YCCが円売り投機の標的に
YCC政策の問題 その1
日銀が市場との対話をしようとしていない
短期金利だけでなく、長期金利も政策的に誘導する、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策が為替市場の円売り投機の標的になっている。
黒田日銀総裁が、この矛盾した政策にこだわればこだわるほど、円が売られる状況だ。YCC政策はインフレを助長すると同時に、円安につながり、それに伴う「悪いインフレ」を加速させるからだ。
YCC政策の基本的な問題は以下の4点だ。
第1に、YCC政策は市場の動きを無視する。中央銀行は通常、短期金利を操作対象にして金融政策運営を行う。一方、長期金利については市場動向に任せるのが普通だ。
しかし、日銀は2016年9月から短期金利だけでなく長期金利も操作対象とすることにした。現在のように世界中でインフレが問題視されるような状況では、インフレ懸念の高まりによって長期金利が上昇する。
その長期金利上昇は住宅投資や設備投資などの需要を抑制することにより、物価上昇をいくらか和らげる効果、つまり自動調節機能がある。中央銀行も長期金利の動きをモニターして、インフレ懸念の高まりがどの程度かを測ることができ、それを政策に反映させることができる。
しかし、YCC政策は、長期金利の適正水準を日銀自身が決め、長期金利上昇を人為的に低めに抑制しようという政策である。そのため、市場の自動調節機能は働かず、市場動向を政策に反映させることもできない。
日銀は、基本的に0.25%を超えて10年国債利回りが上昇しようという今の市場の動きを「間違い」であると決めつけ、0.25%以下に抑えるために金融緩和を続ける政策が「正しい」と、独善的に考えているかのようにみえる。「市場との対話」に問題があると言われてもしようがない。
図1は、日米独の10年もの物価連動債利回り(=実質金利)の動きをみたものだ。
水準として最も低いのはドイツだが、足元の動きの方向性としては、米国が上向き、ドイツが横ばいであるのに対し、日本が「下向き」になっている。日本の景気が悪化しているというのであれば実質金利が低下していてもおかしくないが、そうではない。
米国の金融引き締め傾向に対して、日本は金融緩和を「維持」しているために、円安が進んでいるという見方が多いが、この見方は若干間違っている。
金融緩和策を「維持」しているECBと違い、日銀は世界的なインフレ懸念が高まるなかで、金融緩和を「強化」している。米国が金融引き締めに動き、日本が金融緩和を「強化」していることが円売り・ドル買い要因になっている。
YCC政策の問題 その2
「悪いインフレ」を加速させる
YCC政策の第2の問題は、インフレ懸念で長期金利が上昇しようという時に、さらにインフレを加速させるという点だ。
例えば、原油高や景気過熱などによって米金利が上昇するにつれ、日本でも10年国債利回りが利回り上限の0.25%を超えて上昇しようとする場面において、日銀は国債を無制限に購入する施策(いわゆる「指値オペ」)で、それ以上の利回り上昇を抑えなければならない。
つまり、YCC政策のもとでは、本来ならインフレ懸念で長期金利が上昇するような局面で、日銀は逆に金融市場にジャブジャブな資金供給を行なわなければならない。金融市場にお金をジャブジャブにすることは過剰流動性に拍車をかけ、インフレ要因になる。
結局、YCC政策は、インフレ懸念が高まろうとする局面で、あえてインフレに拍車をかける、いわば、火に油を注ぐような政策になっている。インフレ懸念が強まるなかで、日銀は前述した通り、実質金利面でも、また、量的な面でも金融緩和政策を「強化」していることになる。
為替市場では、日銀が金融緩和策を「強化」していることから円安が進行しているが、
① この円安が輸入物価インフレ懸念が長期金利上昇圧力を一段と高める
↓
② 日銀はそれを抑えるため、実質金利面、量的金融面で金融緩和を一段と強化する
↓
③ 一段の金融緩和強化が円安に拍車をかける
↓
④ この円安が輸入物価インフレ懸念が長期金利上昇圧力を一段と高める、
という悪循環が続く。
こうした問題が起きているのは、YCC政策がデフレ状況を想定して実施された政策であるためだ。以前は世界的なデフレ下で長期金利も低位安定し、こうした問題は起こりえなかった。
しかし、今や物価を巡る環境は変化している。確かに、日本では賃金が伸び悩むなかで、エネルギー、食料などを中心に物価が急上昇しているだけで、これは本来、日銀が目指した「デフレ脱却」に当たるものではない。
だが、半導体不足や労働力不足にみられた供給制約の高まり、グローバル化の逆流、財政赤字拡大などによって、エネルギー・食料だけでなく、市場は全般的・長期的なインフレを意識せざるをえない状況になっている。
YCC政策はデフレ時代の遺物と言える。黒田日銀総裁は、辛抱強く今まで通りの金融緩和を続けているつもりだろうが、経済環境の変化に合わせて政策も変えていかなければ、副作用が強まってしまう。
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2022/05/02の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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