無料で利用できるは本当に無料なのか?
子供のためのお金のリテラシー教育 お金について考えてみよう
ここでは「お金」にまつわる、いろいろなお話をします。一見バラバラのお話のように見えるかもしれません。しかし、話が進んでいくにつれて、ジグソーパズルのピースのように、一つの絵を形作るために、お互いに関連しあっていることがわかってくるでしょう。ここで読んだことが、既に自分の持っている知識と結びつくこともあれば、日常生活の中で、連載の内容と関連する出来事を見聞きして、納得することもあるでしょう。そういう時に、頭の中で知識のネットワークが強化されます。この連載を読んで、興味を持ったり、疑問に思ったりしたら、続きは、自分で調べてみましょう。
中学校の社会科の先生の話
映画の制作には多額のお金がかかります。映画会社は面白い映画を作ることで、たくさんのお客さんに映画館に来てもらって鑑賞料を支払ってもらい、利益を出していきます。もしも映画が面白くなくてお客さんが入らなければ映画会社は赤字になってしまいます。
一方、テレビ放送は、テレビ放送会社(以下、テレビ会社)に利用料金を支払わなくても無料で見ることができます。テレビ会社はニュース番組やドラマ、バラエティショーなど様々な番組を作っていますが、それらにはやはりたくさんの制作費がかかっているはずです。
しかし、私たちが利用料金を払わないとしたらテレビ会社はどこから収益を上げているのでしょう?これはもう言うまでもありませんが、テレビ・コマーシャル料です。テレビに広告を出している企業が広告料を支払っていて、それがテレビ会社の主要な収益源になっているのです。
私が中学生の時に社会科の授業で先生が教えてくれたことで非常に印象に残っていることがあります。それは、「テレビ会社が本当に見せたいものは、ドラマやニュース番組ではなくて、コマーシャルなのです。テレビ放送の本体は実はコマーシャルであり、ドラマやニュース番組はコマーシャルを見てもらうための”おまけ”にすぎないんです」ということです。
私はそれまで、テレビが無料であることに関しては何の疑問ももっていなかったし、テレビ番組がコマーシャルを見せるためにあるとは思っていなかったので、これには「はっ!」としたものです。
商売というものは、何かを作って売りに出したり、何らかのサービスを提供して対価を得るものです。テレビ会社はテレビを見ている人たちに対しては直接何も売りません。番組を無料で提供しているだけです。
それでは、テレビ会社が売っているものは何かと言えば、それは、「コマーシャルの時間枠」であり、売っている相手はコマーシャルを出したい企業です。各企業はテレビ会社から時間枠を買い、自社のコマーシャルを放送してもらいます。これがテレビ会社が商売として成り立つ基本的な仕組みです。
テレビ会社は、たくさんの人にコマーシャルを見てもらうために面白い番組を作ろうとしています。たくさんの人が見ていたかどうかは、「視聴率」を調査することによって明らかになります。
視聴率が悪ければ、コマーシャルを出した企業にとっては広告の効果が薄いものにお金を払うことに意味はありませんから、コマーシャルを出すのを嫌がることになるでしょう。
または料金の値下げを要求することでしょう。それはテレビ会社にとっては収益減になりますので、なんとか面白い番組を作って視聴率を上げようとします。テレビ会社が視聴率をとても気にするのは、それが会社の売り上げに大きくつながってくるからです。
ネット上の広告
テレビは今ではオールドメディアとなり、特に若い世代ではテレビを見る時間が大きく減ってきています。
それに合わせて企業が広告を出す先がテレビからネット上に比重が移ってきていて、現在はすでに広告業の売り上げは、テレビ広告よりもネット広告のほうが多くなっています。テレビに広告を出すよりもネット上に広告を出したほうが効果がある。この傾向は今後も拡大してくことでしょう。
ネットへの広告の出し方にはいろいろな方法があります。ウェブサイトに設置されているバナー広告は最もポピュラーなものですが、それ以外には、ネット検索をするとそれに関連した広告が検索結果の上位の方に表示される。YouTubeの動画初めの方に広告が出る。SNSのタイムラインの中広告が挿入される、等があります。
これは各企業がグーグルなどのネットサービス企業を通して出している広告です。これらをユーザがクリックした数、広告動画を一定時間見た数などに応じてグーグルなどのネットサービス会社に広告料金が入ることになります。
テレビの場合と同じ構図で、私たちネットサービスを利用している側の人間は、ネットサービスのユーザーではありますが、一部の有料サービス以外では、ネットサービス企業にお金を支払うことはありません。
ほとんどのサービスを無料で利用し、情報を得たり、ネット上で友達と交流したりと、いまではネットサービスを利用せずに暮らしてくことはほとんど考えられないくらい利用しています。しかしながら、グーグルなどのネットサービス企業に収入をもたらしてくれるお客様は、広告を出してくれる企業ということになります。
広告を出している企業は、業界によっても傾向に違いがありますが、売り上げ高の数%〜20%くらいを広告費として使っています。たとえば、
- 通販・サービス業15%〜20%程度
- 化粧品・健康食品関係10%〜20%程度
- 外食関係5%程度
- 不動産4%程度
- 自動車1〜2%程度
などとなっています。(2017年日本企業)
間接的に支払っている?
