日経225・ダウ・為替・金などの相場の関連性をみるのは何のため?
先行指標として利用する
多くの人が思いつくのは「先行指標として利用できるから」ということではないだろうか。確かに、たとえば日経225がドル円の先行指標(あるいはその逆)として役に立つという意見はしばしば聞かれる。
とはいっても、連動性が強い相場は相互に影響を与えて短時間で価格が調整されるため、株や為替の保有時間が短いデイトレード(1日で売買を完結させる投資スタイル)やスキャルピング(数秒~数分で売買を完結させる投資スタイル)でなければ、あまり有効に使えないかもしれない。
相場や経済を予測する材料のひとつとして使う
もうひとつは、連動性が高い相場が連動しなかった場合や関連性が薄い相場が連動し始めたことを知ることで、相場や経済の変化や将来起こりそうな異常事態を察知するためという考え方である。
いつもと違う事態が進行すると、証券会社のアナリストや経済の専門家たちの間で話題になって、メディアで取り上げられることも多い。それらが参考になることもあるだろう。ただ、専門家同士の意見が一致しないことはよくあるので、個人投資家としては投資をやや慎重にする程度のほうが賢明なケースも少なくない。
今回は、先行指標としてや相場の見通しなどを分析するうえで役に立つ相場の関連性の基本を紹介する。もちろん、アフターコロナによって世界経済、マーケットは今までの常識が通用しない時代に突入するのかもしれない。しかし、基本や常識とされていることを知っていれば、尺度として活用することで対応力を上げられるだろう。
日経225とNYダウは本当に連動するのか?
株取引では、東京時間に所有していた銘柄の株価が上昇して「しめしめ」と思っていたら、翌朝に大きくギャップダウンして冷や汗が出るなどという経験をする。これは夜間のニューヨーク市場の影響を大きく受けたためであることが多い。
相場参加者の間では「アメリカがくしゃみをすると日本は風邪を引く」という言葉が使われている。つまり、ニューヨーク市場で少し株価が下がれば、日本の株価はそれよりもっと下がるというのである。これは本当だろうか。
結論からいえば、バブルが崩壊した後の2000年以降は、おおむねこの意見は正しい。日経225(日経平均株価)とNYダウ(ダウ平均株価)は連動している(※上の図表参照)。そして、NYダウが上昇したとき日経225はそれほど伸びず、逆にNYダウが下げたときは日経225が大きく連れ安する傾向がある。
そのため、「買いが大好き」というような日本の個人投資家の場合は、なんとももどかしい日々が続いているのかもしれない。たとえば、NYダウが最高値を付けても、日経225にはバブル最高値にチャレンジしようという動きにはなっていない。
東京市場は世界で最も早く開くマーケットといわれている。「日出ずる国である日本が世界の相場をひっぱることはないのか」と嘆く人もいるかもしれない。だが、そういう時期もあったのである。それが1986~1991年にかけてのバブル景気である。
あのころは三菱地所がロックフェラ―・センターを所有し、安田火災海上保険(当時)がゴッホのひまわりを約53億円で買っていた。この時期、日経225はNYダウを引っ張っていたといえるだろう。チャート上では、破竹の勢いで高値を突き進む日経225をNYダウはジリ高で控えめに追いかけていたのだ。
しかし、半世紀ぐらいのスパンでみれば、日経225とNYダウの相関係数は約0.44程度である。相関係数は「0.3~0.5:無関係」「0.5~0.7未満:相関がある」「0.7~0.9未満:強い相関がある」「0.9以上:非常に強い相関」と分類される指標だ。つまり、短期的に相関が高まる時期があるもの、長期でみると日経225とNYダウは無関係といえるのだ。
要するにアメリカ、そして日本の経済状況によって相場の関連性は変わる。コロナ禍によって経済に対する相場参加者の見解が分かれている今、過去の常識にとらわれずに柔軟な対応をしたいところだ。
原油とNYダウの関連性
米国産WTI原油の先物価格(NY原油)が2020年4月20日、史上初のマイナス価格となった。原油を巡ってどれだけの紛争が起きたかわからないほど貴重な資源なのに、買ったらお金をもらえるという不思議な事態が理解できなかった個人投資家も多いのではないだろうか。というより、このような状況がありうることを想定していた政府要人や経済アナリストなどがどれだけいたのかというレベルの異常事態だ。
さて、原油とNYダウの相場の関連性についてだが、これは多くの人が予測できるとおり相関性がある。「世界経済の血液」ともいわれる原油は、当然ながら、景気が悪くなると消費が落ち込んでしまう。コロナ禍のようなパンデミックが起きてしまえば、貯蔵施設の使用料で赤字になってしまうために、洋上に巨大タンカーがさまよう事態が起きてしまうのだ。
NYダウに関連した投資をしている場合には、原油の動きも注視しなければならない。近年はNYダウと日経225の連動性も強いため、日本の個人投資家も関係があることが多いだろう。特に注目したいのは、NYダウ(日経225)のボラティリティ(価格変動)が大きい相場環境においての毎週水曜日に発表される石油在庫統計だ。
この石油在庫統計は、名称のとおり石油がどれぐらい余っているかを示したデータだ。企業や個人が石油を使わなくなると在庫が増え、好景気などで石油の消費が活発になると在庫が減る。そして、基本的には在庫が減れば原油の価値は上がるため、NYダウや日経225もそれにつられて上昇することが多いのだ(逆の場合も同様)。
もちろん、単純に連動しない場合や原油が先行指標にならない場合もある。しかし、相場が荒れてくると毎週水曜日の石油在庫統計が注目されることは間違いない。今後、大荒れの相場、特に原油絡みの激動相場が発生しているときは、石油在庫統計に注目してみてはどうだろうか。
金(ゴールド)と為替(米ドル)の関連性
「有事の金」という言葉がある。政情不安などが起きると、安全資産の金(ゴールド)に資金が流入して価格が上がるという意味だ。実際、リーマンショック後の金価格は急激に上がり、その勢いは4年間ほど続いた。
金は米ドルと逆相関の関係にあるといわれる。金の国際価格は「1トロイオンス当たり米ドルでいくら」という形で表示されるため、この意見は論理的に正しいといえる。
しかし、金(ゴールド)と米ドルはマーケットが別々で、それぞれの相場参加者の思惑が交錯するため、数式のような逆相関になるとは限らない。経済の見通しが不確かで米ドルの価値が下がると金価格が上がりやすいのは確かだが、その「見通し」に絶対的な基準はないからだ。
そのため、投資家たちの判断の仕方によって、金と米ドルがどちらも上昇(下落)することもある。
ちなみに「米国金利が上がると金価格が下がる」という言葉もある。これは米国の金利が上がると信頼性の高い米ドルに資金が集まるうえ、利子・配当が出ない金を手放す動きが出るため金価格が下がるという意味だ。逆に「米国金利が下がると金価格が上がる」というのも相場のセオリーと考えられている。
もちろん、金利は政府が自国の経済・景気をコントロールする重要な手段として使っているので、実体経済の動向が各相場の根本にあることは間違いない。しかし、相場を整理して考えようとする際、金利・米ドル・金のチャート分析は役に立つだろう。
以上、いろいろな相場の関連性を見てきた。これ以外にも穀物や日経225オプション取引、米ドル以外の為替などを他の相場と関連付けて分析してみるのも面白い。
ただし、分析過多になって投資チャンスを逃しまったり、単なるこじつけになって自らリスクを高めたりしないように注意が必要だ。投資初心者なら、まずは主要な指標だけに絞って相場分析をしてみてはどうだろうか。