投資物件用ローンの危険性 パート2
本音に迫るインタビュー「一足先に成功している大家さんに学ぼう!」
これはある不動産関連企業の企画記事です。副業で不動産投資を始めた、上場企業で働くビジネスパーソンへのインタビューという形で構成されています。記事の中で、最近投資用ワンルームマンションを購入したと言う「不動産投資家」は語ります。
不動産投資家の語ったこと…
「不労所得には以前から興味がありました。将来や老後への不安はずっとありました。何か準備したいと思っていたんです。
数千万円の都内のワンルームマンションを30年以上の長期ローンで買いました。借金の金額も返済する期間も最初は少し不安に感じていました。でも、実際やってみたらそんなことはありませんでした。
家賃収入でローン額を返済した残りの毎月の収支は1,000円以上プラスです。親身になって相談に乗り専門的なアドバイスをしてくださった担当の方にはとても感謝しています。」
不労所得を夢見ていた素人投資家が数千万円の借金をして、いまのところ毎月1,000円のプラスと言う内容です。物件を紹介して買わせた営業担当に対して述べた感謝の言葉まで掲載されています。
「専門家」はどんなアドバイスをしたのか?
典型的な内容は以下のようなものです。
・不動産投資はリスクとリターンのバランスが取れた優良な資産運用で、誰でも副業などで気軽に始めることが出来ます。
・でも、いくつか気をつけておかなければならない点もあります。
・代表的なのが家賃が下落するリスクや空室になって次の入居者が入らないリスクです。
・このリスクを少しでも少なくするのに有効なのが入居者に人気のある物件を購入することです。
・駅から徒歩7〜8分、できれば5分以内なら賃貸物件を探している入居希望者の目に留まりやすくなります。
・新築の場合、価格は割高ですが修繕費用の心配はなくなります。
・中古物件は部屋の状態によりリフォーム費用が掛かります。
・中古の築年数によっては本体価格が新築に比べてかなり割安です。結果的に表面利回りが高くなり投資としての旨みが増します。
不動産関連企業の担当者やアドバイザーはこうした説明の後に力強く続けます。
「弊社にはこれまでの豊富な取引実績があります。今なら非公開物件を含めて価値ある情報をいち早くあなただけにご紹介することが出来ます。あなたの不動産投資の成功のために全力でお手伝いします。安心してお任せください!」
アンケート記事の掲載
また「アンケート結果」と言う形式の記事もあります。「8割以上の人が来年も不動産投資を続けると回答!」といった内容です。
あたかも既存の不動産投資家は、安定的に成功して収益を上げており「今後も是非継続したい!」と考えていると言わんばかりです。多くの場合、真実は逆の場合が多いようです。
本当は損を出さずに売却して手仕舞いしたいと考えている人は少なからずいるのです。しかし、売却したくてもローン残高より低い価格でしか売れません。借金が残ってしまうので売ることが出来ず、やめたくてもやめられないのです。工夫された誘導記事です。初心者ならだまされる方は多いでしょう。
巧妙な「親身なアドバイス」の真の中身とは
先ほどの記事では、結局不動産投資で重要なのは「入居者に人気のある物件を購入すること」と説明している訳ですが、全くお話になりません。
なぜなら
「どのようにしてそのような物件を手に入れることが可能か?」
「そんな都合のいい物件を継続的に購入可能なのか?」
「しかもローン付けされた形で」
こうしたことに公正に答えないと意味をなさないのに、そこには一切触れていないからです。
もっともらしいことを並べ立て信用させて、長期的に見た場合債務者の返済能力を上回るローン付けした割高な物件を買わせてしまう。売ってしまえば、あとは所有者(債務者)と貸した銀行の問題です。不動産関連業者は関係ありません。
ひどいケースでは、しばらくすると営業担当者が突然転勤したり辞めたりして連絡が取れなくなります。属性が良くて収入が安定している顧客は、しばらく追加で投資物件を買うことができます。その場合は数年から最大10年くらいは営業担当者がいろいろな物件を紹介することがあります。
ときどき割安で買えたり、「いい感じ」で不動産投資が続きます。投資家本人が「自分には不動産投資の才能がある!」と思い始めたりすることも少なくありません。(実のところは…)
その間、不動産物件を持つことにより確定申告して経費を落とせるので節税できます。節税は短期間では特をした気持ちになります。しかし、節税は多額の収入があり納める税金が沢山あることが前提です。
最終的に売却する時の売却損を差し引いても本当に得なのでしょうか。時間もあなたの大切な資産です。投資したあなたの人生の時間に見合った金額でしょうか。よく考えて見てください。
不動産投資が終わる日、その日は突然やって来る!