私たちは、有料サービスは除いて、テレビ会社やネットサービス会社には基本的には料金を支払っていないので、そこだけみれば完全に無料です。しかし、ほんとに真の意味での無料なのでしょうか?
先に出てきた社会科の先生の話の続きです。
「私たちの買う商品の価格には、各企業が支払った広告費分が含まれている。なので、テレビは無料だが、間接的に視聴料金を払っているのと同じ事なのだよ。だから企業がもし広告費を全く使わなければ、その分、商品の価格は安くなるはずなんだよ」ということです。
当時の私はこれにも「なるほど!」と思ったものです。(実は、スターバックス、テスラなどは広告費を全く使っていません。広告費をかけなくても商品に人気があるので買ってもらえるのですね。なので、これらの会社の商品の価格には広告費は含まれていないということになりますね)
インターネット広告も同様で、私たちは無料でネットサービス会社のサービスを使っていますが、それらの会社の収入は企業の出す広告費で成り立っているので、私たちは、その企業の商品を買うことによって間接的にネットサービスの料金を支払っているとも考えられます。
グーグルは年間で10兆円以上もの巨額な売り上げを上げていますが、そのうちの70%は広告収入(検索関連とYouTube広告費)です。フェイスブックは約6兆円の売り上げのうち実に98%が広告収入です。
逆に言えば、それだけの額を世界中の企業が広告費としてグーグルやフェイスブックに支払っているということです。(ちなみに、ソニーグループの売り上げが約9兆円、モノづくりをしているソニーの売り上げよりも、モノをつくらず広告を売っているグーグルの方が売上高が大きいのです)
無料の代償は?
インターネット企業は、様々な場所に広告を設置しています。しかし、それを見ている人にとって興味のないものであればクリックしてもらえず、広告の効果が薄いわけです。
それで現在では広告をたくさん見てもらうために、見ている人一人一人の好みに合わせた広告を出す仕組みを作っています。実は広告を配信しているネット企業は、ユーザの行動を追跡しています。これをトラッキングといいます。
ウェブサイトの中でどんなページを見ていたか?どのページに長く留まっていたか?どのウェブサイトを経由してきたのか?などの情報を取得することによりユーザの好みを知ることが出来るわけです。それによって、そのユーザの好みに合う広告を出し、広告を見てもらう率を高めているわけです。
私が温泉旅行に行こうと思って旅行会社のサイトで、いろいろな温泉宿を見ていました。その後、旅行とは全く関係のない他のサイトに飛んだのですが、そこにも先ほど旅行会社のサイトでみていたのと全く同じ温泉宿の広告が出てきました。同じような体験は多くの人がしているはずです。これがトラッキングによる効果です。
いまネット上の広告は、このような仕組みを使って一人一人の好みに応じた広告を届けるようにすることが主流になっています。これを行動ターゲティング広告と言います。
つまり私たちは、ネットサービスを無料で利用する代わりに自分の好みという個人情報を提供していることになります。各個人までが完全に特定されているわけではありませんが、無料で利用する代わりに、このような情報を提供することになる。ということは知っておいたほうがよいでしょう。
(しかし、関係のないサイトの中にまで自分の好みのものがピンポイントで出てきたりするのは、やはり監視されているような気持ちになりますね。また、何度も同じ広告が出てきて、あまりしつこくされると逆効果だとは思うことがあります)
なお、世界的な個人情報保護の必要性の高まりから、現在では、あるサイトに始めて訪れた時に「Cookie」を使用することに同意するか、という表示が出るようになっています。(全てのサイトではありません)
「Cookie」はサイト側のサーバーによって、パソコンの中に作られる小さなファイルです。ここにサイトの訪問先などの様々な情報が記録されています。それを使ってトラッキングが行われるのです。
トラッキングはあまり気持ちが良くないので拒否したいと思ったら、ブラウザの設定によりトラッキングを拒否することはできます。ただ、そうすると、ネットを利用する時に出てくる広告が自分には全く興味のないものの割合が増えるでしょう。
ネット広告によって自分が興味を持っていたけれど知らなかった物に会える良さ、というものもあるのでその辺は自分がどうバランスをとって利用してくのか考えることになります。
普段あたりまえのように利用している無料のサービスと、それを支える仕組み、私たちが無料サービスを受ける代わりに提出しているものがあるということについて考えてみました。
ネット上の広告はこれからもどんどん進歩していくはずです。それとどううまくつきあっていくか、進歩に合わせて考えていきたいです。