長期金利と短期金利
この記事では、長期金利や短期金利がよくわからない投資初心者に向けて基礎知識を解説する。また、投資への活用法なども紹介する。
そもそも金利とは
金利とは、預金や借金に対する利子のことで、一般的には割合(%)で表される。たとえば、銀行に100万円貯金して1年後に102万円になれば、金利は年率2%だ。金融機関や投資会社では年利や利率という言葉で表現することが多い。
混同しやすいのが利回りという言葉だ。これは投資金額に利子も含めた年単位の収益の割合(%)のことだ。年利2%の債券を100万円購入して5年後に売却する場合の例を下の表に示す。
短期金利・長期金利とは?
ここでは、短期金利・長期金利とは何か、代表的な金利などを解説する。
短期金利の代表は無担保コールレート翌日物
短期金利とは、取引期間が1年未満の金利のことだ。数日~数カ月の期間を指すことが多い。身近なところでは、普通預金や1年未満の定期預金の金利も、短期金利の取引に分類される。
最も代表的なのは「無担保コールレート翌日物」だ。これは日本の金融機関だけが参加できるインターバンク市場で取引される1日満期の金利のことをいう。なぜ、この金利が重要かというと、日本銀行が無担保コールレート翌日物を「政策金利」として金利水準をコントロールするために使っているからだ。
長期金利の代表は国債10年
長期金利とは、取引期間が1年以上の金利のことで、1年以上の定期預金や国債の金利である。長期金利の代表は日本国債10年の金利だ。固定金利型のローンには日本国債10年の金利が使われている。
企業の設備投資や住宅の購入のためなど借入期間が長い融資を受ける場合には、日本国債10年の金利が深く関係している。また、国内経済の動向にも影響を与えているのだ。
短期金利と長期金利はどのように決まるのか
「金利を見れば景気の動向がわかる」などと言われる。また、投資情報には「FRBによるFF(政策)金利の追加利下げが追い風か」といった金利に関連したコメントが載ることも多い。個人投資家として、金利についての知識を深めておきたいところだ。
短期金利を決める大きな要因は中央銀行の政策
短期金利は中央銀行の政策の影響を強く受ける。つまり、日本でいえば日本銀行、アメリカの場合は連邦準備理事会(FRB)の金融政策の方針によって、金利が上がったり下がったりするのだ。
そもそも何のために金利をコントロールするかというと、自国の経済を良好な状態にするためだ。原則的に、景気が過熱すれば政策金利を上げ、逆に景気が悪いときには下げる。政策金利を上げるということは、金融機関が今までより高い金利で資金を調達しなければならないことを意味する。
それでも利益を出すためには、企業や個人に対する融資において金利を引き上げなければならない。そのことで、設備投資や消費活動が抑制され、景気の過熱が抑えられるのだ。このような状態になると、通常、物価が下がる。つまり、インフレ(インフレーション)を抑える効果もあるのだ。これらを目的とした政策を「金融引き締め政策」と呼ぶ。
一方、景気が悪いときは、政策金利を下げる「金融緩和政策」が行われる。金利が下がれば、金融機関は今までより低い金利で資金調達ができるので、企業や個人への融資の金利を引き下げられる。結果として、設備投資や消費活動が活発になり、景気が上向く効果が期待できるだろう。
このような状態になると、通常、物価が上がるので、デフレ(デフレーション)を脱却する効果も期待できる。ただし、現在の日本経済のように、超低金利政策、マイナス金利政策を行っても、ターゲットにしている物価上昇が達成できないケースもある。
長期金利は市場参加者の予測が反映されやすい
長期金利も中央銀行の金利政策や政策金利と無関係ではない。しかし、短期金利に比べて長期金利は取引期間が長く不確定要因が多いため、市場参加者の予想や期待、懸念などが反映されやすいのが特徴だ。
たとえば、「今後インフレが進むだろう」「経済が回復するはずだ」などと考える市場関係者が多くなれば、資金需要が高まることが予想され、長期金利が上昇することになる。
