外国人問題をどうみるか?

日本でも現実に即した「移民政策」が必要に
今回の参院選では、物価高騰対策などのほか、外国人問題が争点の一つになった。
米国では、移民を積極的に受け入れてきた前バイデン政権に対し、トランプ氏が不法移民対策を公約に掲げ、大統領選に勝利し、すでに不法移民の強制送還に向けた取り組みを強化している。
欧州でも、移民(難民)の増加に対し、自国優先の考えが強い右派が勢いを強めており、特にドイツでは今年2月の総選挙で移民・難民排斥を唱える極右「ドイツのための選択肢(AfD)」が議席数を伸ばした。
こうした欧米の動きをみると自国民優先志向は世界的な流れだとみる向きもある。
だが、日本の場合、現時点では、欧米のように移民流入によって失業が増加したり、労働者の賃金が下落したりする事態が生じているわけではない。また、外国人の増加に伴って外国人による犯罪が目立って増えているわけでもない。
「犯罪白書」によれば、2023年の外国人による刑法犯の検挙件数は1万5,541件と前年比20.0%増加したが、ピークだった2005年の4万3,622件に比べると、大幅に減少している。また、2023年の外国人の刑法犯検挙人員数は9,726人で、全体の刑法犯検挙人員総数(18万3,269人)に占める外国人の比率は5.3%とわずかにとどまる。
日本の総人口に占める外国人の比率である2.7%(総務省によれば2025年1月1日時点の総人口は1億2,355.2万人、うち外国人人口は340.2万人)に比べると高く、日本人に比べると外国人の犯罪比率は高いと言えるが、「外国人の増加のせいで日本の治安が悪化している」とは言えないだろう。
欧米と違って、日本の場合、特異な事情がある。
すなわち、外国人の人口が増加するなかにあって、これまで日本政府は、外国人に対する明確な政策を示してこなかった。外国人は増えているが、日本政府は原則「移民」を受け入れていないことになっている。「移民」の定義は必ずしも定まっているわけではない。
OECDによれば「1年以上外国に居住する人」が移民であり、また、国連の機関である国際移住機関(IOM)によれば「本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」だ。
だが、日本政府は「入国の時点で永住権を有する者」(「『共生の時代』に向けた外国人労働者受入れの基本的考え方」(2016年5月24日、自民党、労働力確保に関する特命委員会」より)と非常に狭く定義している。
この定義に従えば、日本には移民がほとんど存在しないということになる。日本では2019年4月に外国人労働者の受け入れを拡大する新しい制度が始まった。
新制度開始にあたって、当時の安倍元首相は、2018年12月10日の記者会見で「今回の制度は移民政策ではないかという懸念について、私はいわゆる移民政策ではないと申し上げてきました。受け入れ人数には明確に上限を設けます。そして、期間を限定します。皆様が心配されているような、いわゆる移民政策ではありません」と述べていた。
現在の日本において、受け入れた外国人はあくまでも、短期間で帰国してもらうことを前提とした「労働者」であり、労働者であると同時に生活者でもある「移民」ではない。長期的、構造的な労働力不足に対応して、日本は外国人労働者への依存度を高めていく必要があるだろう。
そうした現実を直視した場合、外国人を短期的な「労働者」として受け入れるのは矛盾している。政府の矛盾した施策の結果として、外国人、日本人ともに不満が増大し、不信感が募る。
「労働者」として受け入れられた外国人の側からみると、いつ帰国させられるかわからないといったその地位の不安定さが問題になる。
外国人労働者を単に短期労働者として扱おうというのは「ゲストワーカー」モデルと呼ばれ、現在も、中東のドバイなどではこうしたモデルが採用されているが、倫理的な問題も指摘されている。
ゲストワーカーというのは、在留期間が限定され、在留期間が終了すると強制的に帰国させられる労働者のことで、一般的に、ゲストワーカーは制度による労働者保護が十分でなく、社会に溶け込むこともない。
一方、外国人に慣れていない日本人の側からみると、移民として認められていないはずの外国人が、自分の周りに増え続けているのは不気味に感ずるのではないだろうか。
欧米の先例をみる限りでは、移民は受け入れ国の経済、社会に極めて大きな影響を及ぼしてきた。
日本政府は、増加している外国人は「短期労働者」であり、欧米で問題を起こしているような「移民」ではないとごまかした。
こうした「ごまかし」のために、移民(外国人)問題は、重要な問題であるにもかかわらず議論は不十分であり、国民の理解も得られていない。
卑近な例を挙げれば、これまで日本人だけが暮らしていた地域に外国人がいつのまにか増えていき、例えば、ゴミの出し方などについての生活ルールを守らないとか、運転マナーが悪いといった困りごとが増えていった場合、不信感が高まったとしても不思議ではない。
しかも日本語が通じず、意思疎通もできないということになれば、コミュニティーが壊れ、体感的に治安が悪化しつつあると感ずる日本人が多いのではないだろうか。今回の参院選での外国人問題の高まりについて、単に、世界的な流れに沿った、自国民優先志向の動きととらえるのは短絡的過ぎるだろう。
長期的な労働力不足に対応して、外国人労働者を増やし続け続けなければいけないとすれば、日本も現実に目に背けることない「移民政策」が必要になる。
そろそろ、増加している外国人が「短期労働者」であり、「移民ではない」というごまかしは改める必要がある。
移民が経済に及ぼす影響とは?
では、海外からの移民増加は日本経済にどういう影響を及ぼすのだろうか。
本来、国境を越えたヒトの移動はモノやカネの移動に比べて桁違いの大きな影響がある。影響が非常に大きいからこそ、国境管理も厳格になされているわけだ。
途上国から先進国へとヒトが国境を越えて移動するのは、所得面や治安面で途上国と先進国の格差が依然として大きいためだ。先進国に比べて途上国の所得水準が低いのは、先進国に比べて途上国の労働生産性が低いことが大きな理由だ。
労働生産性の低い途上国から労働生産性の高い先進国にヒトが移動したとして、途上国から先進国へ移動したヒトが、先進国における高い労働生産性に沿って高い所得を得ることができると考えた場合、途上国から先進国へのヒトの移動は、世界全体としての経済規模及び所得水準を高めることになる。
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2025/7/22の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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