ピザ持ち帰り半額の秘密
子供のためのお金のリテラシー教育 お金について考えてみよう
ここでは「お金」にまつわる、いろいろなお話をします。一見バラバラのお話のように見えるかもしれません。しかし、話が進んでいくにつれて、ジグソーパズルのピースのように、一つの絵を形作るために、お互いに関連しあっていることがわかってくるでしょう。ここで読んだことが、既に自分の持っている知識と結びつくこともあれば、日常生活の中で、連載の内容と関連する出来事を見聞きして、納得することもあるでしょう。そういう時に、頭の中で知識のネットワークが強化されます。この連載を読んで、興味を持ったり、疑問に思ったりしたら、続きは、自分で調べてみましょう。
宅配ピザの原価
宅配のピザの価格は、1枚2000円くらいのものが多いです。
このピザ1枚の原価はどのくらいなのでしょうか。ピザ1枚の材料費は概ね、販売価格の20%〜30%くらいだと言われています。
1枚2000円のピザならば、材料費は400円〜600円くらいと考えられます。
以下の話では、販売価格1枚2000円で、材料費400円のピザを前提に、話を進めます。
材料費の他、お店が払う経費には、
- 出店している場所の賃料
- 光熱費
- 従業員の人件費
- 宅配のバイクの維持費
- 燃料費
- 保険
- 広告費
など、様々なものがあります。その中でも、配達にかかる経費はとても高いのです。
立地場所や、一日の配達件数などにもよりますが、配達員1人、受付兼お店の販売担当1人として考えても、1年間にかかる配達に要する経費を、1時間あたりで計算すると、およそ4000円〜6000円くらいかかるようです。
以下、1時間あたり5000円と仮定して、話を進めてみます。
1時間あたりに販売できる、ピザの枚数はどうでしょう?
かなり効率良く注文が入り、注文先がお店から10分以内のところにあった場合でも、1時間5軒くらい回って、配達するのが限度でしょう。
それぞれ各1枚、合計5枚の注文があり配達できたとしても、1枚あたりの配達の経費はなんと、1000円にもなります。
なお、これは一日中、同じペース販売できた場合です。実際には、売れない時間帯(配達員さんは待機しているだけですが、給料は発生します)もあり、逆に1回の注文で、2枚以上のピザが売れたり、単価の高いピザが売れたりする場合もあるでしょう。
しかし、平均すると、ピザ1枚、売り上げに占める配達の経費は、1000円前後になります。
ということは、1枚のピザの売り上げによる利益(粗利)は、2000円-(材料費400円+配達経費1000円)=600円ということになります。(ここからさらに、上記の諸経費を引いた分が純利益になります。)
これで、最初に書いた、キャンペーンの意味が理解できます。
持ち帰りの場合は、配達にかかる経費がなくなるのです。それで利益(粗利)を計算してみましょう。
「2枚目半額」の場合は、(2000円+1000円)-材料費400円×2枚=2200円が利益(粗利)です。1枚あたり、1100円にもなります。
2枚目半額は、実は、お店にとって非常にメリットがあるキャンペーンというわけです。お店まで買いに来てくれるお客さんは大変ありがたい存在といえます。
お客の方から見たら、2枚目半額は、お買い得感があり、満足度が高いと考えられます。つまり、このキャンペーンは、双方にとってメリットの大きなキャンペーンだと言えます。販売数の増加につながるはずです。
最近では、「1枚目からでも半額」というキャンペーンを実施しているお店もあります。通常販売価格1枚2000円が1枚目半額なので、販売価格1000円、材料費400円のピザです。
これでも利益はでるのでしょうか?これでも上記の仮定であれば、1枚あたり600円の利益(粗利)がでます。
半額になったために、売上枚数が増えれば、配達にかかる経費を増やさずに、売り上げが増え、利益が増えることが期待されます。
もちろん、お客にとっても2枚目を買わなくても、1枚でも半額は、非常にお得な感じがします。つい、2枚買ってしまうかもしれません。ただし、ピザを自宅まで運ぶという手間は、自分で負担することになります。
それを差し引いてもお客がメリットを感じるのであれば、お店まで足を運んで、ピザを買う人が増えると期待できます。
販売のためにかかる経費をまとめて、販売コストと呼びますが、この販売コストを下げることで、利益を増やし、また、お客さんにも喜んでもらうために(当然売り上げも増えます)販売会社は様々な工夫をしています。
次は、紳士服販売店でよく見られる販売方法の例です。
スーツ2着目半額の秘密
紳士服販売店でスーツを買うと、2着目は半額になるというキャンペーンがあります。(ほとんど、1年中やっているような感じがするキャンペーンです)
これはどういうことなのでしょうか?紳士服店は、ピザの宅配のような配達の経費はかかっていないのですが...
実は、このキャンペーンによって、紳士服店も、販売コストをかけずに利益を増やすことができるのです。
1着5万のスーツの仕入れ値は、およそ5千円〜1万円くらいのようです。以下、1万円として話を進めます。
販売コストはどのくらいでしょうか?
紳士服販売店は、賃料の高いデパート等の中の良い場所に販売スペースを借りていたり、郊外のロードサイドに、大きな店舗を構えていたりして、お店の運営費がかかります。
また、販売のためには、販売員がお客につきっきりで対応して、サイズをはかったり、商品をすすめたり、お客の相談に乗ったりして、販売しなければなりません。
販売を伸ばすためには、腕のいい販売員さんを、お店に複数配置しなければなりません。つまり、人件費がかかります。
また、お店に来てもらうためには、常に宣伝も必要です。広告費がかかります。
それらのものを全部合わせると、1着あたりの販売コストは、3万円くらいになるようです。仕入れ値1万円を合わせて、4万円になりますので、5万円のスーツが1着売れると、1万円の利益となります。
ここで、2着目が登場します。2着目は半額ということで、お客さんに奨めて、もしも、買ってくれたらどうでしょう。
2着目は、2万5千円の売り上げ。しかし、1着目を買ったついでに買ってくれているので、2着目を売るための追加の販売コストが、かかっていないのと同じになります。
つまり、2着目の利益は、2万5千円から、仕入れ値の1万円を引いて、1万5千円の利益となり、1着目よりも大きな利益となります。
これが、紳士服2枚目半額のキャンペーンを、いつもやっている理由になります。お店にとってもお客にとっても、メリットのあるキャンペーンだと言えます。
両得の戦術
以上、販売コストという観点から、お店にとってもお客にとってもメリットのある販売戦術についてお話しました。
他にも、このような例はたくさんあります。もしも、身の回りで見つけたら、そのように販売している理由を考えてみると良いと思います。