10年国債の金利はこうした市場関係者の総意を表す、最も信頼性が高い指標とされている。日本国債では長期金利というとき、10年国債を指すことも多い。アメリカの10年国債は特に注目され、世界の市場関係者の総意を表す指標と言われている。
金利・景気・金融政策の関係・サイクル
長期金利は将来への市場関係者の思惑が織り込まれやすい。このことから、短期金利が上がるより前に長期金利が上がることが多いのだ。短期金利は消費者物価指数などのデータを集め、景気の動向を見極めてから段階的に金融政策を決定する。これも短期金利の動きが長期金利より遅れる要因だ。
身近な問題に置き換えると、たとえば固定金利選択方式や全期間固定金利方式の住宅ローンの金利が上がった後に、変動金利制の住宅ローンの金利が上昇することになる。
短期金利と長期金利の関係・サイクルを知っておくのは、住居購入や老後などのライフプランニングに役立つ。また、株式投資やFXなどにも応用できるだろう。あくまで一般的なモデルに過ぎないが、以下に金利と景気、金融政策の関係を示す。
金利の投資活用法
株式投資や不動産投資などに金利情報を活用したいと考えている人もいるのではないだろうか。実際、日経平均やダウ平均、為替レートなどの代表的指標に加えて、金利もチェックしている個人投資家もいる。特に長期金利は景気の体温計などとも呼ばれており、大まかな景気を知るためや相場観を養うために役立つだろう。とはいえ、何に注目してよいのかわからない人もいるのではないだろうか。多くの市場参加者に注目されているポイントを紹介する。
世界景気の流れを知るには米国10年国債をチェック
「世界の盟主としての力はなくなった」などと言われることもあるが、アメリカはやはり金融・投資の中心である。世界経済を見極める指標として、多くの市場参加者が頼りにしているのが米国10年国債である。大まかに言えば、アメリカの金利が上がり始めると、ユーロ圏がそれに追随し、その後に日本が続くという傾向がある。もちろん先のことはわからないが、統計的には検討の価値がある情報といえるだろう。
アメリカは巨大な消費国であるので、アメリカ経済がよくなることで日本やドイツのような輸出国の景気が回復する傾向もある。こうした複雑な経済要因を分析するのは容易ではないが、米国10年国債を日々チェックしていれば、世界経済の潮目が変わったのではないかということを察知しやすくなる。
逆イールドは景気後退シグナル
金融市場では10年国債と2年国債の金利差が非常に注目されている。特に10年国債の金利を2年国債の金利が下回ることを「逆イールド」と呼び、景気後退のシグナルとされているのだ。日本国債では、1989~1991年のバブル崩壊の際に逆イールドが発生している。
本来、長期金利の融資は資金回収までの期間が長くリスクが高いため、短期金利よりも高く設定されている。しかし、市場関係者の多くが景気後退を予測すると長期金利の融資を受けたい人が少なくなり需要が低下する。したがって、金利が下がってしまうのだ。10年国債のほうが2年国債の金利より将来を織り込む傾向があるのは、短期金利と長期金利の関係と同じように考えることができる。
米国国債の逆イールドは、1980年以降におけるアメリカの過去5回の景気後退前でいずれも発生している。日本における2001年前半からのITバブル崩壊局面や2007年後半からのリーマンショック局面の1年半以上前に発生しているため、先行指標としてはかなり早いシグナルだ。日本国民からすれば、不吉なものといえるかもしれない。いずれにしても、逆イールドの注目度が高い理由がわかるのではないだろうか。
近年では2019年の夏に、米国国債で逆イールドが発生したことが大いに話題になった。このことから、世界的な株安が一時的に引き起こされたといわれ、NYダウや翌日の日経平均も大幅安になった。
もちろん、逆イールドが発生したからといって、ただちに株安になるとは限らない。しかし、機関投資家や金融機関など大口のリスクオフにつながることもあるため、短期的な株や為替などの投資であっても、相場の急変に気を付けたいところだ。