投資物件用ローンの危険性 パート1
不動産業者の口から発せられた意外なひと言とは
「◯◯様(筆者の名前)がそういうタイプのお考えの持ち主ならば、マンション投資には向いていないのかも知れませんね。本日はお忙しい中、貴重なお時間を頂戴してありがとうございました」
これは筆者が不動産業者から対面で直接言われた言葉です。場所は都心のターミナル駅の近くにある不動産会社の応接室です。応接セットは上場会社の役員室にあるようなとても高級感のある上質なものでした。
その場では直前まで営業担当者と営業部門の責任者が、熱心にワンルームマンション投資がいかに優れた資産運用手段であるかを語っていたのですが。
なぜ、ワンルームマンション不動産業者に会いに行ったのか?
日々の審査業務の中で、多くの顧客が将来の出口が見えないワンルームマンションを投資物件として購入するのを見続けています。どう考えても実際の価値より割高なワンルームマンションです。そして、最終的な出口戦略がないのです。とても、不思議に思っていました。
そして、それらの顧客が実際にどんな営業を受けているのかを知りたくて、不動産業者に直接話を聞きに行ったのです。
どのような対応だったか?
先方の対応は洗練されたとても感じの良いものでした。最初のうちは、テンポの良い会話で筆者の不動産投資経験、勤務先業種、年収などを上手に聞き出し、これなら売れると判断したのでしょう、具体的に都内のいくつかの物件を紹介して来ました。
2,500万円から3,500万円くらいの主に山手線内の主要な駅から徒歩9分以内の築8年〜15年の中古マンションでした。
先方の説明に対して簡単な質問をしてみたところ…
最初からとっておきの物件を紹介してきたらしく、2人から自信のある様子が見て取れました。先方から一通りワンルームマンション投資の仕組みと節税や家賃収入などの「メリット」の説明を聞きました。
これを踏まえて簡単な質問をしてみました。
- 最終的なワンルームマンション投資の出口戦略(自分が生きている間に売り抜ける場合と相続する場合)
- 仲介手数料や入居者の入れ替わり時に発生する補修費用、保有物件買い換え時のコストを含めたトータルの損益はどうなるのか、具体的な金額(想定のシミュレーションでも可)
質問を受けた2人はとても驚いた様子でした。
そしてその質問に直接答えることはせずに
「不動産投資は長い目で見ることが出来る中、リスク中リターンのバランスの取れた理想的な投資の1つであること」
「どのような物件を購入するかによって結果は様々であること」
「収益性の高い良質な物件を今後とも継続的に紹介すること」
を熱心に語り始めました。
不動産業者は見込み客側にリテラシーがあると深追いして来ない
その後の細かいやり取りは、この後詳しくご説明する内容と重複するのでここでは一旦割愛します。
結果として不動産業者は何回かの受け答えの末、先ほどのシンプルな2つの質問に最終的に答えることが出来なくなりました。そして冒頭のような台詞で彼らとのおよそ90分の面談が終了したのです。
これ以外にもセミナー形式のものや、複数法人を作る方法を指南するコンサルティングなど様々な不動産投資業者や専門家の人たちの話を聞きました。どのケースでも的を射た答えを得ることは出来ませんでした。
むしろ、中には銀行から見ると完全にアウトのものもありました。尚、完全にアウトの「スキーム」の場合、銀行は約定違反として一括返済を求めることが一般的です。
今回のテーマ【投資物件用ローンについて】
今回ご一緒に考えて行きたいテーマは、多くの危険が潜んでいるワンルームマンションなど投資物件用ローンについてです。
このテーマは本シリーズの中でも特に伝えたかったものの1つです。なぜ、そんなにお伝えしたいのでしょうか?
