土地の売買契約~建築条件付き~
建築条件付きということは
建築条件付きの土地とは、土地の売主が買主に対して、指定のハウスメーカーや工務店に、設計と工事を一体で依頼することが条件となる土地のことを言います。そして、土地の売買契約から3か月以内に、建築工事請負契約を締結する必要があります。この期間に契約が成立しない場合は、土地の売買契約が解除となることから、設計期間も3か月以内と短いものになります。
土地を購入する時に思い出していただきたい
相談者は、初めての住まい造りの時、私たちがお手伝いをさせて頂きました。その方が建築条件付きの土地を取得し、その結果トラブルを抱えることになってしまった事例です。
以前から住みたいと思っていた等々力に、希少価値の高い土地が出たので、建築条件付きの土地でしたが、購入を決断します。条件付きの紐がはずせないので、今回は依頼できないと思い、私たちには相談をしないまま進めたそうです。
しかし、工事がだいぶ進んでから問題が噴出し、相談を受けることになります。問題意識の高い方にとっては、工事契約まで3か月という期間は短く、設計の品質を確保することが難しくなります。設計を無理に進めれば後々問題が出るであろうことは予想ができます。
また、設計施工であることから、工事の品質も懸念されるところです。建築条件付の土地が検討対象となる時には、設計や工事の品質確保について何が必要か、立ち止まり考えてみて下さい。
同等の能力や熱意をもっているわけではありません
相談者は「1級建築士の資格を持っている人が設計をすると聞いたので、同じだと思っていたら全く違いました。」と嘆きます。設計施工一貫方式の場合、設計者は工務店の社員か、下請けの設計事務所の方が担当することになります。
ここで気をつけなければならないことは、同じ資格者でも皆が同等の能力や資質を有しているわけではないと言うことです。また、工務店の指示で、その顔色を覗いながら動く者と、建築主の味方を自任する者とでは同じ対応のはずがありません。立場によるエネルギーの注ぎ方も違います。仕事量が圧倒的に違う上、誰のために仕事をしているかを考えれば、違いを感じるのはもっともなことです。
短期間で設計を完了するために、設計者は無理に進めなければならない場面もあっただろうと思います。相談者が不満に思うこともあったことでしょう。お手伝いした最初の住まいは、多くの要望に応えるためにやり取りも膨大で設計期間が1年以上に及びました。要求や設計の質に応じた環境が必要なのです。
素人は扱いやすいと考えている
相談者は、フリーランスで効果音等を創る仕事に従事しています。仕事のスペースとしてほぼ無音状態を保てる防音室が要求されます。一般的な住宅と異なり、特殊な仕様と自宅内の仕事場の位置付け等、求める品質は難易度の高い建築と言えます。
相談者は言います。「工務店の建築士に防音室をお願いして、わかりましたと承諾していたのに、防音室の工事をしてもいないのに防音工事の工事費を追加と言って請求してきたんです。その前には電気工事の配線工事費と言って請求が来たんですよ。こんなこと有りますか。とんでもない金額なんですよ。」
一般的に防音室は高額です。無音室はさらに高額ですので、驚きが想像できます。工事が始まってから何か注文したか、と伺うと何も注文していないとの事。また、「物を決める時、どちらでもいいですよと言って、サンプルを見せられ、好きなほうを選んだら、後になって差額の請求がきたんですよ。選べと言ったのだから、差額はないでしょう。同じ金額だと思いませんか。他にもいろいろあって本当に困る。」と相談を受ける側も驚く内容です。
設計施工で受注を確実にするために単価を安く見込んだり、必要なのにあえて別途にしたりして見積りを行い、内容の確認が素人故にできないことを良いことに、契約着工後に追加工事、変更工事と称して、工事費を膨らませる詐欺行為かと思ってしまいます。防音工事のような、高額な費用や予測のできない請求が、契約着工後に続くようでは、資金計画が破綻し、建物が完成できない可能性も出てきます。建築主にとっては大変な事故です。
