為替価格は何で決まるか~為替の仕組みと値動きのポイント~
為替相場の基準となる通貨(基軸通貨)
基軸通貨とは、その名の通り為替相場の基準となる通貨のことだ。為替価格の軸となる部分なので確認しておこう。
もしも、基準となる通貨がなかった場合、円をユーロ(ヨーロッパで広く使われている通貨) 円をポンド(イギリスの通貨)に交換したいとき、円に対してそれぞれの国の通貨の交換レートが必要だ。もちろん、ユーロに対してもそれぞれの国の通貨の交換レートが存在することになる。
しかし、世界全体でみると流通している通貨は100種類以上だ。これらの通貨がそれぞれ独自に交換レートを設けると、非常に複雑になる。そのため、基準となる通貨をもとに、その通貨に対していくらになるかでレートを決定している。基準となる通貨のことを基軸通貨という。基軸通貨には「米ドル」が使用されている。
よって、ユーロと円の為替レートは、米ドルと円の価格、米ドルとユーロの価格によって決まる。つまり、米ドル以外の国との為替レートは、米ドルを基準にした他の通貨とのレートになり、これをクロス・レートと呼ぶ。
【豪ドルに対する円の価格を考えるイメージ】
☓ 円→ユーロ
具体的な計算
1ドル=100円 1ユーロ=1.13ドルの場合
1.13×100=113 1ユーロは113円となる。
為替価格を考えるときは、まず米ドルが基軸通貨になっていることを頭に入れておこう。
為替価格が決まる理由
それでは、より具体的に円と米ドルとの交換について考えてみよう。
あるときは1ドル=108円、またあるときは1ドル=107円など、価格は常に変動している。そもそも、この為替価格はどのようにして決まっているのだろうか。
価格は、株式と同様に円を売ってドルを買いたい人とドルを売って円を買いたい人のバランスで決まる。円を買いたい人が増えれば、円の価値は上がり、円を売りたいと思う人が増えれば、円の価値は下がる仕組みだ。そして、円の価格が上がるとともにドルの価格が下がる円高ドル安になり、ドルの価格が上がるとともに円の価格が下がる円安ドル高になる。
具体的にみてみよう。
1ドル108円が1ドル107円になった場合、ドルは安くなっている。つまり、108円ないと買えなかったドルが、107円あれば買えるようになり、108円もあれば1円お釣りがくる。つまり、円は高くなっている。
しかし、逆に1ドル108円が1ドル109円になった場合、ドルは高くなっている。つまり、108円あれば買えていたものが108円出しても買えなくなっており、円は安くなっている。
為替の制度
為替は、通貨を買いたい人と売りたい人のバランスで決まる。ただし、これは変動相場制だからだ。変動相場制は需要と供給のバランスで価格が決まる。
為替の制度には、変動相場制のほかにも固定相場制がある。しかし、固定相場制は為替レートが固定されているため、需要と供給で簡単に価格は変動せず、決められた範囲のみで変動する。固定相場制には、「ドルペッグ」と「通貨バスケット制」がある。
■ドルペッグ
自国の通貨と米ドルの為替レートを一定の割合で保つ。主に政情が不安定な国が通貨相場を安定させるためにアメリカと連動させている。中東の国に多い。
■ 通貨バスケット制
ドル、ユーロ、円など単品ではなく、組み合わせて為替価格を決定する。一つの通貨に大きな変動があっても、その他の通貨の変化がなければ為替価格が安定するため、中国などで採用されている。
新興国の通貨のなかには、固定相場制を利用している通貨もある。どの国も円と同じように為替価格が決まるわけではないので要注意だ。参考までに、米ドル、ユーロ、円、ポンドなどは変動相場制で、FXの通貨ペアでも人気が高い。
変動相場制における為替価格変動の要因
さらに踏み込んで考えてみよう。円の需要があるときとは、どのような状況なのだろうか。また、円の需要がないときの状況についても考えてみよう。
■ 円の需要があるとき
・日本の輸出が増加している
・日本に海外からたくさんの人が訪れ、日本のサービスを利用する
・物価が下がる
・海外の投資家が日本の株式や債券に投資する
輸出が増加しているということは、積極的に海外の人が日本の商品を円以外の外貨建てで購入するということだ。結果、ドルなどの外貨を売って円を買う動きが活発になる。海外の観光客は、ドルなどの外貨を円に両替する。つまり、ドルなどの外貨を売る動きが活発になる。海外の投資家が日本の株式や債券に投資する際も、同じ現象が起こる。また、物価が下がるとお金の価値は高まり、為替に影響を与える。
■ 円の需要がないとき
・日本の輸入が増加している
・日本から旅行や仕事で海外へ行く人が増える
・物価が上がる
・日本の投資家が積極的に海外の株や債券に投資する
輸入が増加しているということは、円をドルなどの外貨に替えて支払うということだ。円をドルなどの外貨に交換するため、円が売られるようになる。日本円を売り、ドルなどの外貨に替える動きが活発になるのだ。
また、日本の景気が悪くなり、海外の投資家たちが株価の下落を予想すると、日本株を売って投資資金を引きあげる場合もあるだろう。日本の投資家が海外の債券や株に投資する場合は、円を売りドルなどの外貨を買って取引する。さらに、物価が上昇すると、円の価値は下がっていく。
そのほかにも以下のような要因で為替価格が変動する。
■ 金利差
貯金を預けている場合、少しでも金利が高い銀行に預けた方が利益を得られる。世界に目を向けて、高い金利の国があれば、その国の銀行や債券に投資をしたほうがよいため、円が売られ、金利が高い国の通貨が買われる。
■ 経済指標
各国の政府や中央銀行が公表する経済に関する統計によっても変動する。例えば、雇用統計で雇用の状況が安定していると、賃金が上昇し、経済が安定する。経済が安定している国の通貨は積極的に買われる。
■ 市場への政府の介入(為替介入)
各国政府が為替相場を安定させる目的で、各国の通貨を売買することもある。為替介入があると、短期的に為替が大きく変動する。直近でも、金融システムと通貨の安定を目的に、2020年5月、インドネシア中央銀行の総裁が為替介入を行い、話題になった。
相場と取引価格の差
様々な要因で為替は変動している。為替価格は為替チャートやニュースで確認できる。終値、高値、安値などの値は、日本銀行が発表している。しかし、その価格で取引できるわけではない点に注意が必要だ。
実際には、為替レートに手数料が上乗せされる。銀行の手数料は概ね1米ドルにつき1円だ。しかし、ネットバンクなどでは、通貨限定で手数料を安くしたり、キャンペーン期間限定で0円にしたりするケースもみられる。このように、手数料は通貨の種類や金融機関、FX会社によって異なる。
まとめ
為替価格は、需要と供給のバランスで決まる。しかし、需要と供給のバランスによって、為替が変動する要因は複数あり、しかも複雑に絡み合っている。今後、需要が増えるのか、それとも供給が増えるのか、為替価格の変動を見極めるのは簡単ではない。
それでも、政府による為替の介入や時代の流れ、各国の経済指標などの情報によって、ある程度どうなるのか予測はできる。為替取引をする前に、為替レートの動きやニュースを確認して取引に役立てよう。