その日は突然やってきます。あるタイミングで、銀行がこれ以上はこの人には貸せないと判断します。もう、不動産業者も追加の買いを勧めることが出来なくなります。
あとは老朽化して新規の入居者が入らなくなり、家賃を下げないとどうしようもなくなってしまった物件が手元にいくつも残るのみ。お金を生み出してくれる資産だったはずの不動産が『本当は負債』だったことを知る瞬間です。
その時あなたは損をしない価格で売り抜けたいと考えていることでしょう。しかし、つきあってきた不動産業者は買わせることが主業務なので、売る時にはかなり価格が下がります。中立な仲介業者もワンルームのような安い物件は扱いたくないですし、アパート一棟ものであっても買い取り業者につなぐことが多いです。結局、上限まで借りてしまい、これ以上借金が出来なくなったあなたには旨味はないのです。
銀行もまた追加融資するメリットはありません。あるのは返済してもらえなくなる危険性だけです。じわじわと家賃が下がり、保有物件の市場価格が下がり、周辺には新築物件が建築されライバルとなる物件が増えて、ますます厳しい状況に追い込まれて行きます。
不動産投資を始めても良い人
少し詳しくご説明しましたが、これぐらい具体的なシミュレーションが出来る人でないと不動産投資を始めることはオススメ出来ません。
想像してみてください。そんなに魅力的な資産運用ならば、既にその不動産関連業者さん自身が始めています。銀行員もやっていることでしょう。実際はほとんどの場合、答えはノーです。
彼らは本当は、最後まで上手く行くことなど極めて少ないことを、多くの顧客の末路を見て知っているのです。分かってみるとシンプルですが、意外と知らないという事実が不動産投資の世界にもあるのです。
本当に信頼できる不動産関連業者と、フェアなアドバイスをしてくれる銀行員が身近にいない場合、不動産投資を始めないことがあなたにとっての正解である場合が多いことを忘れないでください。
このスキームのカラクリ
価値ある「資産」であるはずの投資物件がなぜ不動産投資家の足を引っ張るようなことになってしまうのでしょうか?既に説明したように、ポイントはズバリ価格決定のメカニズムです。
買うときの価格、売るときの価格、その両方に問題があるのです。裏で行われている絶妙な連携プレーにより不動産業者と銀行とが価格を釣り上げたり、必要に応じて下げたりしているのです。
不動産の売買価格は銀行の与信枠と債務者の返済能力によって決まっている
市場では、価値がないものに継続的な需要は発生しなくなるので、供給が出来なくなります。価格を下げないとモノもサービスも動かなくなります。
ところが不動産は全く違います。素人の購入者のリテラシーの低さ(はっきり言うと「無知」)を利用して供給を作り出し、同時に需要も生み出します。
これは、
・最終的なリスクをとるのは「不動産投資家」であり、手数料も維持費も利息も支払わなければならない。
・売買する商品が利益を生み出す資産と説明されるが、借金で手に入れたものは負債そのもの。
・プロの手にかかれば、素人投資家は都合の良い売主にもなり、買主にも仕立て上げることが可能。売り価格も、買い価格も決めるのはプロ、素人は自分では決められない。
・価格は銀行の与信枠と不動産業者による家賃保証(サブリース)というまやかしで簡単に操作できる。業者と銀行の胸先三寸。
銀行と不動産関連業者が組めば容易なことなのです。
不動産業者のやり口とそれに乗っかる銀行融資
不動産業者のやりたい放題
はっきり言って不動産業者はやりたい放題です。良い例が、売主と買主との間に「中継ぎ」をいくつも重ねる悪しき慣習があります。
Aさんが持っているマンションをBさんに売却する間に不動産業者が複数入るケースもあります。当然のごとく入った業者の分だけ価格が上昇していきます。売主と、最終的な買主の価格差が何百万円にもなるわけです。
実は、属性により銀行が債務者に貸すことができる金額は初めから決まっています。いくつかありますが、分かりやすい指標の1つが年収の何倍までといった「倍率指標」です。
一定の良い属性の債務者の場合、一般的な人よりも年収に対する返済額の割合である「返済負担率」は高くても耐えることが出来ます。年収水準が高い人ほど余裕資金の実額が多くなりますから、銀行は遠慮なく貸し増しできます。
また、給与水準が高い人はそれまで忍耐強く国家資格や専門スキルを身に付けた人が多いのも事実です。彼らは簡単にはお手上げしないこともこれまでの実績で分かっています。こうした傾向も理解し、利用してギリギリ上限まで貸して行くのです。
まとめ
・お得な投資不動産物件を紹介し続ける相手は不動産業者にとって継続的に利益になる富裕層が基本。
・一般の人も顧客にするが銀行の融資が出ることが前提。
・すなわち銀行が貸してくれる間だけは不動産業者はある程度のお得感のある物件を紹介してくれるが、銀行の融資が止まった時点で終了。
・銀行は債務者の属性により年収の◯倍までなど、他にもいくつかの基準を持っている。
・その基準が天井を迎えると突然追加融資は止まる。従って銀行は損はしない。
・その時には既にあなたの周りには「信頼できる不動産業者」も「貸してくれる銀行」もいなくなっている。
・残っているのは年々価値の下がる不動産だけ。
・固定資産税、修繕費などの固定費は物件所有者が払い続けなければならない。
借り手がなかなかつかず、継続的な家賃収入が入らなくなっても維持費と返済金はずっと必要。その分赤字が毎月増大。
・損をしないで売却する出口戦略はなくなり、ずっとその負債(借金して手に入れた投資物件)を自分の給料からの持ち出し分で補填しながら維持する羽目になる。
・何も知らない自称不動産投資家がこのスキームに招き入れられ新規参入する。
・不動産業者と銀行だけは手堅く利益を確保する。以下繰り返し。。
この不毛な無限ループに入り込まないように十分気を付けてください。そして、信頼できる不動産の専門家、中立なアドバイスをしてくれる金融の専門家の友人や知人を持ってください。
不動産を売ることも融資を増やすことも必要のない立場の方で、不動産実務に詳しい人にアドバイスを受けることが大切です。
日本ではこうした完全に客観的な立場からのアドバイスを受けることは、とても難しいです。ほとんどの場合、その商品を売る人が「コンサルティング」して「アドバイス」しているので彼らのゴールはセールスであったり、コンサルティングといいながら不動産業者からのバックマージンが主な収入であるからです。
つまり中立なアドバイザーは極めて希少です。
こうしたバイアスを一切排除したリアルインテリジェンスは本当に稀有で価値あるプラットホームだと強く感じます。日本には他にはほぼ皆無ではないでしょうか!
次回予告
では、どうすれば不動産関連業者と銀行に誤魔化されないのか?
次回はその実践的な対処の仕方をご一緒に考えて行きましょう。