金2,000ドル超の意味するもの
「信用」不安が既存通貨の価値を低下させ、金価格を上昇させる
金価格が再び2,000ドル/オンスを突破した。
2,000ドル超えは、大盤振る舞いの財政・金融政策で米国内にドルがばらまかれたことで金価格が上昇した2020年8月頃、米国のインフレ懸念が急速に高まった22年3月頃に続く、3度目のことだ。
直近の急上昇は、シリコンバレー銀行の破綻に端を発した金融不安が原因だ。
金融不安がなぜ金価格を上昇させるのか?
金本位制の下では各国通貨の価値は金に裏づけられたものだった。
しかし、管理通貨体制の現在では、ドル、ユーロ、円などの既存通貨の価値は、各国政府や中央銀行への「信用」に裏づけられている。
このため、通貨を管理すべき政府や中央銀行が信頼に値しない政策を実施する場合、あるいは、今回のように、「信用」に裏付けられた銀行システムが損なわれ、政府や中央銀行もその銀行システムをコントロールしえなくなった場合、などにおいては、「信用」に裏付けられた既存通貨の価値が低下し、金価格が上昇することになる。
2020~21年には、コロナショックに対応した財政・金融両面でのばらまき政策により、政府の信用が損なわれ、ドルなどの既存通貨の価値が低下し、暗号資産がもてはやされた。
しかし、昨年11月に、世界的に事業を展開する暗号資産交換業者FTXトレーディングが経営破綻し、ビットコインなど暗号資産のバブルがはじけた。
ビットコインは、もともと価値の裏付けのない資産で、ドルなど既存通貨への不信任の表れとして人気を集めた。
だが、こうした暗号資産価格の高騰は、17世紀オランダのチューリップバブルや18世紀イギリスの南海会社(漁業と貿易をその業務として設立された南海会社は南米とのすべての貿易の独占権を与えられ、金銀が「無尽蔵に」採掘されるメキシコやペルーとの貿易によって、会社の利益は膨大なものになるといった期待からその株価が高騰した)同様のバブルだったと考えられる。
そうしたなかで、今回、さらに「信用」を損ないかねない事態が起き、行き場を失った逃避資金が金に集中したと考えられる。
インフレ、実質金利、ドルなどの要因も、今後、金価格を押し上げる要因に
金価格を上昇させる要因は、以上のような既存通貨の価値を低下させる信用不安のほか、
1. 物価上昇 、2. 実質金利低下 、3. ドル相場下落などがあげられる。
1. 物価上昇
まず、金はインフレヘッジ商品としての代表格であるため、物価が上昇すれば金価格も上昇する。
米国の物価上昇は続いており、容易に沈静化する兆しはみえない。
例えば、米国で年率5%のインフレが続くとすれば、ドル建ての金価格は年率5%のテンポで上昇していくと考えるのが自然だ。
2,000ドル/オンスを基準とすれば、毎年100ドル程度のペースで上昇していく。
2. 実質金利低下
次に、実質金利について言えば、金は金利が付かないため、実質金利が高ければ、資金は金から債券などの利付金融商品に向かいやすくなり、金価格は下落する。
逆に、実質金利が低ければ、金に資金が向かいやすくなる。
インフレを抑制するために、FEDは強力な引き締め姿勢をとるだろうとの思惑から、昨年以降、米国の実質金利は上昇した。
だが、金融不安の高まりにより、今度は、FEDがインフレ抑制よりも金融市場の安定を重視するのではないかという思惑が強まり始めている。
インフレが今後も継続するかどうか、シリコンバレー銀行破綻に端を発した金融市場の動揺が続くかどうか、FEDがそうしたなかでどういった政策をとるか、など不確定要因が多い。
だが、少なくともシリコンバレー銀行破綻前に比べると、FEDはインフレ抑制のための強力な引き締め政策をとりにくくなっており、実質金利は低下していく可能性は高いとみられる。
だとすれば、実質金利低下も金価格を押し上げる要因になる。
物価連動債利回りを実質金利だとすると、10年もの物価連動債利回りで示される実質金利は、昨年10月以降、FEDがインフレ抑制重視の姿勢を示したことから、1.0~1.7%と高めのレンジで推移した。
ただ、直近では、シリコンバレー銀行破綻以前の3月8日の1.7%をピークに、24日には1.2%に低下している。
一方、債券市場は、インフレが比較的早期に沈静化するとみており、10年ものブレークイーブンインフレ率(10年もの名目国債利回り-10年もの物価連動債利回り)は24日時点で2.2%と低水準で推移している。
金融・債券市場は、FEDのインフレ抑制姿勢が和らいでもインフレが自然に沈静化する、といったシナリオを想定しているようだが、期待薄だ。
名目金利がさほど上昇しなければ、インフレ期待の高まりも実質金利を低下させる。
3. ドル相場下落
第3に、金はドル建てで取引され、ドルとの交換で値段がつくため、ドルが強ければ金価格は下落し、逆に弱ければ金価格は上昇する。
各国のインフレ格差を考慮した上でのドルの全般的な強さを示したドル実質実効レート指数(FRB計算、1973年3月=100の指数)は、2011年7月の83.9を底に、22年10月の121.2へと長期上上昇局面が続いたが、23年2月に114.8と反落した。
昨年10月の121.2というドル高水準は、02年のドル高水準(2002年2月、116.6)を上回り、プラザ合意時(1985年9月、124.9)以来の高水準であり、ドル高は行き過ぎた水準になっていたと考えられる。
この先も、米国の実質金利が低下するなど、ドル安につながる要因が多くなれば、ドル安が続く可能性も高い。
結局、信用不安による既存通貨の価値下落といった要因のほか、
- 米国のインフレが予想外に長期化する可能性が高いこと
- 最近の金融不安に配慮してFEDの引き締め姿勢が和らぐ可能性があること
- ドル高は行き過ぎた水準であり、今後は米国の実質金利低下などによって
下方に修正される可能性が高いこと
など、通常、金価格の動きを説明する要因の多くが金価格を上昇させるだろう。
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2023/03/27の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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