一般的には、このようなことはありえません。工事契約前に注文していて、工事中に変更や新たな注文をしなければ追加費用はかかりません。支払いは契約で期日が定められているので、事あるごとに請求されることもありません。本来変更した場合は、増減の見積もりを作成して、納得の上で作業にかかるのが筋です。
そもそも、依頼した防音室や生活に、当たり前に必要な電気配線の費用が含まれない等、想像することもできません。素人は分からないものと高をくくり、扱いやすいものと考えた対応と言われても止むをえないでしょう。
要求が高い住宅は工務店の設計施工では難しい
相談者は初めての住まい造りでは、様々なハウスメーカーや工務店を山ほど廻り、あちらはできるがこちらはできないと言われ続け、思うようにならないと疑問を持ち私たちにたどりつきました。家造りについて問題意識や要求レベルの高い方です。
そのような方に対しては、設計と称しながら標準設計の採用や、ありきたりな既存の建物のコピペが常態化し、設計に本来必要な時間をかけて向き合う気持ちのない工務店の体制では、十分な対応が困難だったことでしょう。
設計期間中は建築主の要求に対して検討を加え、意思を確認しながら取捨選択を繰り返します。考える時間や打ち合わせに要する時間、図面を作成する時間が必要になり、これらを考え合わせると、要求難度の高い注文案件を3か月という短期間でまとめることは至難の業なのです。高い品質を求めるのであれば、建築条件付きの土地での設計施工はミスマッチと言わざるをえません。
設計図書が少ないと意思疎通は難しい
ハウスメーカーや工務店の設計図は、確認申請を通すために、必要な最低限の枚数しかない場合が多く、少ないときには2~3枚のこともあります。これで建築主が求める必要な情報を全て網羅することはできません。ハウスメーカーとして成功した著者による指南書には、建築営業は、施主と会ってから4回以内にクロージングしなければ成功とはいえないなどと記されています。いかに時間をかけないことが、利益につながるかを力説しています。彼らの利益を生む思想なのでしょうが、ここに建築主の利益はありません。
要望をくみ取り、十分な図面を作成するためには、相応の時間が必要になります。打ち合わせも3度4度で終わることはありません。図面の作成も、私たちが一般的な個人住宅を設計する場合、情報を漏れなく伝えるためには少なくても、40~50枚程度の設計図が必要になります。難易度があがれば100枚を超えることもあります。
情報量の少ない設計図、内容の見えない一式見積もり等、書かれていないことは施工者サイドに有利に解釈されることを意味します。建築主と取り決めたことであっても、記載されない情報は共有することができません。共有されなければ、齟齬が生じトラブルに繋がります。
図面に書いてないので、追加ですと言われればそれまでです。注文書などに一文でも明記されていれば救いようもありますが、証拠がなければ戦えません。書いてないのですから、施工者はどのようにでも主張ができ、設計の仕様も見積もりもブラックボックスになってしまいます。結果としてこのように理不尽な請求が出てもおかしくありません。必要な情報を網羅した十分な設計図が求められます。
味方を周りにおいてください
相談を頂いた段階では、お役に立てませんでした。もっと早い段階で相談があれば何らかのお役に立てたかと思うと、残念です。住まいに対して思いが強い方は、いろいろな問題が潜む建築条件付の敷地は避けたほうが賢明です。
建設会社を変えることができませんので、設計力や施工に関する力量が見えない上、味方がいない孤立無援の状況は好ましいことではありません。また、紹介事例のような、詐欺まがいの対応が起きてもおかしくない環境なのです。
住まいを建てる時には、このようなトラブルに巻き込まれないよう、専門家を周りにおいて下さい。建設会社などと利害関係のない建築士とともに、資産を守る体制を整えましょう。家造りは、明るい未来を夢見る、楽しいことであってほしいものです。