為替取引も美人投票 通貨高通貨安の条件
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為替取引も美人投票
美人投票とは
ウィキペディア(Wikipedia)より
ケインズは、玄人筋の行う投資は「100枚の写真の中から最も美人だと思う人に投票してもらい、最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える新聞投票」に見立てることができるとした。
この場合「投票者は自分自身が美人だと思う人へ投票するのではなく、平均的に美人だと思われる人へ投票するようになる」とした。
為替取引は通貨で取引なので、Aという通貨を買ったら、別のBという通貨を売ります。つまり、人気の出そうな通貨を買って、不人気になりそうな通貨を売らなければなりません。これが為替取引の面白いところで、2通貨の強弱をみていかなければなりません。
- 人気化しそうな通貨(平均的美人)または通貨群に投資しようとする
- 人気化しそうもない通貨、または通貨群は売り建てようとする。
金融政策の影響を受けはじめた通貨が美人になってきたのですが、美人になりきれず巻き戻されているのがこの2、3週間の動きで、かなり面白い局面だと思います。
6/30~10/22までの主要通貨の騰落(対米ドル)
こちらは下半期6/30~10/22までの対ドルでの主要通貨の騰落です。
なぜ10/22までかというと、この翌週から世界の名だたる中央銀行が相次いで金融政策の発表を行い、先週は金曜日に米国で雇用統計の発表を終えました。10/22までが一区切りで、それ以降は別の大きな流れができると思っています。
下落通貨、不美人の一番がJPY、次がEUR(ユーロ)ですが、この2通貨に共通するのは「金利がつかない」ということです。コロナ後の金融緩和からの出口が見えない通貨が売られています。
一方で上昇通貨のNZD(ニュージーランドドル)は、年明けから不動産価格がバブル化して中央銀行が金融政策を決定する際に、政府が不動産価格の動向まで注視しなさいと言ったことで、少し買いの動きがありました。
CAD(カナダ)は主要国で一番先に量的緩和の縮小(テーパリング)を4月に舵をきっています。年後半に入ってからは伸びしろが小さかったですが上昇通貨に入っています。
CHF(スイス)が上昇しているのは変数として、金融政策の動きが美人投票と不美人投票の結果を左右し、通貨の二極化が鮮明になっていると言えるでしょう。
ドル円を買っていたとしたら2.16%のパフォーマンスしかありませんが、ニュージーランドを買って円を売っていれば、パフォーマンス的にはもっと良かったということです。
為替取引では買う通貨、または売る通貨を考えて、その受け皿となる通貨まで考えていくことが資金を最大化するために重要になります。
私がメルマガを配信する時も、ある一定期間の通貨の騰落を重視しています。これは、美人を最大美人にして、不美人を最大不美人にしていくことで資金効率が良くなるためです。
日々の通貨の騰落はもちろんのこと、ある一定期間でも計測して美人、不美人を見つけ出すことが利益を最大化するためのひとつの有力な方法となります。
10/22~11/10、13時までの主要通貨の騰落(対米ドル)
こちらは怒涛の中央銀行の政策発表があった10/22の週以降の、主要通貨の騰落です。10/22までの図とほぼ逆転していることがお分かりいただけると思います。
円が美人化したとは言いたくないのですが、調整が入ったということしておきましょう。今年下半期の動きにこの2週間ちょっとで修正が入り始めたということです。買われてきたものが売り戻され、売られてきたものが買い戻されてこのような構図となりました。
分かること
●金融正常化(テーパリングや利上げ)期待の通貨が買われていた
●上昇通貨が反転下落
●下落通貨が反転上昇
●不確実性からGBP、AUDが下落
ポンドは11/4にBOE (イングランド銀行) が金融政策を話しあうMPC (金融政策委員会) を開きましたが、事前に利上げを100%織り込んでいました。しかし、市場の期待を裏切る形で、なんと利上げを据え置きました。利上げに対して美人化していたものが剥落して、市場の反乱を起こして急落してしまいました。
豪州は11/2に、3年国債利回りを政策金利と同じ0.1%に抑制するYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作 )をなんの前触れもなく放棄しました。
ある程度市場とコミュニケーションが取れていれば、美人化したものが少し剝げ落ちるぐらいだったのが、この2通貨に関しては美人化したにも関わらず市場の期待を大きく裏切ってしまいました。そして大きく金利が低下し、通貨安になりました。
美人化へのひとつの要素は、テーパリングや利上げをどれだけ織り込めたかということです。ではそれをどこで確認するかというと次のチャートになります。
主要国の5年債金利の推移(%)
2020年1月からの主要国の5年国債の推移です。新型コロナウイルスの感染拡大からいろんな地域でロックダウンになり、中央銀行は経済を立て直すために利下げをしたり、量的緩和をしたりして経済を支えました。この影響もあり各国から金利が消えました。
英国では経済の打撃がひどく、今年の前半まで中央銀行はマイナス金利を採用するのではないかということで、5年国債までマイナスで推移していました。この動きはニュージーランドも一緒です。
その後は、経済が急回復してきて、マイナス金利を採用するどころではなく、利上げ、金融引き締めをしていかなければならない状況となり金利は大きく上昇しました。
ここで利上げの織り込みが起きて、加速することによって通貨高になってきました。利上げが実際に行われなくても美人化していったというのが重要です。
利上げをするから通貨高になるのではなく、利上げを織り込むから通貨高になるのです。ですから事前にすでに利上げを織り込んでいれば、実際に利上げが始まった時には何の反応もないと思ったほうがよいです。
豪州と英国のこのところの金利の低下をみると、美人化の期待を裏切ったために落ち込みが激しいことが分かると思います。テーパリングや利上げの巻き戻し(アンワインド)が起こってこの2週間で通貨が大きく売られました。
美人と不美人を把握することも重要ですが、それを裏切られたときのサブシナリオも考えておくことも重要です。そのサブシナリオを準備しているか、準備していないかでパフォーマンスに違いが出てきます。
分かること
●テーパリングや利上げの織り込み加速が美人度
●金融正常化が進まない通貨群がその逆
●テーパリングや利上げの織り込み減衰に加え、不確実性の台頭がさらなる巻き戻し要因
⇒利上げが始まると通貨高になりにくい
ドル円とFF金利
こちらは2000年代の米国の利上げ局面です。ほぼ毎回の会合で利上げを行い、全部で17回利上げ。政策金利であるFF金利(フェデラルファンド金利)は1%から5.25%へ、4.25%(425bp)を利上げしました。
4%を超える利上げなので、さぞドル高になったかと思いきや、大してドル高にはなりませんでした。FF金利は上がり続けていますが、2006年にはドル円は一旦下がっています。2年間で4.25%利上げしたにも関わらず、ドル円は5円しか上がりませんでした。
これはなぜか?利上げが始まる前に美人化が終わってしまっていたからです。
この間の動き まとめ
●利上げ期間、2004年6月~2006年6月
●FF金利、1.00⇒5.25%
●ドル円、109.53(2004年5月)⇒114.42(2004年6月)
⇒利上げが始まると大して通貨高に振れない
美人度が増すのは「利上げを織り込む時」、ここにすべての美人度が凝縮しています。美人と不美人を見分けることも重要ですが、今回の英国や豪州のように不確実性も見つけなければなりません。
また、美人に成長するか過程でテーパリングや利上げの織り込み=通貨高がほぼ終わるということに注意してシナリオを立てるとよいでしょう。