それはこのビジネスの基本的な仕組みが、売り手と買い手との間でフェアではないからです。そして、その度合いが増していると感じています。
情報、知識、経験、ネットワークが潤沢で圧倒的に有利なプロ達が、不動産や金融の知識について素人である顧客に対してあまりにも不誠実なことをしています。この世の混乱の要因の一端を見る思いです。
ここで言う「素人」は、もしかしたら皆さんが想像するような人物像とは少し異なっているかも知れません。彼らの中には高度な教育を受けた専門職、具体的には医師や弁護士などが含まれています。
また、伝統的な一部上場企業や時流に乗っている右肩上がりのIT系や総合コンサルなどのエリート会社員。そして中央省庁の官僚を含めた公務員、経営者などもいます。
こうした情報も人脈も豊富に持っていると思われている人々が、知らず知らずのうちにリスクの高いローンの債務者になっているのです。これはワンルームマンションなどの投資物件用ローンの特徴の1つです。
このシリーズの構成について
このテーマはとても深いですし、順を追ってご説明した方が理解し易いと思いますので、3回に分けてお伝えしたいと思います。
パート1では、登場人物を紹介します。現実に何が起こっているのか基本的な流れを理解していただきたいと思います。
パート2では、それらの仕組みを更に掘り下げます。各プレーヤー達が、具体的にどんな動機でいかなる役割を果たしているのか詳しく見ていきます。
パート3では、ではどうすれば良いのか。その処方箋をお伝え致します。
登場人物
では、まず登場人物の紹介です。今回は分かりやすくするために、原則として一部屋単位で売買するワンルームマンション投資を前提としています。
もっと大きな金額の投資である一棟買いのマンションやアパート、戸建てなどにも原則的な考え方は応用できます。
① 建築業者、② 販売業者、売主、③ 仲介業者 ④ 銀行、⑤ 買主の5者がこれからご説明する登場人物です。
それぞれの基本的な立場、役割を理解する
① 建築業者
文字通り賃貸用のワンルームマンションを建築します。
賃貸用物件の購入者は自分が住むわけではありません。貸すために購入する物件ですのでそれほど高い品質は求められていません。
見えるところは見栄えよく作りますが、設備面の耐久性や防音対策などの快適性は低い物件が多い傾向があります。
借主も駅徒歩◯分以内、書類上の㎡数やエントランスのオートロックなどのセキュリティ、バス、トイレの構造や独立洗面台といった一部の仕様のみで絞り込みをして内見することが多いのです。
建築コストを下げればその分ダイレクトに業者の利益に直結しますので「メリハリ」を付けた設計となります。
② 販売業者、売主
建築主がそのまま直接販売することもありますが、販売業者は見込み客や既に物件を保有するオーナーの名簿を持っていることから販売力が強いので、一棟丸ごと建築主から仕入れる形になることも多いのです。中古物件であれば、個人の所有者が売主になります。
③ 仲介業者
主に売主が個人の場合などは、仲介業者として不動産業者が入ります。また、間に複数の業者が入ることも珍しくありません。ここでもまた手数料が発生します。
④ 銀行
売買の話が進むと、不動産業者は予め提携しているいくつかの銀行に買主に融資が可能か仮の審査を依頼します。
銀行は買主の既存債務の残高や返済状況、各種属性によりいくらまで融資可能か仮審査を行いその結果を不動産業者に伝えます。
⑤ 買主
銀行が仮の承認を出せば、買主は購入手続きを進めることができます。
・買主→売主となる
買ってからしばらくは、その物件のオーナーとして家賃収入を得ることになります。
しかし理由はいくつかありますが、この買主だったオーナーが保有物件を売却する売主となって不動産会社に手続きを依頼することもしばしばあります。
このサイクルが繰り返されることによって、不動産業者も銀行も儲かる仕組みになっています。
高く売る仕組み
この場合、適正な物件価値で売却すると、購入価格に比べてかなり低い値段で売らなければならないこともあります。そうすると買った値段より低く売ることになり売却損が確定してしまいます。
そこで業者は売主と新たな買主を天秤にかけます。売主側にまだ追加購入の余力がある場合は売却損が出ないよう価格設定をします。そして、その割高な価格でも文句を買わない素人の「不動産投資家」に売り付けて行くのです。
しかし、売り付けられる買主のことも理解できます。例えば都心の築◯年の中古ワンルームマンションの適正価格を即座に答えられる一般の人が何パーセントいるでしょう?不動産市場の素人には無理なことです。
もし尋ねるとしても、適正価格を確かめる相手は不動産業者です。不動産業者は余程の事情が無い限り、自分たちに都合の良い金額を答えることになります。
「いまの不動産市況だとこのくらいの価格で流通していますよ」と言われたら信じるしかない訳です。
※そうではない信頼できる不動産の専門家が身近にいる場合はあなたは本当に幸運な方です。
業者が不動産投資初心者の素人の買主をあてがえば、銀行が融資する範囲で出来るだけ高く売ることが可能となります。このように投資物件不動産の価格は、買主の無知と銀行の融資額の上限によって釣り上げることが可能な仕組みになっています。
不動産業者の立派な応接セットの部屋で、
- 不動産を活用した賢い節税手法
- あなたの念願だった「不労所得」獲得への第一歩
- 将来の「成功した」自分の姿
を言葉巧みに語られて物件購入のサイン、押印をするリテラシーの低い買主には夢にも想像できないカラクリがそこにはあるのです。
売主も買主も実は同じ、両方とも素人
買主は、しばらくすると売主になり、損をしないためには更に不動産と金融のリテラシーの低い買主に売ることになります。どのような売主からどのような買主にいくらで売るか、いつまでそれを続けるのかは不動産業者と銀行が決めているのです。
次回は・・・
【投資物件用ローンの危険性 パート2】(不動産業者と銀行が収益を上げる手口)
次回は不動産業者と銀行の使っているスキームを更に掘り下げ、具体的にどんな手口で収益を上げているのか詳しく見ていきます。
今後の予告 住宅ローン等借金地獄の実態
コロナ禍のタイミングでローンの返済ができなくなってしまい、住宅ローンのケースだと最悪マイホームを手放さなければならない状況に追い込まれている債務者が増えています。
1回目の半年間の返済猶予期間の満了日を迎え、2回目の返済猶予(合計1年間の返済繰り延べ)の申込みが相次いでいます。
これはお金との付き合い方に元々内在していた混乱が、今回のコロナ禍をキッカケに顕在化しているものです。
【投資物件用ローンの危険性】シリーズのパート3終了後に、賢いお金との向き合い方において学ぶべき重要な点があるこのテーマについて、マスメディアや他のネット記事とはひと味違った視点でお伝えしたいと思います。