逆イールドの意味と見方
逆イールドとは
逆イールドとは冒頭解説したように「長短利回りが逆転すること」を指している。
イールドとは「利回り」を意味しており、マーケットの世界ではイールドカーブと言われる金利曲線で、機関投資家は金利の変化をチェックして投資を行っている。
イールドカーブの動きは、ある意味将来の景気を占っているようなものと捉えることもできるだろう。
経済が成長する過程においては、インフレ期待や政策金利引き上げの期待から、短期金利は長期金利よりも低いというのが通常のイールドカーブの曲線だ。
景気拡大も終盤に入ると、景気の過熱を防ぐために政策金利は引き上げられ、将来の景気減速を織り込み長期は低下、結果、逆イールドが発生する。
そのため、短期金利が長期金利を上回るような状態が発生し、これは景気後退を予期している前兆ではないかという見方ができるということである。
注意すべき点は、新興国でのイールドカーブは逆イールドが恒常的に発生したりするため、先進国と新興国でイールドカーブそのものの見方を変化させる必要があることだ。
新興国のイールドカーブと先進国イールドカーブの変化の意味や考え方は同じであるものの、値動きの変化が全く異なるため、ここでは先進国として話を進めていく。
なぜ逆イールドは注目されるのか
逆イールドが景気後退を予兆するというのは説明した通りだが、なぜ投資家がそこまで逆イールドに着目するのだろうか。
それは、これまで逆イールドになった場合における景気動向をチェックすると、なぜ逆イールドが大事なのかみえてくる。
過去米国で逆イールドが発生した場合、その後11ヶ月から24ヶ月以内に景気後退が実際に起きているという実例があるからだろう。
短期金利と長期金利の変化の要因がどこにあるのかという点もイールドカーブ、そして逆イールドを考える上で重要な要素であるため次に説明していく。
短期金利と長期金利の変化の要因
短期金利と長期金利が変化する要因は、それぞれタイプが異なる。
まず、短期金利は国の政策金利が変動要因の大きな割合を占める。政策金利の見通しが引き上げられるようなフォワードガイダンスが中央銀行から公表されたり示唆されたりした場合は、短期金利もそのコメントや中央銀行の政策運営の方向性に反応する。
一方で、長期金利の変動要因は上記のような要因のほかに、「マーケットの期待インフレ率」とタームプレミアム(期間が長いことによる変動リスク)が金利の決定要因に含まれているということだ。
つまり、景気が上向きになり、インフレ期待が上昇すると長期金利も上昇するということである。また、期間が長いためのリスクプレミアムも金利に内包されているという見方もできるだろう。
また、その景気回復局面が継続すると思えば長期ゾーンを中心に金利上昇が大幅に進むことになり、短期金利の上昇幅と比較しても大きくなる傾向がある。
そのため、先進国は緩やかにでも成長している国が多いため、あまり逆イールドになるケースがないことから、先進国で逆イールドが発生すると投資家が注目するようになる。
逆イールドで見るべきポイント
逆イールドという環境で、特に機関投資家から見られている金利ゾーンがある。ここでは、米国債のイールドカーブを例として説明しよう。
機関投資家は、イールドカーブのスプレッド(金利差)を常にチェックしている。逆イールドの場合スプレッドはマイナスになるため、これでどのくらい逆イールドが進行しているかを判断する。
米国では、2年-10年の債券金利のスプレッドはかなり重要な金利ゾーンだ。このスプレッドが逆イールドになると度々ニュースとなる。
また、3ヶ月(Tビル:国庫短期証券)物金利と10年物国債の債券金利のスプレッドも機関投資家がチェックしている重要な金利スプレッドのゾーンと言えるだろう。
過去逆イールドでどのような動きになったのか
実際に、米国で過去逆イールドが発生した場合において、景気後退入りとなったのかをチェックしよう。
これまで逆イールドが発生したことは4回ある。
1989年最初の逆イールドが発生した。景気後退が発生したのはその後、1年4ヶ月後である。
次に発生したのは1998年である。その後、2年6ヶ月後に景気後退入りした。
2006年にも逆イールドが発生しており、景気後退入りしたのは1年11ヶ月後である。
そして、最近では2019年に逆イールドが発生しており、現在実際に景気後退入りとなるかどうかを確認する期間となりそうだ。
このようにしてみると、逆イールドが起きたからといってすぐに景気後退に陥るわけではないことは覚えておくべきだろう。
逆イールドはあくまで「景気後退に陥るのではないか?」という重要なシグナルというだけだ。
確実に景気後退を予兆するシグナルというわけでもなく、すぐにそのシグナルで考えた景気の動きが発生するわけでもないと考えるのが賢明と言える。
金融緩和策を講じている時のイールドカーブの考え方について
次に、直近の2019年夏に起きた米国の逆イールドを考えてみよう。
2019年夏場に米国債2年金利が米国債10年金利を上回る逆イールドが発生し、話題となった。
では、2019年の逆イールドをこれまでの逆イールドと同様に考えていいのだろうか。
当然考え方に個人差があるため、どれが正しいということはないが、過去の逆イールドと2019年の逆イールドは環境の面で大きな違いがある。
それは、リーマンショック以降大規模金融緩和を行う過程で、市場に流通している国債を中央銀行(FRB)が市場から買い取り、大量の資金の市場に流動させ、金余りの状態を作り出していたという点だ。
この時に買い取りを行っていた債券は長期ゾーンを中心に買い取り、中長期的に金利を押し下げる効果をもたらしている。
市場では長期金利の変動要因に「中央銀行の巨額な買い入れ」という材料が加わっており、ある意味で意図的に長期金利が押し下げられていたという環境だった。
そのため、2019年に発生した逆イールドは、景気後退を予兆していると判断するのは難しいというコメントが多く見られる。
一方で、2019年夏場に逆イールドになってから、コロナショックが訪れていることもあり、やはり一旦は逆イールドが示していた通り、景気後退入りするという予測が強まっている。
結果的には、2019年夏場の逆イールドは景気後退を示唆していたということになるかもしれない。
過去と現在では中央銀行の政策手段は変化してきており、伝統的な政策運営ではなくなっていることに留意する必要がある。大事なことは考え方を柔軟にして物事を捉え、判断すべきということだろう。
逆イールド自体が景気後退を約束するものではないが、逆イールドが発生したことで投資家の取引スタンスは変化する。
実際に、株を一旦手放す動きが出たりしながら、結果的に景気後退につながるといった動きになる可能性もある。そのため、逆イールドに注視しておくことは大事なことと言えるだろう。
特に、中長期的な投資家は方向性を考える上で大事な材料の一つにもなるため、逆イールドの意味というものを理解しておくことに越したことはない。
そして、逆イールドが発生している場合の金利の変動要因も変化していることを考えながら、本当に逆イールドが将来の景気後退を示唆しているのかを考えていくことが大切だ。