仕組債の種類と特徴
今回は、仕組債という金融商品について、
- 仕組債の概要と特徴
- 仕組債を理解する上で不可欠となるデリバティブの概要
- 仕組債の種類
の順番に紹介したいと思う。
仕組債の概要と特徴
まず、仕組債の概要と株式や債券などの商品にはない特徴について解説する。
現物取引にデリバティブ要素を組み合わせた金融商品
仕組債は、株式など一般的に取引が行われている債券にデリバティブ要素を組み合わせてカスタマイズした金融商品である。
デリバティブとは、株式や通貨、穀物などの現物取引から派生した金融商品で、大きく分けて先物取引やオプション取引、スワップ取引の3種類に分類される。
また、天候デリバティブなど、ちょっと変わったものもあるため、デリバティブという商品区分は多岐に渡ることを覚えておこう。
仕組債は、オプション取引とスワップ取引を組み合わせた商品が多く、これらの知識が不可欠なので、その概要と用語について説明していく。
オプション取引の概要
オプション取引とは、ある資産を将来売買する権利を取引する商品である。現物取引や先物取引のように、ポジションを解消するために反対売買をする必要がない。
不利な方向に価格が変動した場合は、権利を放棄して取引を終了できるのが特徴といえるだろう。
実際の運用では、現在の株価が1000円の株式について、行使価格を1000円とするコールオプション(買う権利)をプレミアム(保険料)100円で買った場合に、満期日の株価が1200円であれば権利を行使し、800円であれば放棄して800円の時価で購入すればいいということだ。
プットオプションを買った場合は、その逆になる。
オプション取引の買い手は、損失の上限はプレミアムの額ということになり、利益となるキャピタルゲインには上限(プットオプションの場合は原資産の最低価格まで)がない。
逆にオプションの売り手は、プレミアムが固定収益となる一方で、損失には上限がないことになるので、注意が必要といえるだろう。
スワップ取引の概要
スワップ取引とは、一定期間にわたって、固定金利と変動金利などの異なるタイプのキャッシュフローを交換する商品である。
例えば、金利見通しに適合する金利を調達することによって、キャッシュフローが安定するというメリットがあり、主に企業活動において不可欠なデリバティブとなっている。
金利水準に比べて割高なクーポンが特徴
仕組債は、金利水準と比較して高利回りのクーポンが設定されているのが大きな魅力だ。
日本では定期預金や国債の金利が近年0%に近い水準で推移しているのに対し、株式をベースとしたEB債ではクーポンが額面の10%程度に設定されている商品もみられる。しかし、仕組債のクーポンは、元本に対して発生する利息というよりも、オプション取引のプレミアムに近い性質があることに注意が必要だろう。
高額なクーポンは、高い受取プレミアムにより実現している仕組みが多く、元本毀損リスクについて目論見書などで慎重に吟味する必要がある。つまり、オプションの売りを商品設計上で内包していることから、高い利回りが提供できるというわけだ。
仕組債に投資する場合は、以下の2点を理解しておこう。
・クーポンを得る権利を購入する商品であること
・債券額面は利息を生む元本というより、損失の引当となる担保として機能する側面があること
ノックインとノックアウト
仕組債では、原資産の現在値を基準として、高い水準にノックアウト価格、低い水準にノックイン価格が設定される商品が多くある。ノックアウトにより、当初の額面が早期償還され、クーポン分の利益が実現する。
特徴としては、キャピタルゲインによる利益は得られないことがほとんどのため、商品購入時には理解すべきだろう。ノックインの効果は商品によって異なるが、元本に大きな含み損が生じることも多く、その効果はよく理解しておきたい点といえよう。
また、ノックアウト・ノックインの判定は、約定で設定された判定日に行う商品と、価格が到達した時点で直ちに執行される商品がある。
ここではまず、用語としてのみご理解いただきたい。
仕組債の種類
ベースとなる債券は外国為替や株式、金利、クレジット等があり、組み合わせられるデリバティブも多岐にわたることから、多種多様な特性がある。
外国為替系仕組債
外国為替系仕組債の主な商品は次の4種類がある。
- 順デュアル債
- ノックイン条項付き順デュアル債
- 逆デュアル債(リバース・デュアルカレンシー債)
- 為替スーパーボール債
これらはすべてデュアルカレンシー債と呼ばれるものである。
和訳すると二重通貨建債券という言い方にもなるが、あまりこのように呼ばれることはない。
払込みやクーポン、償還がそれぞれ円建てまたは外貨建てのいずれかとなる。
- 外貨建ての部分は、為替変動の影響を受ける。
- 払込みとクーポンが円建て、償還が外貨建て(ただし、ノックインしなかった場合は額面の円建て)となるものが順デュアル債
- 払込みと償還が円建て、クーポンが外貨建てとなるものが逆デュアル債
それぞれについて、詳しく解説する。
順デュアル債
満期前に設定された判定日に判定水準を下回る為替レートであった場合、外貨で償還され、それ以外の場合は額面で円建て償還される商品。
円建て償還される場合は、元本を毀損することなくクーポン分の運用益となるが、円安に振れてもキャピタルゲインを得ることはできない。
利益の上限がクーポン分となる一方で、損失の上限はクーポン分を控除した為替差損に及ぶため、オプションを売ってプレミアムを得る場合と類似の運用結果になる。
ノックイン条項付き順デュアル債
為替レートがノックイン水準に達した時点でただちにノックイン判定となり、外貨償還される特約が付された順デュアル債である。
