物価高止まりのなか米景気は急減速のおそれ
景気拡大の初期場面では生産性上昇によって物価は安定するが、
景気拡大の中盤以降は生産性鈍化で物価が上がりやすくなる
通常、景気循環のなかでの景気回復初期場面では、生産活動が急拡大する反面、雇用が抑制されているため、労働生産性が高まる。
しかし、景気拡大の中盤になってくると、生産増加テンポが鈍化し、その半面、雇用が増加する。
雇用の増加テンポが生産の増加テンポを上回るようになるため、労働生産性が低下する。
また、景気回復初期場面での労働需給は比較的緩和した状態であることが多い。
労働需給が緩和状態であれば賃金上昇率も低くなることが普通だが、景気拡大の中盤になり、雇用増加に伴って労働需給が逼迫すると、賃金上昇テンポは高まっていく可能性がある。
基調的な物価上昇率を示す単位労働コストの増加率は、賃金上昇率から労働生産性上昇率を引いたものだ。
景気回復の初期場面では、労働需給緩和下で賃金上昇率が低く、一方、労働生産性上昇率が高いため、単位労働コストが低く、物価上昇率も低くなる。
しかし、景気拡大の中盤では、労働需給が逼迫下で賃金上昇率が上昇し、一方、労働生産性上昇率が低下するため、単位労働コストが高くなり、物価上昇率も高まる。
他方、景気拡大の初期場面では、生産(名目GDP)の伸びが雇用者所得の伸びに比べて高く、そのために労働分配率が低下し、企業利益は増加しやすい。
しかし、景気循環の中盤になってくると、雇用者所得の伸びが名目GDPの伸びを上回るようになり、労働分配率が上昇して、企業利益が伸び悩む。
米国経済は24年に入り、生産性低下によって物価が上昇しやすい局面に移行した
景気循環のなかでの、このような経済変数の動きの特徴を考慮して、米国経済の現状がどういう状態なのかをみてみよう。
表1は、米国経済の2023年から24年にかけての変化をみるために、名目GDP、実質GDP、GDPデフレータなどの生産関連の変数、雇用者所得、雇用者数、一人当たり賃金などの雇用関連の変数、単位労働コストなどの物価に関連する変数、労働分配率などの企業利益に関連する変数を、それぞれみたものだ。
2023年については23年10~12月の前年同期比、24年1~3月については24年1~3月の前期比年率の数値をみている。
まず、実質GDPは23年の3.1%から24年1~3月は年率1.6%に減速した。
これに対して、雇用者数は昨年の1.9%から今年1~3月に年率2.4%に加速した。
23年は、実質GDPの増加率に比べ雇用者数の伸びが低く、労働生産性(実質GDP÷雇用者数)が上昇したが、24年に入り、それが逆転し、労働生産性は低下した。
雇用者所得を雇用者数で割って計算した一人当たり賃金は、23年が4.3%で、24年1~3月は年率4.1%と、伸びはほぼ同水準だった。
前述した一般的なモデルでは、景気回復の初期場面では労働需給は緩和気味で賃金の伸びは低いが、景気拡大の中盤になると雇用増加に伴って労働需給は逼迫する。
24年に入ると一人当たり賃金の伸びは加速してもおかしくなかった。
しかし、実際の雇用増加テンポはほとんど変わらない同程度のテンポで推移している。
労働需給の逼迫度合いは、失業率の水準などからみる通り、23年から24年にかけてほぼ同程度であったため、一人当たり賃金の伸びも同程度だったとみられる。
ただ、23年に低かった労働生産性が24年になって上昇したため、単位労働コスト(一人当たり賃金÷労働生産性)は23年の3.1%上昇から、24年1~3月には年率5.0%上昇テンポが加速した。
単位労働コストの動きと符合して、実際の物価上昇率も加速し、GDPデフレータは23年の2.6%から24年1~3月に年率3.1%と加速、消費者物価上昇率も23年の3.2%から24年1~3月は年率4.2%と加速した。
一方、名目GDPと雇用者所得の動きから、労働分配率(雇用者所得÷名目GDP)がどのように推移していたかを計算してみよう。
名目GDPは23年の5.9%増から24年1~3月に年率4.8%増と鈍化する反面、雇用者所得は23年の6.2%増から24年1~3月は年率6.6%増とやや加速した。
この結果、労働分配率は23年1年間でみるとわずかに上昇しただけだったが、24年1~3月は大きく上昇した。
23年の企業利益は5.1%増加したが、24年1~3月は労働分配率の上昇によって増加に歯止めがかかる可能性が高い。
以上から、23年の米国経済は生産活動が急拡大し、労働生産性上昇によって物価上昇率が落ち着き、低水準の労働分配率によって企業利益が増加しやすい景気回復初期場面だったとみられる。
だが、24年に入り、生産の拡大テンポが鈍化し、労働生産性低下によって物価上昇率が加速し、労働分配率上昇によって企業利益が減少しやすい景気拡大中盤に移行したとみられる。
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2024/5/7の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。