ノルドストリーム・リスクの凄さ
ドイツに超ド級の衝撃も
12日、ユーロは対ドルでのパリティ割れとなり14日には0.9952ドルと、2002年11月以来の安値となった(日本時間19日午前現在は1.0202ドルに戻している)。
しかしながら恐らく、この程度では済まないだろう。ロシアとドイツを結ぶ天然ガス・パイプライン「ノルドストリーム1」問題が、重くのしかかってくる可能性が高いからだ。
現在、「ノルドストリーム」は定期点検のため(11日~21日)、欧州向けのガス供給を停止している。
ロシアは5月末以来、欧米による制裁を理由にカナダの工場で修理していたタービンの出荷が、差し止められたことを受け、ノルドストリームを通じた欧州向け(ポーランド、ブルガリア、フィンランド、オランダ、デンマーク、ドイツ)へのガス供給を、約60%削減している。
カナダ政府は12日、タービンの出荷を認める制裁の特例許可を出したが、ロシア側で再設置が完了する8月当初以降、ガス供給を再開するかは定かでない。
もともとノルドストリーム以外のパイプラインで減少分を穴埋めできたはずであり、カナダからのタービン返送が遅れているから6割もガス供給をストップするのは不可解である。
ロシアからの天然ガス供給が8月以降、全面ストップするシナリオをECBや、BDI(ドイツ産業連盟)が想定しているのは当然の帰結と言える。
ドイツ政府は6月19日にガス消費を抑える目的で、ガスオークション(消費量を節約した企業が有利になる仕組み)の導入や石炭火力の稼働を増やす措置を発表。6月23日にはガス供給の緊急計画の警戒レベル引き上げを発表した。
この緊急計画はEU規則に基づきウクライナ危機前に策定され、「早期警戒」、「警戒」、「緊急事態」の3段階で対応方針を示したものである。
ドイツ政府は3月30日に予防措置として第1段階の「早期警戒」を宣言しており、担当省庁が供給事業者と危機管理チームを結成して状況を分析・監視することになった。
そして、ロシア産ガス供給の6割削減を受けて、EU加盟国で初めて警戒レベルを第2段階に引き上げたという流れである。
警戒レベルの第2段階になると、法律上は政府がエネルギー企業に対して調達価格の上昇分を上限なく販売価格に転嫁することを指示できるが、現時点でその措置は発動されていない。
一方、6月のドイツの消費者物価指数上昇率が鈍化したが、これは同月に物価高騰による家計負担を軽減する措置が開始されたことによるものだ。
8月末までドイツ国内の公共交通機関を9ユーロで利用可能とする時限措置であり、9月からは物価高騰トレンドに戻る可能性が高い。
これに電力・ガス代が政府許可のもとで値上げとなると、さすがのECBも利上げ幅、ペースで苦しい対応を迫られよう。なお、最終の第3段階まで引き上げられれば、政府が市場に直接介入し、ガス供給は配給制となる。
家庭や公共・社会福祉施設(病院、学校、消防、警察、食品工場など)は、優先的に配給を受けられるが、それ以外の企業向けの供給は、需給調整契約を締結しているところから順次制限される。
この段階までいくと、計画停電や工場の操業停止による生産の減少、サプライチェーンの混乱が想定されるため、経済への悪影響が一段と深刻になる。
ドイツ連銀はガスの配給制を開始した場合、ドイツの実質GDPが向こう1年間で3.3%減少すると試算している。さらに、外需の冷え込みや不確実性の高まりなどの要素を加味すると、2023年のドイツ実質GDPは7%近く押し下げられるとする。
そうなると欧州のリセッション入りは免れない。
冬場の欧州が風前の灯に?
問題は冬季のガス不足リスクである。ガス需要の少ない夏場のことだけ考えれば、ロシア産ガスを調達できなくてもストック分の放出などで乗り切る目途は立つが、暖房需要期の冬場も含めると厳しさは一段と強まる。
この種の分析は複数の在欧シンクタンクが発信しており、ロシア産ガスが無くても冬場を乗り切れる前提として十分なガス貯蔵量の確保と大胆な需要抑制を挙げている。
貯蔵に関してはドイツで5月に「ガス貯蔵法」が施行し、国内の貯蔵施設の運営事業者に対して、今年10月1日までに80%、11月1日までに90%の貯蔵率確保が義務づけられた。
足元のガス貯蔵率は60%程度で、低水準だった昨年に比べれば高位で推移しているものの、ガスプロム(ロシア国営)からの供給が大幅に削減されたことで、こうした達成は難しくなった。
ましてや、8月入りとともにロシアからのガス供給が全面停止となると、絶望に近い。
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(この記事は 2022年7月19日に書かれたものです)
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