ポンドもユーロも一段安必至か
ハード・ブレグジット予想の台頭
今年1月31日、英国がEUから離脱(ブレグジット)し、12月31日までは移行期間として、ほぼ日常的には変わらぬ「EU国」を過ごしている。6月末までに移行期間の延長申請は可能だったがジョンソン政権は拒否。したがって来年1月1日からのブレグジットへの詳細合意を急ぐ必要がある。
これまで都合9回の「英・EU通商協議」を重ねてきたが、合意には程遠く、このままだと来年1月からは「ハード・ブレグジット」(完全な離脱)に突入することになる。英ジョンソン首相は「止むを得ない。納得のいかない譲歩より余程ましだ」との強気姿勢のままだ。
9月9日、英政府はEUと結んだブレグジット協定の一部を一方的に修正する法案を英議会に提出した。これに対し、米民主党ペロシ下院議長が直ちに反応。「米英FTA(自由貿易協定)」が米議会を通過する確率は絶対にないだろう」とし、この法案を成立させた場合の対応を明確に示した。
米国議会が真っ先に反対したのは、悲惨な紛争に苦しんだアイルランドの和平に再び波風が立つと懸念したからだ。北アイルランド紛争を終結させた1998年の和平合意では、当時の米クリントン大統領(民主党)が仲介役を務めるなど、強く関与してきた経緯がある。
米大統領選を前に民主党支持が多いアイルランド系住民(クリントン氏もアイルランド系)の地盤を固める狙いもあろう。
ブレグジット協定では過去の宗派や国境を巡る紛争の再発を防ぐため、英国の一部である北アイルランドと、EU加盟国のアイルランドの間に物理的な国境を設けないための解決策を盛り込んだ。北アイルランドでは関税ルールをEUに合わせ、同じ英国内のグレートブリテン島との間に関税手続き上の境界ができる仕組みを受け入れることで合意していた。
だが、ジョンソン政権が提出した国内法案では英・EUのブレグジット交渉が決裂した場合、北アイルランドを出入りする品物について、EUルールや通関上の取り決めの省略・撤回が英国の判断で可能になる条項が入った。この規定はアイルランド島に物理的な国境を設けないために盛り込んだ前提を崩す恐れがある。
EU・英国は翌10日、ロンドンで緊急会合を開催。EU側は「遅くとも9月中に英政府は法案を撤回するよう求める。国際法違反となり信頼が失われる。EU・英国間の今後の関係交渉も危機にさらされるだろう。法的義務違反に対する法的救済策などがあり、EUは行使をためらわない」(欧州委員会副委員長=EU副首相)と明確に拒否。
一方の英国政府は「国家が条約上の義務を誠実に果たすことが国際法の確立された原則だが、困難で非常に例外的な状況下では議会主権という根本的な原則を思い起こすことが重要だ」とし、「議会は国内法について主権を有しており、条約の義務に違反する法案を可決することができる」と反論(英ゴーブ国務相)。
あくまでも法案提出の撤回はしないと主張した。同時進行的に開催された「ブレグジット第8回交渉」(9月8~10日)も当然の如く、大きな進展のないまま終了した。
交渉終了後、EUバルニエ首席交渉官は「EUにとって重大な分野で大きな相違がある。漁業権や欧州司法裁判所の管轄の扱いで、EU側は英国の主権を尊重する解決策を見つける柔軟性を示したが、英国は国家補助金など規制のあり方をめぐり、EU側が求める条件の受け入れを拒んだ」と記者会見。「EUは来年1月のすべてのシナリオを想定し、準備を強化している」と結語し、締めくくった。
英ジョンソン首相は9月7日の声明で「ブレグジットのFTA交渉は10月15日のEU首脳会議を期限とする。合意なければ完全なEUとの離脱となる」と公言している。ジョンソン首相の狙い、落とし処がどの辺にあるのかは定かではない。
このまま、「ハード・ブレグジット」に突入した場合のEU・英国双方の大混乱は、パンデミック下という由々しき事態の中ゆえ、想定をはるかに越えることが予想される。
コテ先の時間稼ぎ(部分合意に向けた協議やEUによる欧州司法裁判所の仲裁手続きの開始申請など)はありうるが、10月15日のEU首脳会談前に、そうした楽観論が台頭する可能性は低い。
11日に1£=1.2769ドルと直近の安値をつけたポンドは、次のターゲット(1£=1.255ドルあたり)に向け一段の下落が予想される。
ユーロのヘビーロング整理近し
「ユーロ通貨が下落すると言ったのに、9月1日には1.2ドルの大台まで上昇し、現在も、たかだか1.176ドル台に下げただけではないか」との声もある。当レポート(8月13日号)を読んでのことと思われるが、基本的にトレンド予想に変化はない。1ユーロ=1.1625ドルを直近のターゲットと見ている。
節目は9月16日のFOMCあたりからではないか。9月10日のECB理事会では、政策金利、資産買入れ、流動性供給、フォワード・ガイダンス、物価目標の定義など全ての政策変更が見送られた。
ECBではチーフエコノミストのレーン理事が実務上で最も中心的役割を担っているが、8月27日のジャクソンホール会合で以下の発言をしていた。
コロナ危機の負のショックで下方屈折した物価動向を放置すれば、期待インフレ率の低下から危機前の物価水準を回復することが困難になる。
追加金融緩和を通じて、危機前の物価動向に復帰させる方が、より効果的で安全な政府対応になる。
PEPP(パンデミック緊急資産購入プログラム)を始めとした各種の政策は、コロナ危機の負のショックに対応したもので、この第一段階の目的が達成した後は、中期的な物価目標への速やかな収斂を促すために第二段階の政策対応が必要になる。
つまり、こうした二段階アプローチに立って年末や来年前半の段階で第一段階が終了していないと判断されれば、PEPPの増額・延長やTLTRO(貸出条件付き長期資金供給オペ)の優遇金利の適用延長などが緩和メニューとなり、第二段階への移行が視野に入っているようであればAPP(資産購入プログラム)の増額が追加緩和の軸となるということ。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
全文を読みたい方は、イーグルフライ掲示板をご覧ください。