ロシアショックで南アに注目
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世界的インフレ長期化の懸念~商品価格指数
まず最初に、コモディティインデックス、商品価格指数(CRB指数)を見ておきます。CRB指数は5度目のスーパーサイクルに入るんじゃないかと言われているのを前にお話ししましたが、もう完全に入っています。
株よりコモディティを勉強し始めるとか、株でも資源系を研究されてる方が多いかなと思います。その一つの要因として挙げられるのが、世界のサプライチェーンがコロナの影響でボトルネック現象が起きていることがありました。それに加えてロシア、ウクライナ有事が出てきました。
ロシアに対する制裁を西側諸国が行うということで、ロシアから色んなものを買っている国もあるので、エネルギーをどうすればよいのかエネルギー安全保障問題があちこちで取り上げられています。
ロシア制裁、返り血を浴びる西側諸国
左がロシアの貿易統計ですが、輸入輸出どちらにしてもヨーロッパはロシアへの依存が高いということが分かります。
右側のインデックスの方を見るとやはりユーロは売られてます。ロシアに近いユーロがあまり冴えない通貨であるのと、あとはヨーロッパくくりでポンドなんかもそうです。本来、有事だとスイスフランなどが買われてよいのですが、今回スイスフランも売られています。
有事なのに円まで売られているということで、日米金利差拡大が一番大きい要因ではありますが、本来有事であるならば円はもっと買われる局面が過去にはありました。それでもこんなに売られているというのは西側諸国と一緒くたになっている部分と、日本もエネルギーを依存している部分が挙げられます。
ここに名前が出てきていないオーストラリアやニュージーランドなどオセアニアは、通貨のインデックスで見ると買われています。ロシアと関係ない国は買われていることが分かります。通貨の市場にも、今回の有事の影響が色濃く現れているという印象があります。
世界におけるロシアのコモディティ生産シェア
ロシアがどんなコモディティを持っているかというと、圧倒的に世界的なシェアとして重要なのがパラジウムです。つまりロシアからパラジウムを輸入できなくなると、この45%が消えることになるので大変だよという話です。
プラチナ、ゴールド、オイル、ガスはその次です。ニッケル相場もロシアの軍事侵攻をきっかけに踏み上げが行なわれています。
パラジウムは何に使われているのか?
パラジウムは、自動車の排気ガス中の有害物質を取り除くための触媒として使われているのが一番大きいです。
パラジウムやプラチナを触媒に使うことで、炭化水素を水に、一酸化炭素を二酸化炭素に変換できます。それで自動車産業では、パラジウムがかなり重要な貴金属として扱われてきています。
主にガソリン自動車触媒にパラジウム、ディーゼルエンジン車触媒にプラチナが使われるという住み分けがこれまであったのですが、これが変わってくる可能性があります。
自動車「ゼロ・エミッション」工程
強化される内燃機関車の排ガス規制
パラジウムを使う量は今後ますます増えていきます。世界は脱炭素に向かって計画を明確に出していますが、いずれガソリン車をなくして全部電気自動車や水素などの次世代自動車にしようという計画があります。
脱炭素を強く訴えている人達は、あと10年もすれば地球の色んな島が沈んでしまうぐらいのことを仰っていて、今すぐにでも排ガスとか環境汚染をやめなければいけないと指摘されています。それまで待ってられないということでこの規制がどんどん強化されています。
例えばヨーロッパは今「EURO6」という排ガス規制がありますが、2020年代後半から「EURO7」というのも走っているようです。
中国も昔はPM2.5が舞っているという印象でしたが、だいぶ空がきれいになってきました。中国の基準は「国5」「国6」と表記するのですが規制が厳しくしかれています。
インドも2020年4月からEURO6相当の規制、「BS6」という環境規制を導入したので、環境規制が強化されて排ガス規制が強まっていくとパラジウムやプラチナをさらに使うことになります。
強化される「排ガス規制」
どのぐらい厳しくなってるかというと、例えばのEURO1からEURO6におけるCO2、Nox、PMの排出してもよい許容量はどんどん厳しくなっています。
次世代自動車へのシフトという大きな枠組みはありますが、今走ってる車も新車で売るものはこの厳しい規制をクリアしないと売ることができません。これに違反すると厳しい規制があるので、PGMと呼ばれる白金族、プラチナ、パラジウムなどが沢山必要になってきます。
PGM使用量は自動車販売台数の4倍に増加
左側のチャート オレンジの線を見ていただくと分かるように、世界の自動車販売台数はだいたい一定です。
それに対して青い折れ線グラフはプラチナ、パラジウムの使用量です。車の販売台数は一緒なのに、パラジウムやプラチナを使う量がすごく増えています。
これは環境規制がどんどん厳しくなっているので、一台あたりに使うプラチナとかパラジウムの量が増えているということです。
右側は国Ⅵを導入したことで中国大型車のプラチナ使用量が3倍に増えていることが分かるチャートです。産業用の大型車はプラチナを使うディーゼルエンジンなので、そこにプラチナが結構使われるという試算が出ているチャートです。
パラジウム、プラチナ、ゴールドの価格の変遷1990~
パラジウムの現在の価格は、金(ゴールド)よりも高いです。昔から貴金属業界を知ってる人は、考えられない値段にひっくり返っています。
