金融機関の裏事情
個人の経験に基づいてのものなので、全ての銀行に該当するわけではないことをご了承いただきたい。
銀行のノルマ
銀行の営業は、「投資信託」「一時払い保険」「平準払い保険」、また金融機関によっては「定期預金」(現在では金余りの状況から定期預金の項目はなくなっているところが多い)等の項目があり、それぞれ細かく商品別にノルマが設定されている。つまり売り上げ目標を達成することが求められる。
個人営業の場合は上記の他に「住宅ローン」「個人向けローン(車、フリー、学資等)」のノルマもあり、こと細かくノルマが設定されているのが実状だ。
また、項目別にそれぞれポイントが設定されており、高いポイントの項目から重点的に潰していくことが求められるケースが多い。投資信託や一時払い保険のポイントが大きく、その時々の本部の施策で営業強化のポイントが変化していく。
収益目標は支店によって様々であり、新人でも2年目、3年目くらいになると数億円や二桁億円の販売が求められ、毎日数字の達成度チェックが行われ、内部で比較されてしまう
怒号や朝刊が飛ぶかと言われると、現在の銀行では昔のようなひどい仕打ちは受けないと思われるが、現在でも昔ながらの上司がいるところでは2時間説教などはザラと聞こえてくる。
証券会社のノルマ
証券会社のノルマも銀行と似ている。投資信託や一時払い保険だけでなく、現物株外国債券や仕組債等まで取り扱いが可能なことから、知識としてはより高度なものが求められるように聞こえるかもしれない。しかし、実際に支店の営業員が投資商品全般に精通しているかというと、それはかなり怪しい。
証券会社の場合、ホワイトボードに各営業員の手数料収入が張り出され、誰がどの程度取っているのかわかるようになっている。銀行のように預金残高がわからないことから、お金を持っている顧客を見つけることにも一苦労する。
ノルマに対しての上司の追い込み方は部下にもかなり強く、昔は会社四季報が後ろから飛んでくるとか、灰皿が飛んでくるとか言われていた。
数字に対しては朝一で本日中にどの程度獲得できるのか、前場が終わると午後何をセールスしてどのお客さんからどのくらい数字をとるのか、夕方には今日取れなかった分をいつどのお客さんでカバーして埋めるのか等、厳しい詰め方をする証券会社がほとんどだ。つまり、常に達成度が計られている。
現在では、収益ベースの目標から徐々に残高ベースの目標に移ってきている銀行や証券会社も多いようだ。顧客のリレーション維持を意識した戦略に転換する動きも強まってきているため、以前ほどの厳しいノルマや営業員を追い込みながらの詰め方でうつ病になったりする人は減少したのではないだろうか。
しかし、目標が残高維持ということになった場合でも、顧客に対してどうしても解約をさせないようにすることが意識され、そちらのノルマに対してのバイアスがかかることになる。
そのため、結果的には同じようにノルマ達成は必須というスタイルに変化はないのかもしれない。
銀行や証券会社の営業員の考え方
次に、銀行や証券会社の営業員の考え方を紹介したい。
収益ベースの(歩合)営業員の場合を例にとると、銀行でも証券会社でもまず考えるのが「収益率」だろう。投資信託は収益率が高く、支店の目標項目のポイントも基本的に高いことから投資信託の販売などに比重を置くことになる。
また、投資信託は銀行でも証券会社でも「募集物」と呼ばれ、投資信託が新規設定された場合の販売ノルマが銀行全体で存在する。銀行としても「これだけ売る」と投信会社に伝えている以上、数字の必達というのは命題であるため、かなりの圧力が加えられることが多い。
そのため、営業員としては全く売りたくもない顧客にとって収益性が低いと思われる商品も、徹底的に売ることを求められる。これは顧客ニーズとは関係なく自分自身のためのセールスということだ。投資信託は販売手数料が大きいものほど収益率が高いことから、本部や営業員はそこを意識している。
日経平均連動型のパッシブ運用をしているようなものは販売手数料や信託報酬が相対的に低い。また、日本国債での運用ファンド等も手数料は低くなっている。
