している(図1参照)。

実際に調査がなされず、推定値で代用されるケースが全体の3分の1強に高まっていることになる。現在、米国経済の動向をみるうえでの最大の注目点の一つは、関税がいつ国内物価に転嫁されるかという点だ。
雇用者数のデータが下方修正されたことで、米国景気はかなり危うい状態で、9月FOMCでの利下げが必要という見方が高まっているが、一方で、関税の影響による物価上昇が懸念されているというのも事実だ。
もし、・・・
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2025/8/12の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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