プーチン大統領の野望
SWIFT排除はプーチン大統領への危機感から?
東京時間の27日日曜の早朝、米欧政府がロシアの大手銀行をSWIFT (国際銀行間通信協会) から排除すると合意したとのニュースが世界を駆け巡りました。
現時点では対象となる銀行は大手銀行に限定され、全銀行を排除の対象とすることは欧州経済への影響がが大きすぎるとして見送られたようですが、経済制裁の最後の切り札としてのSWIFTからの排除を部分的にではあっても決定したことの意義は大きいと考えます。
米欧政府が経済制裁としての最後の切り札を一部切り出したことの背景にはプーチン大統領の野望が分かり始めたことによる危機感の表れであると筆者は理解しています。
ウクライナ制圧は野望のほんの始まり
2020年の憲法改正でプーチン大統領は最長2036年まで大統領でいることが可能になりました。今年の10月で70歳になるので94歳まで大統領でやっていくつもりがあるかどうかは分かりませんが、法律の枠組みとしては続投が可能な状況です。
しかも、同年の憲法改正では大統領経験者は原則として一生刑事訴追を受けないこととなりました。十分すぎるほどの権力と余りある時間が与えられれば野望を持たない方が不思議と言えるくらいでしょう。
いくつものメディアが論じているように、プーチン大統領にとってウクライナ制圧は彼の野望のほんの始まりの部分に過ぎないかもしれないという見方に筆者も同意します。
特に気になった記事としてイスラエルの新聞HAARETZにロシアの軍事戦略研究家である Dima Adamsky氏が寄せた彼の見解は参考になると思いました。イスラエルはアメリカとの結びつきが強いイメージがありますが、実は国民の20%以上がロシア系ユダヤ人であり、ロシアにも太いパイプを持っている国家です。
その記事によると、ウクライナ侵攻前夜のプーチン大統領のスピーチを同氏が分析した結果、
プーチン大統領の最終目的はロシアが冷戦前のソ連の様に超大国となって覇権を確立することであり、冷戦後にロシアの意図に反して構築された「国際ゲームのルール」を再構築することである。
そして、プーチン大統領は歴史的偉業を成し遂げようとしていて、その手段としては宥和策ではなく軍事的手段の実行が重要と考えていることが見て取れる。
と述べています。
任期数年の米欧諸国首脳陣はプーチン大統領に太刀打ちできるか
今回のウクライナ侵攻に際して、NATOに加盟していない同国を護るために西側諸国がとり得た手段は経済制裁以外になく、経済制裁ですら、EU全体として原油の30%と天然ガスの40%をロシアからの供給に頼っている現状では両刃の剣となってしまうためどこまで徹底して断行できるか不明です。(そういう意味では、ロシアの全銀行をSWIFTから排除することは現実的ではない気もします。)
この状態が続けば、プーチン大統領としては同じくNATOに加盟していないモルドバやジョージアまでの侵攻を妨げる障害となるものは見当たらず、彼が徐々に旧ソ連時代の支配領域の回復を実現させていくのも時間の問題と考えます。
ソ連崩壊後も依然として世界最大の領土を有するロシアのトップに、既に20年以上の長期にわたり君臨するプーチン大統領が次の20年を見据え、10年単位の時間軸で組み立てる戦略。果たして、これに対して任期数年の米欧諸国の首脳陣が、戦略面でもイデオロギー面でも太刀打ちできるのであろうか、と言う疑問も頭をよぎります。
そういう意味では、同質の問題を抱える台湾海峡のリスクについても考えを巡らせる必要が出てきます。
今回は詳細な言及を避けますが「習近平国家主席の野望」についても考えた場合、北京オリンピック開会式に出席した両氏の間でそのあたりの打ち合わせが済んでおり、中国としてはロシアの動きと米欧諸国の反応を確認しながら、アクションを起こす最も良いタイミングを探っている。と見るのは筆者の考えすぎでしょうか。
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国際間の資金決済通信に用いられるシステム 「SWIFT」について詳しく書いてあります。
https://real-int.jp/articles/1087/
https://real-int.jp/articles/1129/