令和時代の金融詐欺パターンを知っておこう
今回取り上げるのは、資産運用に関連した詐欺(利殖勧誘事犯)である。警察庁の「令和元年における生活経済事犯の検挙状況等について」によると、利殖勧誘事犯の検挙件数は41件。ここ10年で約30~40件で推移していることを考えると高水準といえる。相談件数は1560件だった。
警察庁では詐欺のパターンを5つに分けている(※それぞれの用語は投資方法などであるが、この記事ではそれを利用した詐欺の意味で使う)。
■集団投資スキーム(ファンド):不特定多数から有価証券や事業の投資を受けて、その利益を分配する仕組みを利用した詐欺
■デリバティブ取引:商品先物取引やFX、CO2排出権先物などの金融派生商品を対象とした詐欺。確実に儲かるなどとしてシステムトレードの商材を販売するなど。
■公社債:債券を対象とした詐欺。株式などに似た資金調達手段だが、償還するつもりがない場合が多い。
■その他預かり金:元本を保証したうえで、不特定多数からお金を預かる詐欺。和牛や果樹園のオーナー商法などがある。
■その他:何らかの経済的利益を得られると称する詐欺。いわゆるマルチ商法もここに含まれる。
このうち、検挙数、被害総額ともに半分を占めているのが集団投資スキームだ。しばしば、大規模な犯罪がニュースで取り上げられることもあるが、この傾向は数十年変わっていない。
参考:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/seikeikan/R01_seikatsukeizaijihan.pdf
図表4利殖勧誘事犯の類型別の検挙事件数の割合(令和元年)p.3
図表5利殖勧誘事犯の類型別の被害額の割合(令和元年)p.4
金融の詐欺パターン
ここでは、警察庁の分類に従いながら、代表的な金融の詐欺パターンを解説していく。
集団投資スキーム(ファンド)
集団投資スキームは別名ファンドと呼ばれるように、不特定多数の人からお金を集め、それを有価証券に変えたり、他の事業に投資したりする。自分の資産をプロが運用してくれる安心感から詐欺に引っ掛かってしまう人が多いようだ。出資後は事前に説明されていた高い配当は出ない。
さらに悪質なタイプは、そもそも投資事業を行わない。新たな出資者のお金を他の出資者に回し、高利率を実現しているようにみせかけ、さらなる出資を募る。「ポンジ・スキーム」と言われるこの手口は、自転車操業の状態になるため、いずれ必ず破綻する。かつては「1年で3倍になる」などという詐欺話が多かったが、現在では年利35%など、現実性を持たせる傾向があるようだ。
デリバティブ取引
被害が多いのがFXのシステムトレードである。FXは投資対象として人気ということもあり、パソコンでトレードを開始する人も多い。しかし、思うような利益を上げられないことから、高額な自動売買プログラムを購入したり、シグナル配信料として月額使用料を支払ったりしてしまう。
その全てが詐欺ではないが、「月利30%以上は確実」「年収1億円のロジックを公開」などの目を引く広告で誘い、お金を振り込ませるケースが多い。心理的なハードルが低いネットで接点を持った後に、高額のセミナーなどに勧誘することもある。
最近では暗号通貨を対象としたものや、海外の金融口座を開かせて投資させるタイプ、マイナーな通貨を市場価格より高額で販売する詐欺など、さまざまなバリエーションが存在している。
公社債
公共債または民間債は満期まで利息が付くうえに、満期日には債券[a2] の購入費用が戻ってくる。経営が安定している債券に 投資すれば債券の購入費用に加え約束された利息が付くため、ローリスクで預貯金より大きなリターンが狙えるため人気の投資手法だ。
しかし、詐欺の場合は、預かった資金を遊興費などに使うケースが多い 。社債を購入した後に連絡が取れなくなるか、会社自体がつぶれるのが典型的なパターンだ。
その他預かり金
投資対象は多岐に渡り、なかには何を対象としているのか出資した被害者すらわからないこともある。特徴は元本を保証していることだ。ただし、元本保証は集団投資スキーム(ファンド)やデリバティブ取引でも使われるので、扱われる商材がこれら以外の場合の詐欺がその他預かり金に分類されている。
