保険のしくみはどうなっているのか-生命保険編
子供のためのお金のリテラシー教育 お金について考えてみよう
ここでは「お金」にまつわる、いろいろなお話をします。一見バラバラのお話のように見えるかもしれません。しかし、話が進んでいくにつれて、ジグソーパズルのピースのように、一つの絵を形作るために、お互いに関連しあっていることがわかってくるでしょう。ここで読んだことが、既に自分の持っている知識と結びつくこともあれば、日常生活の中で、連載の内容と関連する出来事を見聞きして、納得することもあるでしょう。そういう時に、頭の中で知識のネットワークが強化されます。この連載を読んで、興味を持ったり、疑問に思ったりしたら、続きは、自分で調べてみましょう。
保険とは?
保険を取り扱う保険会社には生命保険会社と損害保険会社の2種類があります。
そして、「保険」には大きく言って3つの種類があります。
生命保険会社のみが取り扱う生命保険(定期保険や終身保険など)、
損害保険会社のみが取り扱う損害保険(自動車保険や火災保険など)、
そして、どちらも取り扱うことができる、
第3分野の保険(傷害保険や医療保険など)です。
今回は、生命保険について取り上げます。
生命保険会社は保険料をたくさん払って大丈夫なのか?
生命保険は、加入者が万が一亡くなった場合に、あらかじめ指定された人が保険金を受け取るというものです。
加入者は、毎月、契約時に決められたお金を保険料として支払います。(なお、加入期間が決められているものを定期保険といいます。
また、加入期間が決められておらず一生涯加入できる保険を終身保険といいます)保険金は、支払う保険料よりもはるかに大きな額になっています。
例えば、10年間の定期保険で、30歳の人が加入すると、月々の保険料が1050円で、亡くなった場合の保険金が1000万円という保険があります。(社名は出しませんが、この原稿を書いている時点で実在している保険です)
もしも、この保険に加入した方が10年間健在であるならば、保険会社が受け取る保険料の合計は、1050円×12か月×10年=12万6千円です。
もしも、加入者が一人しかいなくて、この方が保険期間の終わりごろに亡くなった場合、保険会社の収支はどうなるでしょうか?
支払う保険金は1000万円ですから、差し引き、1000万円-12万6千円=ー987万4千円の大損失になってしまいます。もしも、加入後間すぐに亡くなられた場合はもっと赤字が大きくなります。
この契約は保険会社には、とても不利なように見えますが、保険会社には立派な本社ビルがあり、高いテレビコマーシャル料を払って大量にコマーシャルを流しているくらいですから、儲かっているように見えます。
では、どうして保険会社が成り立つのでしょう?そのわけは、2つあります。
生命保険会社が成り立つ仕組みー1 加入者数
加入者が多い
計算をしやすくするために、以下の計算では、上記の例の保険料は、10年分一括前払いだと仮定して話を進めていきます。
上記のケースでは、加入者が1人しかいなければ、もしもその方が10年間の間に亡くなった場合は、大赤字になりました。
しかし、加入者が1000人いたらどうなるでしょう?
そのうちの、999人が10年間健在で、1人だけが亡くなられたのであれば、保険会社の受取りは1億2600万円、支払いは1000万円なので、保険会社は1億1600万円の大幅利益になります。
もしも10人の方が亡くなったとしても、支払いは1億円ですから、2600万円の利益となります。加入者は多いほうが良いのです。
しかし、加入者が1000人いても、13人の方が亡くなると、支払い額が1億3千万円となり、400万円の赤字になります。
それならば、加入者がもっと多くて、10000人の場合ではどうなるでしょうか?
保険会社の受取りは、12億6000万円です。亡くなる方が126人までならば、赤字にはなりませんが、127人以上なら赤字になってしまいます。
もっと加入者を増やしても同様で、この保険では、加入者の1.26%以上の方が10年以内に亡くなられた場合は赤字になります。
実際には、保険会社の経営の経費がかかるので、亡くなる人の数がもっと少なくないと、赤字になってしまいます。
したがって、このケースでは、30歳の方が10年以内に亡くなる確率は、もっと小さなものという前提で、この保険料を設定しているはずです。
生命保険会社が成り立つ仕組みー2 標準生命表
標準生命表に基づいて保険料を算出している
日本人の平均寿命は、2020年の厚生労働省の発表によると、男性81.4歳。女性87.5歳となっています。
これは、厚生労働省が作成する「生命表」という表に基づく、0歳児の平均余命のことをいいます。
生命表とは、ある年齢の人がその後平均して何年生きるのかということを、実際の統計をもとにして推計した表です。当初は、明治24年~31年間の調査をもとに作られ、その後も実際の調査をもとにして、改訂され続けています。
保険会社は、厚生労働省の作成する生命表と似ていますが、公益社団法人日本アクチュアリー会の作成した「標準生命表」という表をもとに保険料を算出しています。
この表には各年齢の人の死亡率と平均余命(あと何年生きられるか)が載っています。
保険に加入している、一人ひとり個別の余命は誰にもわかりませんが、集団で考えると、ある年齢の集団で何人の方が保険加入期間に亡くなるのか、この表を使って計算によって推計することができるのです。
上記の例では、標準生命表により、30歳の方が40歳までの10年間で亡くなる確率は、およそ0.8%と推計できますので、10000人の方が加入された場合、亡くなる方はおおよそ80人と推計できるのです。(上記の保険の例ですと、保険会社の受け取り掛け金12億6000万円に対して、支払いする保険金はおよそ、8億くらいと想定できます。)
加入者の方が亡くなる確率が分かれば、それをもとにして、支払う保険金の額の予定が立てられます。さらに会社を運営するための事業費が得られるように考えて、保険料を算出します。
実際には、保険会社は受け取った保険料をただ寝かせておくわけではなく、資産運用で増やすこともします。たくさん増やせそうであれば、その分保険料を安くすることができます。
いま、ネットで契約できる保険が増えていて、従来型の保険よりも保険料が安く設定できるのは、従来型の保険よりも事業費がかからないからです。
統計的データが支える
おそらく普段はあまり気にされることのない、保険のしくみについて考えてみました。
もともと保険は、お互いを助け合うという精神のもとに考案されて発展してきました。
ただ、初期の頃は、統計学的に適正な保険料を算出することができず、加入者の年齢によって不公平感が強かったようです。
現代では、保険は、しっかりとした統計的なデータによって支えられていると言えます。
厚生労働省の生命表も、日本アクチュアリー会の標準生命表もネットで公開されていますので、興味があったら検索して、ご覧になってみてください。