資金流失加速 トルコリラ大暴落
IVは100%超え
TRYJPY(トルコリラ円)が大暴落、対ドルの下げ幅では史上2番目という大暴落となりました。
オプションが分かる方だと分かると思いますが、今、オーバーナイト(1日)のIVが100%を超えています。1日のIVが100%を超えるということは、1年後にトルコリラ(ドルトルコリラ)が倍になるか、0になるかというところまでオプション市場では織り込んでいるということです。
※IV=インプライド・ボラティリティ
年率換算の変動率、オプション市場の参加者の相場観の総意
為替市場としては異常事態ですが、この100%のIVを俗に「アホボラ」と言っています。こういった状況では、当面収束の目途は立たないと思います。
●トルコリラ一時15%急落、大統領が緩和策擁護 11日連続で最安値
エルドアン大統領が最近の大幅な利下げを擁護し、「経済独立戦争」で成功する決意を示したことが材料で、1日の下落としては過去2番目の大きさとなる。11日連続で過去最低を更新。年初からの下落率は45%に達した。
リラは対ユーロでも過去最安値を更新。トルコの10年債利回りは2019年初以来初めて21%を上回った。(ロイター)
トルコリラは年初からほぼ半値に。債券価格が下落し金利が上昇。債券が売られているということは、トルコ国内から資金が流出しているということです。
ドルトルコリラ 日足
2019年12月以降、すでに倍ぐらいになっています。これはトルコリラの価値が半値になっているということです。今年だけを見ても半値になっているという、恐ろしい状況です。
トルコリラ円 日足
こちらも構図は一緒です。2019年12月に18.70円だったものが、今は9円を割れてきて、明確に半値以下となっています。
トルコ10年国債金利
先ほどのロイターの記事にもありましたが、2019年初以来初めて21%に乗せてきました。2018年から見てみると、一旦落ち着いて資金が入ってきて2020年の初頭にかけては10%まで落ちました。
しかし、その後は、終始金利が上昇。金利が上昇するということは、債券が売られ資金流出が加速してきたということです。
単純に為替が売られているだけではない厳しい現実
●国債金利の上昇は、国債を手放す動きから
●それはトルコ国内からの資金流失
●トルコへの投資を引き揚げる アンワインドする動き
なぜ、こうなるのでしょうか??
実質金利マイナスの重い意味
元凶は、大幅な利下げです。
トルコの中央銀行は3会合連続で利下げを決定。
合計で400bp、4%の利下げを実施し、政策金利は足元で15.0%。
直近のトルコのCPI(消費者物価指数)は19.9%ですので、トルコの実質金利は-4.9%とマイナス幅が拡大しています。
●実質金利=名目金利-予想物価上昇率
トルコ実質金利=15.0%-19.9%=-4.9%
トルコの実質金利
実質金利はこのように沈んでいます。銀行に預金をしておくと、その間の物価上昇率が大きすぎて、実質、預金が目減りしているに等しいということです。
では、トルコに債券投資をしているとどうなるか?
これも同じことです。予想物価上昇率に負けてしまい、その間、債券の元本が下落、毀損するに近いのです。ですから債券利回りの上昇に伴って、債券価格が下がっているという先ほどの現象となります。
なぜ大暴落!?
エルドアン大統領の中央銀行への過剰な介入が元凶
利下げをすることによってインフレが防げるという、経済学の理論からは真逆のことをやっているので、中央銀行の独立性に疑問がついて、国際金融の場からも信用が無くなってきているのです。
止まらない国内からの資金流失
外貨準備が潤沢であれば、自国通貨買い、つまり他の通貨を売って介入できるのですが、そうした原資にも乏しい中銀の外貨準備の実態があります。
米国の金融正常化の前倒し
米国ではFRB議長と副議長の人事が発表され、インフレを対峙するために金融正常化の前倒しが視野に入ってきました。ドルに資金が回帰する流れをイメージしやすいということになります。
そもそも低いレーティング
【大手機関のトルコの格付け】
・B2(ムーディーズ)
・B+(S&P)
・BB-(フィッチ)
投資不適格、つまりジャンク級という格付けで、元利の支払いに対して非常に危ないというレーティングです。
このように国際的な信用が低いレーティングになると、グローバルで資金運用している機関投資家は、こうした国にはお金を投じません。なぜかというと債券投資が失敗した時、お金を預けてくれる投資家に対して説明がつかないからです。
新興国通貨の立ち位置
・トルコリラも含め市場流動性が乏しい
・格付けが低いが、資金を集めるために高金利を提示
・経済が回復している途中なので、インフレで経済が過熱しやすい
・国際資本の影響を受けやすい
・米国をはじめ先進国の金融政策の影響を受けやすい
フラジャイル・ファイブ
・ブラジルレアル
・インドルピー
・インドネシアルピア
・南アランド
・トルコリラ
米モルガン・スタンレーが命名した、新興国通貨の中でも脆弱な国をフラジャイル・ファイブといいます。財務基盤が危ない、経常赤字国である、中銀の外貨準備が乏しいなどの共通点を抱えています。
そうした中で利下げを続けているので、資金が流出していくのは半ば当然です。この半年ぐらい私のYouTubeチャンネルガチプロFXでは、ずっとトルコリラが危ないと言ってきましたが、やはりそうなりました。
テクニカル分析だけでなく、ファンダメンタルズの部分もトレードに活かしていかないと、こういった局面をしっかり読み切れないと思います。
MSCIからの厳しい指摘
※MSCI=モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナルが世界のベンチマーク、指標を提示。
MSCI、トルコを“Emerging Market”から“Frontier Market”に格下げする可能性
(フィナンシャルタイムズ紙、2021年6月)
Frontier Marketは、Emerging Market”より一段下となります。こうしたことから見ても、資金流入するには乏しい国だったということが分かります。
引き続きトルコへの援軍は皆無ですが、国際金融市場に影響が及んだ場合、話は別です。危機的状況に至った場合、IMF(国際通貨基金)が援助したりする可能性はゼロではありません。
究極のベア(弱気)目線でいますが、
(1)2016年7月のクーデターの再現
(2)エルドアン大統領の失脚
(3)IMF(国際通貨基金)の支援
などが表明化した場合、状況は一変します。
為替介入を超える買い戻しから、想像を絶する買いに発展する可能性があります。この先のリバースシナリオを考えるべき水準にきた可能性もあります。
ただ、『あくまで可能性の低いサブシナリオ』です。発生した時に驚かないように、一応準備(新興国通貨の総買い戻しからクロス円の上昇)はしておいてください。
私の有料メルマガ「Smart LogicFX」では、市場の動きや、竹内がとったポジションをリアルタイムで配信しています。
【関連記事】
トルコリラはマイナス金利通貨?
https://real-int.jp/articles/999/