一方で、トルコリラ建てなどの新興国の社債に投資しているというような明らかにリスクが高い(値動きが大きい)と思われるものほど収益率は相対的に高い。このカラクリとしては、流動性の薄い投資対象を組み合わせると収益率が上がるという商品組成の裏事情が存在する。
例として、トルコリラ建ての社債で通貨もトルコリラ建てで組成した商品としよう。新興国の社債そして通貨は流動性が低くスプレッドも広いため、約定にはスリッページを伴う。運用会社や販売する金融機関は、この部分を事実上、投信購入者に課金しているに等しく、手数料以外の収益率が非常に高い。
このように流動性が低く、スプレッドが広いものを組み合わせて提供することで収益が飛躍的に拡大することから、販売手数料も高く、利益率も大きいものになっている。収益率で考えると外貨建ての保険も利益率が高く、変額保険等は営業員に販売させたい商品の一つだろう。
証券会社でトレーダーをしていた時代に営業員からの質問に驚いたことがある。それは「手数料が高いものから順に商品を教えてください」というものだ。
当然、厳しいノルマが課せられているため、気持ちはわからなくもない。それでも、「手数料が高いものから順に教えてください」という質問は全く顧客本位の営業をする気がないという現れではないかと感じざるを得ない。
また、証券会社の支店の営業員に商品詳細の話をしても、正直ちゃんと伝わっているとは思えないケースが多くある。
つまり、本来営業というのは「顧客と仲良くなって買ってもらうこと」が営業の極意のはずだ。「知識をつけて顧客に伝えて理解して買ってもらうこと」、という顧客本位ではない営業員が数多くいることだ。
証券会社から勧められた時に一番注意したい商品は「仕組債」だと個人的には考えている。この商品設計はとてもシンプルで簡単なものが多いが、いくつかのデリバティブ(金融派生商品)取引を組み合わせて作られており、はっきり言って顧客から見ると単なるブラックな商品にすぎない。
為替のトレーダーを行っていた時に為替部分だけ仕組債の商品のオーダーを受けていたが、顧客に転嫁しているスプレッドの大きさには驚いた経験がある。これだけスプレッドで抜いて、顧客はかなり不利な位置からスタートしないといけないのではないかということだ。つまり、収益になる分岐点が非常に高いということだ。
この経験から、私自身が個人投資家として投資をする場合でも仕組債に手を出すことはないだろう。
証券会社が収益性の高い仕組債を募集開始すると、一気にこの商品だけ勧めていく営業員も多い。しかし、恐ろしいのは設計が簡単な以上、表面上の商品説明は営業員もできるのだが、その裏側でどのような取引が組み合わされて作られているのか、という点を理解している営業員は皆無だということだ。
銀行ではこの仕組債を販売している銀行もあるが、リスクとしては証券会社が売り出している仕組債の方が大きいものもあるというケースが多い。
まとめると、現在では収益ベースではなく残高ベースな目標設定に転換していることから、強引なセールスというのは行われないと推測される。
一方で、残高維持のために色々と投資信託を売却させて他の投資信託を購入させ、残高を維持させる方法が見られる(乗り換え)。また、投資信託を解約した分の資金や、定期預金からのお金を利用して、他の商品の購入を促す等の動きも見られるのではないだろうか。
収益ベースの営業マンの場合、投資信託や仕組債、外貨建ての商品を勧めてくることが多いため注意したい。また、「新しい投資信託の募集が開始されました」といった案内がきた場合は「自分に本当に合っているのか?」という点を考える必要がある。
そして、投資信託については、銀行でも証券会社でも収益源となるのは販売手数料だけではない。本当に大きい収益源は「信託報酬」であり、残高が残っている限り手数料として安定した収益を得ることができる部分だ。そのため、投資信託を購入するときは販売手数料だけではなく信託報酬にも目を向けて検討すべきだろう。
これから残高目標に転換しているということから、投資信託でも「信託報酬が高いもの」を勧められる可能性が高いと考えられる。その点を意識してセールスを受ける場合は話を聞いてみるべきだ。
そして、収益性の高いものや今後の戦略の変更が行われている中、自分に合ったものを自分自身で選択できるように、自身でも知識を身につけておくことが重要だろう。