1999年、2000年ぐらいに今と同じようなショートスクイズという特別な相場があったのですが、その前までパラジウムの青いラインは一番安いところにいます。200ドルぐらいで這いつくばって一番安価な貴金属でした。
その上に金の価格があって、一番高いのはプラチナです。プラチナは希少性が高く金よりも圧倒的に取れる量が少ないので、プラチナが一番高価であるというのは少なくともリーマンショックの前までは当たり前でした。
それが今はパラジウムが2500ドル、プラチナが1000ドルをやっと超えたところで、金がようやく2000ドル到達したかなというこのギャップが起こっています。
なぜパラジウムが上がっているかというと、生産される国が偏在しているということと、ガソリン車の販売がディーゼル車よりも上回ってきたという現実があります。
プラチナがなぜあんなに高かったのに下がってきたのかというと、2015年にドイツのフォルクスワーゲン社が排ガス不正をやったことが原因です。
クリーンディーゼル車をドイツ車は軒並み搭載していますよ、ドイツのディーゼルエンジンはクリーンですよというのをブランドとして売っていたのですが、フォルクスワーゲンだけでなく他の会社も不正を行っていたことで、ディーゼルエンジン車が失墜してガソリン車に乗り換える人が増えてきたのです。
プラチナが需要が減りガソリン車へシフトする動きで、パラジウムが上がるという価格逆転現象が起こりました。
ところが今度はロシアのせいでプラチナが息を吹き返すかもしれません。ロシアの軍事侵攻がなかったとしても、ここ数年自動車メーカーは、プラチナをガソリン車の触媒として使えるように設備投資する動きが出てきているようです。
パラジウムからプラチナへ代替の動き加速?
触媒の性能としてはパラジウムよりもプラチナの方が優秀で、パラジウムは安いから使ってただけで、本当はプラチナを使いたいのです。
シバニェ・スティルウォーターは、代替が進むことで、触媒重要のプラチナは2019年の84トンから2025年には140トンに増加する、WPIC は2025年には46.7トンになるだろうとかそれぞれの試算がありますが、今までパラジウムだったものをプラチナにしましょうという動きがロシア軍事侵攻の前から進んでます。
そして今回ロシアの軍事侵攻があり、ロシアと付き合ってはいけないという話が出てくるともっと進むかもしれません。
世界のプラチナ生産動向 20年~21年
ではプラチナはどこが作ってるのでしょうか。北アメリカ、ロシア、ジンバブエと比べて、南アフリカが一桁二桁違うのをお分かりいただけるでしょう。圧倒的にプラチナが取れる場所は南アフリカです。
漁夫の利を得るのは南アフリカ?!
このグラフで見るとさらによく分かりますが、右側2019年のプラチナの生産量は南アフリカが圧倒的にシェアが大きいです。
プラチナ需給~21~22年は供給過多予想だが・・・
プラチナの需給が今どうなってるのかというのを最新のレポートからご紹介します。2013年から2022年の予想まで織り込んだ需給を相殺して、どちらが多いか少ないかということです。
2020年は南アフリカで大きい鉱山事故があったりコロナの影響があったりして供給不足になりました。その反動で2021年は供給過多で、2022年はその供給過多分を半減させたぐらいの少し供給過剰という予想です。これだけ見るとプラチナは買いなのかなと思います。
統計に反映されない?中国実需の輸入総計
ここにも裏シナリオがあって中国の存在が出てきます。需給レポートというのは世界の需給データをもとに予想して作りますが、中国ではその実需を上回る量を輸入し続けています。
2019年ぐらいから実需を上回って中国が輸入している量(赤い部分)がこれだけあります。中国の特徴として価格が安い時に世界中から買い集めて在庫にします。バーゲンハンターとしては逆バリで非常に優秀なトレードです。プラチナが安い今のうちに、実際に使う量だけでなく買い溜めているのではないかというのが分かります。
プラチナのリースレートは高止まり~1Year 4%台
リースレートというのは、プラチナの現物を持っている人がプラチナを貸し出してお金がもらえるクーポン、金利の部分です。1ヶ月貸すと2%、1年で4%です。プラチナを持ってる人は、貸し出したらそのぐらいの金利収入があるということになります。
現物が不足しているとリースレートが上がり、現物がじゃぶじゃぶだとリースレートは下がります。金利を払ってでも、現物が欲しいという人達がいるということです。
このリースレートの高止まりを見ると、需要は強いものがないんだなということが分かります。ところが需給ギャップから見えてくる予想としては供給過剰の予想なので、今プラチナ価格はあまり動いていません。ここにチャンスがあるのではないかということです。
プラチナ価格と南アランド
プラチナ価格があまり動いていない中で、もし動いたら南アフリカランドが面白いのではないかと思っています。今は、オーストラリアやカナダが分かりやすいので、資金がそちらに動いていますが、南アフリカランドも意外と穴かもしれません。
次世代自動車はEVになり排ガスが関係なくなるので、触媒の需要がなくなるという指摘もありますが、実はプラチナは水素自動車(燃料電池車)には使います。
次世代自動車がEVになるか、水素自動車になるか、はっきり予測するのは難しいですが、パラジウムは自動車触媒、プラチナは水素を作る時に使うという意味では、脱炭素社会の中での新しい需要というところに注目されています。
ロシアショックの漁夫の利は南アフリカで、プラチナが面白いかもしれないという話でした。