たとえば、「磁気治療器のオーナーになれば、元本保証で高金利を約束」などとしてお金を集めたジャパンライフの例などがある。また、安愚楽牧場は雑誌などで元本保証のうえ、牛が売れた場合に利益を分配するなどといい、1口30万~100万円の出資金を受けていた。
その他
その他に分類されるマルチ商法(ネットワーク商法・ねずみ講)は、ピラミッド型の組織を作り、商品の販売を行う。会員にあたる人があらたな会員を勧誘するシステムであることが特徴だ。もし勧誘して組織に入った人が商品を売れば、勧誘した人に利益が分配される。
金融詐欺の勧誘パターン
金融詐欺の対象はさまざまだが、どれも一般の人の貯蓄したお金を狙っていることには変わりがない。ここでは、具体的に詐欺師や詐欺業者がどのようなアプローチをしてくるのか紹介する。複数のパターンを組み合わせてくることもあるので要注意だ。
劇場型詐欺
劇場型詐欺とは、複数の人が役割を分担して、あるシナリオに沿って詐欺商品に勧誘しようとする手法だ。オレオレ詐欺のような「なりすまし詐欺」を進化させたような詐欺である。
たとえば、証券会社の社員を名乗る人が投資商品を紹介した後に、金融庁を名乗る人から電話をかける。そして、「何か投資に勧誘されなかったか」などと話を誘導してから、「○○会社は正規の会社なので問題ない」と言って信用させるなどだ。
公的機関装い型
公的機関装い型詐欺は警察や税務署などの公的機関を装い、投資に関して法令違反行為などがあったなどといい、罰金の支払いを要求するケースだ。「インサイダー取引の疑いがあるが、一定金額を振り込めば罪をまぬがれる」などとほのめかすケースがある。先に紹介した劇場型詐欺の手法を組み合わせて、より不安をあおる事例も発生している。
被害回復型
被害回復型とは、管財人や弁護団などを名乗り、過去に詐欺被害にあったお金を取り戻せるなどともちかけ、手数料や相談料を請求する詐欺である。多くの金融詐欺においては、出資したお金が返ってこない。金融詐欺の被害者が少しでも出資金を取り戻したいという心理を利用した詐欺である。
詐欺グループがなぜ被害者の連絡先を知っているかというと、被害者の名簿が流通しているからだ。そのため、ひとつの詐欺に引っ掛からなかったとしても、今後も注意が必要だ。このようなアプローチがある時点で、だまされやすい人として名簿に登録されている可能性があるので十分注意しておこう。
詐欺に遭わないためのチェックリスト
ここでは、詐欺に遭わないためにチェックしておきたい項目を紹介する。
Ø 金融商品取引業の登録を済ませた企業か
集団投資スキーム(ファンド)で詐欺を働く企業の多くは、正規に認可を受けていない金融機関だ。金融庁からリストが公開されているので、そこに勧誘を受けた業者があるかチェックしておこう。事業所や連絡先が実在するかどうかの確認も必要だ。
■元本保証を確約する
倒産のリスクがある民間会社が完全な元本保証をするのは不可能だ。元本保証をほのめかしてきたら、かなり疑わしいといえる。預金保険機構に加入している銀行が破綻したときですら、1000万円までしか保証されないのだ。「高配当」「必ず儲かる」「絶対つぶれない」なども典型的な勧誘文句だ。
■自宅にパンフレットやDMが送付される
2015年の金融商品取引法の改正により、集団投資スキームの私募や運用を業とする会社(適格機関投資家等特例業者)であっても、一般人に直接出資をもちかけることはできなくなった。したがって、自宅に集団投資スキームへの勧誘のパンフレットやDMが届いている時点で問題があるといえるのだ。
■先輩や上司からの誘いではなかったか新社会人や大学生などに対して、上下関係を利用して詐欺を働こうとするパターンがある。断りにくい状況を利用して、マルチ商法の参加者にするなどだ。
信頼している先輩や上司の場合、都合が良すぎる話を信じてしまう場合があることにも注意が必要だ。「うまい投資話だな」と思ったら、家族や無関係の先輩や上司など信頼できる第三者に相談したほうがよいだろう。