インフレ・ターゲット
わが国でも日本銀行が2013年1月から2%の目標値を置いて、その後あらゆる手段を投じてこれを達成しようとしては毎年未達成で終わっています。
ちなみに、2022年1月現在の主要国のインフレ・ターゲットは以下の通りです。
- アメリカ 2%
- 欧州(ECB) 2%
- イギリス 2%
- カナダ 2±1%
- オーストラリア 2~3%
- ニュージーランド 1~3%
- スウェーデン 2%
- ノルウェー 2.5%近辺
では、まずインフレとは何でしょうか。
そして、何故2%という目標にこだわるのでしょうか。
今回はそのあたりに焦点を当ててみます。
1.インフレとは
インフレーション(inflation)の略語で、もともと経済学の世界で使い始められた言葉です。これは「一定期間にわたって経済の価格水準が全般的に上昇すること」を意味します。
つまりは1単位の通貨で購入することのできるモノやサービスの数量が減るという事で、言い方を変えると1単位当たりの通貨の価値が減るという事です。
現在、主要先進国の多くがインフレ・ターゲットを設定して、言ってみれば自国通貨の価値を減らそうとしているわけですが、この点だけを見るととても不思議な気がします。
国家が自国通貨の価値を下げたがっているというのは理解しにくいですよね。
2.インフレターゲットを置いている国が目指しているものは?
インフレターゲットを置いている全ての国が、自国通貨の価値の減少と引き換えに獲得したいもの、それは経済成長なのです。
持続的な経済成長さえ実現できれば、現在国として抱えている様々な課題、例えば財政収支の大赤字が比較的容易に解決できるはずだと考えているのです。
3.インフレになると経済発展が期待できるのはなぜか。
一般的に唱えられている理由は以下の通りです。
「インフレ局面においてはモノやサービスの価値が上昇して、お金の価値が下がります。現金や預金を保有していた場合、その価値はインフレ率分だけ目減りすることになるので、貯蓄より消費や投資に回すインセンティブを生むこととなります。このような貯蓄から消費・投資へと向かう資金の流れが、経済成長につながっていくのです。」
現在の一般庶民の感覚としては分かったような、分からないような説明ですね。そこでもう少し偏った視点での説明を以下に書いてみます。
4.インフレになると経済発展が期待できる本当の理由
資産家や資本家が儲かるからです。
インフレになると得をするのが資産家や資本家であって、こういったいわゆる資産持ちやお金持ちの方々がインフレで儲かってくれると、さらに儲けようとして新たな投資をして経済を刺激してくれると期待されているのです。
実際、歴史的にはそういったことが起こってきました。
一方、インフレになると困るのは定額の賃金をもらっているサラリーマンです。
モノやサービスの価格が上昇するのに給与額がすぐには追いついて上がらないからです。これを名目賃金の硬直性といいます。
繰り返しになりますが、この結果、得をするのは企業として供給しているモノやサービスの価格を上げつつ、同じ額の給与を支払い続けて、より大きな利幅を得ている企業側、すなわち資本家なのです。
すなわち、為政者たちは、固定賃金をもらっている多数の国民に「多少」のガマンを強いて経済を活性化しようとしていることになります。
ここで、多少のガマンと書いていますが、この「多少」がインフレ・ターゲットの2%につながっているのです。
5.なぜ2%なのか?
結論から言えば、科学的な根拠は無くて、かなり感覚的な数値目標であると言えます。
モノやサービスの価格が毎年5%や10%も上昇すれば、給与所得者たちからの不満が爆発して、政権維持に支障が生じると考えているのです。
でも2%程度であれば大丈夫であろうと。自分の働いている会社が儲かっていくのが分かれば、自分たちの給与も上がっていく期待感で我慢してくれるであろうと。
6.日本の特異性とは
FRBが日本と同じく2%のインフレ・ターゲットをおいているアメリカなどでは、金融緩和の実施の過程で、企業収益は拡大し、これに伴ってそこで働くサラリーマンたちの給与所得水準も大きく上がってきました(そして、その結果株価も大きく上昇してきました。)が日本では、同様のことが実現していないことに人々が疑問を持ち、そして消費を増やさない(増やせない)ことから現在のような状況になっています。
9年も前から日銀が2%のインフレ・ターゲットをおいて、ありとあらゆる金融緩和政策を投入してきたのに、期待した結果につながっていないのは、どうやら日本特有の事情があると考える必要がありそうです。
【続きの記事】
インフレ目標値2%は妥当?
https://real-int.jp/articles/1139/
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