ノックインの実現性がより高まる意味では不利な特約となるが、円高基調が続く場合は、満期を待たず早期の損切りが可能になるという面もある。
逆デュアル債(リバース・デュアルカレンシー債)
逆デュアル債は、払込みと償還が円建てで行われるため、元本を毀損するリスクはない。その分、クーポンも安く設定されている。
クーポンスワップにレバレッジをかけることでクーポンの利率に振幅を持たせる「パワーリバース・デュアルカレンシー債」もあるが、レバレッジ効果によりクーポンがゼロになるリスクもあることを理解しておこう。
また、満期まで10年以上資金を拘束される商品が多いため、余裕資金での投資が求められる点も留意しておこう。
さらに、満期前に発行体の選択により早期償還される特約が付されるケースがほとんどで、期待通りの運用結果が得られないことも想定される。
為替スーパーボール債
スーパーボール債は、順デュアル債にキャピタルゲインを組み込んだ商品である。円償還判定水準が1ドル=110円~130円のように幅をもって設定され、判定日の為替レートがこの範囲内にある場合は、1ドル=130円として円転償還される。
つまり、クーポンに加えて1ドル=20円分のキャピタルゲインを得ることができるということだ。
それ以外の場合は、外貨で償還されるのは順デュアル債と同様で、円高に振れた場合は元本を毀損するが、130円を超える円安となっている場合にも外貨で償還されることから、さらなるキャピタルゲインが得られることになる。
キャピタルゲインのメリットが大きい分、クーポンは順デュアル債よりも低く設定されている場合が多い。
株式系仕組債
株式系仕組債とは、株式や株式指数をベースにした商品で、個人投資家にも人気がある。
外国為替系仕組債の主な商品は次の2種類。
- 日経225リンク債
- EB債
日経225リンク債
日経平均株価(指数)をベースとした商品。ノックインした場合、償還額が指数に連動することになって元本に含み損が発生する。
当初の額面より低い指数で満期を迎えた場合は、元本毀損が確定することになる。満期までの間に指数がノックイン価格を下回らなければ、額面の償還とクーポンによる利回りが実現する仕組みとなっている。
EB債(他社株転換社債)
個別株の株価を参照する商品なので、リスクはそれなりに高めともいえるが、個人投資家にも人気のある商品である。
ノックインした場合、キャッシュによる償還に代えて、当初の原資産とは異なる他社株式が交付されるのが大きな特徴といえるだろう。
交付される株式によっては、その時価が当初額面を下回るリスクがあることに注意しよう。
金利系仕組債
金利を原資産とする商品では、元本を毀損するリスクほぼなく、市場金利よりも有利なクーポンを狙えるのが特徴といえる。
金利系仕組債の主な商品は次の3種類。
- リバースフローター債
- CMS債
- コーラブル債
リバースフローター債
クーポンが市場金利と逆相関となる商品。当初設定される固定金利と市場の変動金利との差がクーポンレートとなるため、市場金利が下落するほどクーポンレートが上がる仕組みとなっている。
一方で、市場金利が上昇した場合でも、クーポンレートがゼロ以下にはならない条件(クーポンフロア)が付されることが一般的なため、その場合はインフレリスクの懸念が生じる。
CMS債
当初数年間のクーポンレートは固定で、残存期間は長短金利のスプレッド(金利差)がクーポンレートとなる商品。金利の下落局面にあって、数年後にイールドカーブ(金利曲線)が上向くことが見込まれる場合に、固定金利とスプレッドによる恩恵が狙える。
コーラブル債
コーラブル債には、次のとおり2点の特徴がある。
- 一定期間毎にクーポンレートが上昇していく
- 発行体の選択により、早期償還をコールすることが可能である
前者は、市場金利が低位で推移する間は投資家に有利となるが、インフレに弱いというデメリットもある。
また、一方的に早期償還が執行される不利益に見合うクーポンであるかを勘案して投資判断する必要が出てくるだろう。
クレジット系仕組債
クレジット系仕組債は、デリバティブの一つであるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を用いた債券である。大口投資家向けの商品だが、クレジットリンク債について紹介したい。
クレジットリンク債
参照企業のクレジットリスクをCDSにより発行体と結びつけた商品。参照企業と発行体の2社分のクレジットリスクを取ることになるが、その分、単体の社債よりも高いクーポンが実現可能となっている。
その他の仕組債
投資家の便宜のためにデリバティブを用いて生成された債券として、リパッケージ債を紹介する。
リパッケージ債
すでに発行されている債券を担保にして、その債券から生じるキャッシュフローを組み替えて債券化した商品。
例えば、外貨建ての債券における為替リスクや、転換社債に附着するコールオプションによるリスクを選好しない投資家向けに、円建てにスワップしたり、コールオプション部分を売却して通常の社債としてリパックしたりして、債券化される。
一般的な仕組債とは異なり、原債券のリスクを分散していることから、クーポンは原債券より減少する。
まとめ
ここまで、仕組債の概要と主な商品について紹介してきた。仕組債は投資家のニーズに沿って生成された商品で、とかく高い利回りが強調されがちであるが、本質的なリスクに対して理解している営業員自体も少ないのが実情といえるだろう。
投資全般にいえることとして、高利回りにはリスクがつきもので、仕組債も例外ではない。
また、仕組債特有のリスクとして、流動性が低いため換金が容易ではなく、場合によっては数十年間資金が拘束される流動性リスクについても認識しておく必要があるだろう。商品の特性をよく理解した上で、投資判断を行うことを徹底してほしい。